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41. ミアは傍観者でいたい

本日3話目です。

 翌日、ミアと食堂でランチをとっていたときのこと。ルシンダがぽつりと呟いた。


「結局、お菓子の箱を旧校舎に隠したのは誰なんだろうね」


 菓子の箱を隠した人物が、ほぼ間違いなくルシンダにラブレターを書いた人物だと考えられる。


「あのとき旧校舎に来たのは、サミュエルと、彼が言うにはレイも来てたらしいから、その二人のどちらかのはずよ」

「うーん、レイ先生は違うと思うけどな。かと言って、サミュエルも私のお菓子なんて興味あるとは思えないし……」


 あれから、レイはいつも通り教師の鑑だし、サミュエルとは目も合わないくらいに無関係だ。


「私はむしろ二人とも怪しいと思うんだけど、決定打に欠けるわね……」

「ふふ、原作イベントにない事件だと、さすがのミアも悩むみたいだね」

「はぁ、本当にね……いえ、待って。確かに原作にない出来事だけど、原作イベントと無関係だとは限らないわね」

「どういうこと?」


 ルシンダが首を傾げると、ミアが真面目な顔で語り始めた。


「原作では来月、一年生最後の月に魔王が目覚めてラスボスバトルが発生するのよ。ユージーン先輩が闇堕ちしなくなったから、このイベントがどうなるのか不明だったけど、もしかするとこのラブレター事件は魔王覚醒と関係があるのかもしれない」

「……つまり?」

「ユージーンが魔王に乗っ取られる代わりに、別の形で魔王が現れるかもしれないってこと。このラブレター事件はそのためのイベントなのかも。時期的にもそれっぽいし、場所も原作どおり旧校舎が関わってるし、可能性は高いわ」

「えっ! それって、他の誰かが魔王に乗っ取られちゃうかもしれないってこと……?」

「ええ、残念ながらね」

「まあ、でもミアが光の魔術を使えるようになるはずだから大丈夫か」


 ルシンダがあっけらかんと言い放つと、ミアが珍しく焦り始めた。


「え、ちょっと待って、ものすごいプレッシャーなんだけど……。それに、よくよく考えると光の魔術なんかに目覚めたら色々面倒くさそう……」

「でもそういうストーリーなんじゃ……?」

「やだやだ、私はただの傍観者でいたいのよ。こうなったら絶対魔王を復活させないようにしてやるわ。ね、協力してちょうだい!」

「え……魔王戦なくすの?」


 それはちょっと勿体無いと思ってしまったルシンダにミアが畳みかける。


「あなた、ユージーンが魔王に乗っ取られるのは抵抗あるって言ってたでしょ。他の人ならいいって言うの?」

「うっ……」


 そう言われると言い返せない。ルシンダも積極的に他の人を巻き添えにしてまで魔王戦を発生させたい訳ではないのだ。

 

「分かったよ……。でも、協力って言ってもどうすればいいの?」

「原作だと、魔王が復活するのが三週間後だから、その日を越せればきっともう新たなフラグも立たないはず……。魔王復活の鍵になるのはたぶんユージーンと同じく、ラブレターの差出人の闇堕ちだろうから、それを阻止すれば何事もなく平和にエンディングを迎えられると思うわ!」

