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5. 謎の噂と新たな出会い


 新緑が眩しい五月。

 今年もまた生徒総会の時期がきた。講堂に生徒が集まる。


 昨年の年末、ラスボス討伐や聖女覚醒などのイベントのせいで、あまりに慌ただしく過ぎていったが、そんな中でも生徒会選挙は通常通りに行われた。


 そして自薦や他薦での立候補、厳正な投票を経て、次の生徒会役員は大幅な入れ替わりを見せ……ることはなく。生徒会長ユージーン、副会長クリス、会計アーロン、書記ライルという、非常に順当な結果となった。


 さらに、ユージーンの懇願により今年もルシンダがサポートに入ることが決まっている。


(……まあ、ミアやサミュエルも手伝ってくれるらしいし、みんなと一緒にいられて楽しいからいいんだけどね)


 ユージーンたちが壇上に立って挨拶をするのを眺める。


 ちなみに、実はユージーンから「ルーに書記をやってもらいたいなぁ」とさりげなくねだられていたのを「私はサポートとか裏方のほうが性に合ってるから……」とやんわり断ったのだったが、改めて考えても英断だったなとしみじみ思う。


 自分があの場にいたら、絶対に真っ赤になって、蚊みたいに小さい声しか出なかっただろうし、自分の名前すら噛んでいたかもしれない。

 そんな想像をしてぶるりと震えていると、やがて役員たちの挨拶が始まった。


 ユージーンとクリスは去年に引き続き二度目ということで、貫禄さえ感じさせるような立派な挨拶だった。

 アーロンとライルもさすが王子と侯爵令息という立場だけあって堂々としたものだった。


 挨拶を終えた新役員に生徒たちが拍手を送る。


 四人とも本当に素晴らしかったので、労いの気持ちを込めて拍手をすれば、壇上のみんなが一斉に自分に視線を向けたのでルシンダは驚いた。

 こんなに大勢の生徒がいるのに、どうしてルシンダの居場所に気づいたのだろうか。


(張り切って大きな音で拍手しすぎちゃったのかな……)


 恥ずかしくなって赤くなった頬を両手で押さえると、なぜか四人ともますます笑みを深くするので訳がわからない。とりあえず、そのまま終会となったので、ミアと一緒に席を立った。


 帰り際、新入生の女子生徒たちがきゃあきゃあとはしゃいでいる声が耳に入る。


「生徒会メンバーの先輩たち、全員カッコよかったね!」

「ほんと素敵だったわね!」


 そんな楽しげな声が聞こえてきて、ルシンダは思わず顔を綻ばせた。

 自分が褒められるのは気恥ずかしくて慣れないけれど、自慢の家族と友人が褒められるのは素直に嬉しい。


「皆さん、恋人とか婚約者の方とかいるのかなぁ? いないんだったら、あたしも生徒会に入ればひょっとしたら……」

「馬鹿ね、あなた知らないの? 皆さん恋人も婚約者もいらっしゃらないけど、私たちなんかが入り込む隙間はないのよ」

「え〜、どうして!?」

「私の一つ上の姉から聞いたんだけどね……」


 そんなことを言いながら新入生の二人は一年生の教室へと向かって遠ざかっていってしまった。


(つ、続きが気になる……!)


 一つ上のお姉さんは一体何を話したのだろうか。ものすごく気になるが、まさか追いかけて聞き出すわけにもいかない。

 仕方なく二年生の教室に続く階段を上れば、隣を歩いていたミアがくすくすと笑い出した。


 生徒総会の間、ミアは「スマホ魔道具の改良で徹夜したから眠い……」と言って半分居眠り状態だった。

 それが最後に拍手して終会となったあたりから、急ににこにこと機嫌がよくなりだして、今もとても楽しそうだ。


「新入生にまで噂が広がるのも時間の問題ね」

「噂って、さっきの子が言おうとしてた話のこと?」

「そうそう」

「みんなが人気があるのは知ってるけど、噂なんて流れてたっけ?」

「ふふ、ルシンダはやっぱり分かってないのね」

「えっ、ミアは何か知ってるってこと?」


 自分はまったく見当もつかないが、ミアは乙女ゲームのヒロインだし、読心術的なスキルでもあるのだろうか。


「あ〜、やっぱり適度に鈍感なヒロインは楽しいわ〜」

「?? ヒロインはミアでしょう?」


 自分は本来、悪役令嬢のはずなのだから「ヒロイン」というのはおかしい。それに鈍感というのもちょっと心外だ。


「うふふ、本当はそうだった(・・・・・)んだけどね。いいのいいの、気にしないで。そのままの可愛いルシンダでいてね」


 妙に慈愛に満ちた眼差しを向けてくるミア。

 ミアはたまにこんな風に、まるで幼い子どもを愛でるような目で見つめてくるのだ。前世のミアはルシンダよりも一回り年上だったらしいので、そのせいかもしれない。


 自分だってもう16歳なのに……と思いつつも、ミアから心配されたり世話を焼かれたりするのは嫌ではないし、実を言うと結構嬉しかったりもする。


「もう、ミアは本当に訳が分からないんだから」


 少しだけ拗ねて見せてそっとミアと手を繋ぐと、ミアは目をきらきらと輝かせて、ルシンダをぎゅっと抱きしめた。


「可愛いけど、無自覚でこれは心配だわ……。何かあったら、すぐわたしに言うのよ」

「うん、ありがとうね」


 親友の気遣いに温かい気持ちになりながら、ルシンダはミアと手を繋いだまま教室へと向かった。



◇◇◇



 数日後の朝のホームルームの時間。

 レイがいつものように出欠を取って連絡事項を伝えた後、生徒たちを見渡しながら「それから……」と口を開いた。


「副担任のコリンズ先生が退職することになった」


 コリンズ先生は薬草学の教師だ。

 一年生の時も副担任はあまり出番がなかったし、そもそもこの教師は研究好きだとかで生徒との関わりに熱心ではなかったので、交流は最低限だった。


「それで、代わりの先生が今日から来てくれているので紹介する──サイラス先生」


 レイが廊下のほうへ呼びかけると、扉の向こうから若い男性が姿を現した。

 すらりとした体型で、少し長めの薄茶色の髪に淡い翠色の瞳が柔らかな印象だ。


「みなさん、はじめまして。薬草学担当のサイラス・アボットです。これから、この特魔クラスの副担任としても積極的に関わっていきたいと思っています。よろしくお願いします」


 コリンズ先生は、薬草の知識が豊富で優秀なのは間違いなかったが、授業中にも自分の世界に入りがちだったり、試験問題が難解だったりして生徒たちは苦労したものだった。


(もうすぐ試験が始まるけど、サイラス先生なら試験問題もそんなに難しくはしないでくれそう……)


 見るからに優しそうなサイラスを眺めつつ、そんなことを考えているうちにホームルームは終わりとなった。


「では、次の薬草学の授業でお会いしましょう」


 穏やかな笑みを浮かべながら、新任教師のサイラスは教室を出ていった。


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