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9. 勉強会をしよう


 もうすぐ定期試験が始まる。

 毎度のことだが、試験日が近づくにつれ憂鬱な気分になってしまう。

 生徒会室で書類の仕分け作業をしているさなか、ルシンダは思わず「はぁ……」と小さく息を吐いた。


「溜め息なんてついてどうしたんだ、ルー?」


 ルシンダのことなら、か細い息づかいさえもユージーンは耳ざとく拾う。


「あ、すみません……。大したことじゃないです。試験が始まるのが嫌だなぁって思っただけで……」

「赤点を取らないか不安とか?」

「はい、本当に心配です。進級して勉強の内容も難しくなりましたし……」

「ルーなら大丈夫だと思うけど、そんなに心配だったら僕が勉強をみてあげようか?」

「えっ、ユージーン会長が?」


 突然の申し出にルシンダがぱちぱちと瞬く。


「ああ、去年の答案も見せてあげるし。一緒に勉強しよう」


 そういえば、前世でも試験前はよく兄の悠貴に勉強をみてもらっていた。両親に見つからないよう、こっそりと兄の部屋に行き、兄が出題する問題を解いて、二人で答え合わせをするのだ。


 勉強を見てもらった後は、兄が淹れてくれた紅茶を飲みながらたわいもないお喋りをして。それが楽しくて勉強を頑張っていたところもある。


 そんなことを思い出していたら、不意に誰かの咳払いが聞こえてきた。


「ルシンダの勉強は僕がみますからご心配なく」


 ユージーンを睨むように見ながら、クリスがそう主張する。


「……クリス、君は君でみてやればいいだろう。僕も教えてやったっていいじゃないか」

「教え方が違うせいでルシンダが混乱したら困ります」

「君はルーを独り占めしたいだけだろう?」


 ばちばちと火花を散らす二人をミアが楽しそうに眺める。けれど、兄たちの喧嘩にうろたえるルシンダに気づくと、ミアは一つ溜め息をつき、パンッと手を叩いた。


「言い争いなんてしないで、どうせなら、みんなで一緒に勉強するのはどうですか?」


 ミアの提案にユージーンとクリスが眉をひそめる。

 しかし、ルシンダはパッと顔を輝かせた。

 みんなで集まって勉強をするだなんて、きっと楽しそう。そんな風に思っている顔だった。


 ユージーンとクリスは不満げだったが、乗り気のルシンダに異を唱えることなどできるはずもなく、結局、生徒会メンバーで集まって勉強会を開催することになったのだった。



◇◇◇



 次の休日。約束していた勉強会を行うため、ルシンダたちは王宮へとやって来ていた。今日はここで一室を借りて勉強に励むのだ。


「みなさん、よくいらっしゃいました」


 案内された部屋に入ると、アーロンが笑顔で出迎えてくれた。


「今日はお部屋を貸してくださってありがとうございます。勉強会のために王宮のお部屋を貸していただくなんて、なんだか畏れ多いですけど……」

「そんな、大したことではありませんよ。それにルシンダならいつでも気軽に王宮に来てくださって構いませんよ。将来のために慣れてほしいですし」

「将来……?」

「はは、ここに来る用事なんてルーにはないだろう。さ、早く席について勉強を始めよう」


 首を傾げるルシンダを、ユージーンがさっと椅子に座らせる。すると、ライルが驚くほど自然にルシンダの左隣に腰掛けてきた。


「ルシンダ、この間、古語の現代訳が難しいと言っていただろう? いい参考書があるから、ルシンダに貸そうと思って持ってきたんだ」

「ありがとうございます、ライル。とても助かります!」

「それはよかった。次の試験には、このページが参考になると思う」

「あ、これですね」


 参考書を読みながら、ルシンダがふむふむと頷く。

 たしかに、最近の授業で習った箇所が分かりやすく解説されていて、今度の試験対策に役立ちそうだ。


(おすすめの参考書も貸してもらえたし、やっぱりみんなで集まって勉強会するのっていいな)


 笑顔でそんなことを考えていると、今度はいつの間にか右隣に座っていたアーロンが声をかけてきた。


「昨日、公務で欠席してしまった地理の授業の内容を教えてもらってもいいですか?」

「もちろんいいですよ。ちょうどノートを持ってきているのでお見せしますね」

「ありがとうございます。それにしても、ルシンダは字が丁寧で綺麗ですよね」

「そ、そうですか?」

「ええ、こんなに可愛らしい字で手紙なんてもらえたら嬉しいですね」


 アーロンがルシンダを見つめてにっこりと微笑むと、正面左の席からユージーンが呼びかけた。


「ルー、賢いアーロンは一人でノートを見るだけで十分だから、僕がルーの勉強をみよう。こっちの席においで」


 ユージーンが隣の空いている椅子の背もたれをぽんぽんと叩くと、今度は正面右からクリスが割り込んできた。


「ルシンダ、昨日二人きりで勉強したときに、また続きを教えると言っただろう? 今やろう」

「くっ、兄妹だからといって二人きりは狡いと言いたいけれど、将来のために家族の心証はよくしておきたい……」

「アーロン、お前、心の声が漏れているよ」


 当人が気づかぬ中、一人の少女の奪い合いが勃発していた煌びやかな室内に、バンッとテーブルを叩く音が響き渡る。

 皆が音の出どころへ顔を向けると、ミアが(いか)めしい表情で立ち上がり、一同を見下ろしていた。


「──みなさん、真面目に勉強する気あります?」


 ミアが迫力のこもった眼差しで、じろりと男たちを睨む。


「なぜ俺まで……」


 比較的、真面目に勉強しようとしていたライルがぼやくが、彼がルシンダの取り合いに火をつけたと見なしているミアは無視する。


「いいですか。ルシンダの試験の点数が悪かったら、みなさんのせいですからね」


 えっ、それは自分のせいでは……と言おうとしたルシンダは、ミアの眼力から「あなたは黙ってて」という念を感じ取ったので大人しく口をつぐんだ。


「…………よし、みんな公平に教え合おう」


 ミアの迫力に圧されたユージーンが他の三人に目配せする。


「……そうですね」

「ひとまず休戦といきましょう」

「俺も悪いのか……?」


 結局、ルシンダとの勉強は、四人で担当科目と時間を割り振って平等公平に行うこととなった。


 そしてこの勉強会のおかげかどうかは分からないが、ルシンダは後日実施された定期試験で学年10位という過去最高の順位を取ることができたのだった。


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