「闇堕ちを阻止って言われても、何をどうすればよいのやら……」

「そうねぇ。あのラブレターからするに、何かコンプレックスがあって自分に自信がないみたいだから、それを解消してあげればいいんじゃないかしら」

「そんな簡単に言うけど難しいよ……。しかもコンプレックスなんて、サミュエルはともかくとして、レイ先生はそんなのなさそうだけど」

「あなた、さりげに酷いこと言うわね……。まあ、とにかく二人とも褒めて褒めて褒めまくって自尊心を高めてあげればいいんじゃない?」

「なんか雑なアドバイス……」


 それから放課後にユージーンを呼び出し、魔王覚醒の可能性について話をして、協力を仰ぐことにした。

 ユージーンは自分の代わりにレイかサミュエルが魔王に乗っ取られるかもしれないと聞くと申し訳なく思ったようで、協力の願いを快く受け入れてくれた。



 そして翌日から、ルシンダの褒めまくり作戦が始まった。

 レイには、数学のことで質問をして教えてもらっては「分かりやすい!」「さすがレイ先生!」「先生が担任でよかった!」などと褒めちぎった。


 レイは「最近やたらと褒めてくれるな。褒めても何も出ないぞ」と若干怪しまれたけど、普通に嬉しそうにしていたので作戦の効果は出ていると思う。


「……そういえばお前、『告白の日』の焼き菓子はどうしたんだ?」

「あ、あれ、無くしたと思ったら運良く見つかったんですけど、傷んだりしてると悪いので処分しちゃいました」

「そうか、本命に渡せなくて残念だったな」

「あ、いえ、あれはもともと友達と一緒に食べようと思ってたものなんです」

「は? そうだったのか……まあ、お前らしいな」


 レイが急に笑い出す。なんだか楽しそうだ。


「お前ももう年頃だもんな。俺も覚悟しておくよ」

「??」


 よく分からないことを言われながら、頭をわしゃわしゃと撫でられた。

 レイは昔からこうやってルシンダを子供扱いしてくるのだ。実際、レイは大人で、ルシンダは子供なのだけれど。




 レイのほうはスムーズにいっているが、サミュエルのほうは少々厄介だ。

 前に林間学校で急斜面から滑り落ちそうになっていたのを助けて怒鳴られてから、彼に避けられているのは感じていた。

 でも、文化祭では無礼な先輩から助けようとしてくれて、わだかまりも解消するかと思っていたのに、先日の旧校舎での出来事でまた振り出しに戻ってしまったような感じだ。


 そんな関係でいきなり褒めようとするのは無理があるように思ったので、まずは登下校時に挨拶をしたり、ランチに誘ってみたり、授業でペアを組むときにお願いしてみたりと、距離を近づけることから始めた。


 最初は急に話しかけてくるようになったことに警戒していたのか、ランチやペアも断られてばかりだった。それでも諦めずに話しかけていたら、ぎこちないながらも少し打ち解けてくれたのを感じる。

 現に今、魔術の授業でサミュエルとペアを組むことに成功した。


「サミュエルは魔術の的当てが上手ですね。私はコントロールが悪くて……」

「……コントロールは良くても威力は君のほうが上だ」


 授業の話だからか、いつものように無視されることはなく、返事を返してもらえた。

 ここは押しどころだと、ルシンダは会話を続ける。


「そうかな。サミュエルみたいに狙いぴったりに当てられるのは本当にすごいと思います。コツとかあるんですか?」

「コツか……。距離感を掴むのは役に立つかもしれない。僕は虫採りで慣れているおかげか、距離感を掴むのは得意なんだ」

「なるほど、距離感ですね。意識して練習してみます。……それにしても、サミュエルは本当に虫が好きなんですね」

「そうだな。元は祖父の趣味に付き合っていただけなんだが、いつのまにか自分の趣味にもなってしまった。でも、君は虫が苦手だったな」


 意外にも、サミュエルはルシンダが虫嫌いなことを知っていた。


「はい、何もしてこなければ大丈夫なんですけど、こっちに飛んでこられるのが嫌で……。虫除けの道具とかがあるといいんですけど……。そうだ、サミュエルは何か虫除けにいいものを知らないですか⁉︎」


 この世界には残念なことに虫除けグッズが存在していない。それでも、虫に詳しいサミュエルなら何か知っているのではと思い、ルシンダは勢いこんで尋ねた。


「い、いや……。虫を寄ってこさせる道具ならあるが、寄せ付けないものは聞いたことがないな」


 急にルシンダが顔を近づけたせいか固まりながらも、虫除けグッズはないとサミュエルが答える。


「やっぱりないですか……」

「……でも、虫を集める道具の仕組みを応用すれば、逆に虫除けの道具も作れるかもしれない」


 あからさまに落ち込んだルシンダを可哀想に思ったのか、サミュエルは少し考えてからそんなことを言った。


「本当……⁉︎」


 一筋の希望を見つけ、ルシンダが瞳を輝かせる。


「た、試してみる価値はあると思う。祖父にも聞いてみよう」

「ありがとう……! もし実現したら本当に嬉しいです!」

「そ、そうか。じゃあ、的当ての練習に戻ろう」


 ルシンダが心からの感謝を伝えると、サミュエルはすぐに後ろを向いてしまったが、その耳はほのかに赤く染まっていた。

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