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40. 箱の行方

本日2話目です。

 焼き菓子の箱がなくなってしまった後、ルシンダとミアは生徒会室に行き、先ほど起こった不思議な出来事について、いつものメンバーに報告した。


「絶対におかしいです。あんな短い時間のうちに無くなっているなんて。後をつけられてたのかしら。一応、職員室に行って落とし物の届けがないか確認してみたけど、特にないと言われてしまったし……」

「たまたま通りすがった誰かが拾って持っていったということは?」

「その可能性もあるかもしれませんけど……」

「せっかくの作戦だったのに、私が虫に驚いちゃったからごめんね」


 責任を感じたルシンダがミアに謝る。

 するとミアがにやりと笑って言った。


「大丈夫。こんなこともあろうかとお菓子の箱にGPSを付けといたから」

「GPS⁉︎ ミアって本当にすごいね……」

「何のためにGPSなんて作ったのかが気になるけど……」


 ルシンダとユージーンは普通に反応してしまったが、アーロン、ライル、クリスはGPSという単語に首を傾げている。


「あ、GPSというのは、現在地を特定する魔道具のことです。まだ開発途中であまり精度は高くないんですけど」


 ミアが説明すると、クリスが「なるほど」と頷いた。この世界には存在しないもののはずだが、さすがの飲み込みの早さだ。


「……つまり、その魔道具で菓子の箱を持ち去った犯人が分かるかもしれないというわけか」

「そうです。本当にただの通りすがりのお菓子泥棒なだけかもしれませんけど……」

「ルシンダをつけ狙っている奴の可能性もある。少しでも手がかりが欲しい。探ってみてくれるか」

「はい」



 

 そうして、何かあった時のためにユージーンが生徒会室に残り、他のメンバーで箱の行方を追うことになった。

 ミアが魔石のついた方位磁針のような道具を鞄から取り出す。


「これが箱の場所を指し示してくれます」


 ミアが魔力を流すと方位磁針がくるくると回り、一つの方角を指し示した。

 魔道具を頼りに向かっていくと、辿り着いたのは学園の旧校舎だった。近々取り壊しが予定されている建物だ。


「この辺りのはずだけど……まさか、よりによってここだなんて」


 ミアが愕然としたように呟く。


「ここだと何かマズイの?」


 ルシンダが尋ねると、ミアが小声で教えてくれた。


「……この旧校舎がラスボスとの戦闘場所なのよ。今回の事件がラスボスと関係なければいいんだけど……」


 そんな話を聞くと、人気がないことも相まって不気味な建物に見えてくる。

 いきなり魔物とかが襲ってきたりしないだろうかと警戒して歩いていると、近くの雑木林からガサリと大きな音が聞こえた。


「な、なに⁉︎ ……って、サミュエル?」


 雑木林から現れたのは、クラスメートのサミュエルだった。なんでも、ここは冬でも虫が活動しているらしく、いつもこの辺りで虫を探しているらしい。

 人を見かけなかったか聞くと、たぶんレイと思われる人が旧校舎の様子を見に来ていたくらいだと言う。


「レイ先生か……。旧校舎に入ってみよう」

「何かあるとよくないから、二手に分かれましょう。ルシンダは外で待ってて」


 ミアがルシンダを気遣って、そう提案してくれた。

 ルシンダは自分も一緒に行きたいと思ったが、みんなを心配させるのは本心ではない。

 そう考えて頷くと、クリスも一緒に残ると言ってくれた。

 アーロン、ライル、ミアが旧校舎の中へと入っていくのを見送る。




(魔王戦はここが舞台なんだ……)


 旧校舎を見上げながら、ルシンダは思った。

 もしその時が来ても、ヒロインのミアがいれば光の魔術に目覚めてラスボスを倒せるはずだから心配はいらない。とにかく自分はミアが覚醒するまで時間稼ぎすることだけを考えよう。


 でもその場合、どういう戦術でいくのがいいだろうか。

 自分は雷属性の魔術が得意で、クリスは氷属性、アーロンは風属性、ライルは火属性、ユージーンは水属性が得意だと言っていた──。


 ルシンダが脳内で対魔王戦のシミュレーションを繰り広げる。

 無言のまま険しい顔をするルシンダを見て、寒がっていると思ったのか、クリスがポケットから革手袋を出して貸してくれた。


「これを着けるといい」

「あ、ありがとうございます。お兄様は大丈夫ですか?」

「僕は平気だ。それよりルシンダが風邪を引いたら困る」


 ルシンダの手を取って手袋を着けさせるクリスに、サミュエルが訝しげな眼差しを向ける。


「……何か言いたいことでもあるのか?」


 サミュエルの視線に気づいたクリスが問う。


「……お二人は血が繋がっていないのですよね?」

「血縁関係がないのは事実だが、何か問題が? まさか君もルシンダの出自のことでとやかく言うつもりか?」


 クリスが鋭い目つきでサミュエルを睨みつける。


「そ、そんなこと思っていません! ……ただ、実の兄妹ではないのに親しすぎるのではないかと。口さがないことを言う者もいますし、少し控えられては……」

「そんなことか。勝手に言わせておけばいい」

「あなたはよくても、彼女の──!」

「ねえ、あったわよー!」


 サミュエルが声を荒らげたところで、ミアの大きな声が聞こえてきた。

 ミアが片手に箱を抱えながら手を振っている。


「本当だ、私のお菓子……」


 先ほど失くした焼き菓子の箱だった。

 箱にはリボンがかけられたままで、開封された様子はない。


「どこにあったの?」

「旧校舎の物置みたいな部屋にあったわよ。箱とか壺とかがしまってあって、ちょっと臭かった……」


 ミアが顔をしかめて言う。アーロンとライルも同意して頷いた。


「日当たりが悪いせいか、壁紙にもカビが広がってたな。確かに早いところ取り壊したほうがよさそうだ」

「そうなんですね。見つけてくださって、ありがとうございました」


 ルシンダはミアから受け取ったお菓子の箱を眺めた。

 誰かに拾われた後、ぐちゃぐちゃになってしまっている可能性も考えていたけれど、どう見ても未開封で、思いの外丁寧に扱われていたようだ。

 だが、一度見知らぬ誰かの手に渡って、不衛生な場所に放置されていたものだ。

 みんなで食べようと思っていたけれど、破棄するしかないだろう。


「……これ、実はみんなで食べようと思って、昨日頑張って作ったんですけど、こんなことになっちゃったし、持ち帰って処分しますね」


 そう申し出ると、アーロンが驚いた顔をして言った。


「これ、ルシンダの手作りなんですか?」

「はい、久しぶりだったので、少し失敗してしまいましたが」

「そんなことはない。美味しかった」

「えっ、クリス先輩はもう召し上がったんですか」

「あ、昨日、味見をしてもらったの」


 ルシンダが言うと、アーロンとライルが顔を見合わせた。


「ルシンダの手作りなら、私も食べたいです」

「俺にもくれないか」


 アーロンとライルがねだってくる。気持ちはありがたいが、お腹でも壊したら大変だ。

 何かあったら良くないからと必死に断るが、なかなか諦めてくれないので、また今度新しく作って持ってくるからと言って、ようやく納得してもらえた。


 と、そこでサミュエルもいたことを思い出した。


「あの、サミュエルにもお菓子を作ってきますね」


 さっきはクリスが誤解して冷たい態度を取ってしまい、身内として申し訳ない。

 お詫びの気持ちでそう言ったのだが、サミュエルは暗い顔で俯いてしまった。


「……結構だ。では、僕はこれで」


 無感情な声音で返事をして、そのまま立ち去っていったのだった。

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