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22. 変化(1)

 翌日、クラスのホームルームでレイが文化祭について話を始めた。

 ここ王立魔術学園では毎年の秋に、二日間にわたって文化祭が開催される。

 レイの話によると、飲食物の模擬店や、レポートの発表、制作物の展示、ホールのステージを借りての演劇など、クラスごとにさまざまな出し物がされるらしい。


 準備には当然時間がかかるので、そろそろ何の出し物を行うか話し合わなくてはならない。

 担任のレイがさっそくクラスの生徒に意見を求めた。


「何かいい案がある者がいたら挙手してくれ」


 隣の席や後ろの席の友人と話し合う生徒たちの声で、教室内がざわめき始める。


「何がいいかしら?」

「殿下もいらっしゃるし、あんまり品位に欠けることはよくないわよね……?」

「王国の歴史の展示とか……?」


 なにやら第一王子であるアーロンに気を遣ってか、あまり面白くなさそうな内容に傾いている。

 そんな時、ミアが勢いよく手を挙げた。


「どうぶつカフェがいいと思います!」

「どうぶつカフェ?」


 おそらく人生で初めて聞いたであろう単語にレイが首を傾げる。


「はい、動物の楽園をテーマにして、可愛いぬいぐるみやお花で飾って、来た人たちが癒されるようなカフェを開くんです!」


 張り切って説明するミアだが、ものすごくファンシーな空間になりそうだ。

 クラスの他の生徒たちも興味はあるようだけれど、そんなことしていいのかと躊躇しているような雰囲気だ。たしかに、クラスにはこの国の王子もいるというのに、そんなにゆるふわな出し物で大丈夫なのか気になってしまう。

 ……と、そんな中、アーロンが手を挙げた。


「どうぶつカフェ、とても斬新でいいと思います。クラスのみんなには、私の立場のことは気にせずに文化祭を楽しんでほしいです」


 アーロンが爽やかな笑顔を浮かべてフォローする。さすが気配り上手だ。

 そして、この言葉で一気にミアの案への賛同が集まり、クラスの出し物はどうぶつカフェに決定した。


「では、クラスのまとめ役を決めたいと思うが、発案者のミア・ブルックスにやってもらえるだろうか」

「はい、もちろんです!」


 ミアがクラスリーダーを快諾し、文化祭の話し合いは無事に終了したのだった。



◇◇◇



 その日の放課後。ルシンダは生徒会室へ向かう前に、文化祭のことについてミアと話をしていた。


「原作でも、文化祭ではカフェをやっていたの?」

「そうね。カフェをやっていたのに間違いはないわ。……原作では普通のカフェだけど」


 一応原作どおりの展開のようだが、どうやら「どうぶつ」のほうはミアの趣味らしい。まあ、原作とまったく一緒のことをする必要もないし、好きに楽しめばいいだろう。


「ルシンダはこれから生徒会の手伝いでしょ? わたしも生徒会の手伝いに参加しようと思っていたんだけど、クラスリーダーになったから難しそうだわ」

「いいよ、気にしないで! こちらこそ、クラスの準備に参加できないこともあるかもしれなくてごめんね」

「ううん、大丈夫! 手伝いが必要な時は声を掛けるから。そういえば、アーロンとライルも生徒会の手伝いをするつもりみたいね。クラスのことはわたしに任せて、三人でお手伝い頑張って!」


 ミアに見送られ、ルシンダ、アーロン、ライルの三人で生徒会室を訪れた。ノックをしても返事がないので、そっと扉を開けてみると、中にいたのはユージーンとクリスの二人だけだった。集中しているのか、二人ともこちらに気づく様子もなく、無言で黙々と仕事をしている。


 新月の夜のような漆黒の髪に、鮮血のように紅い瞳のユージーン。

 まばゆい月の光のような銀髪に、透き通った氷のような水色の瞳のクリス。

 二人とも人目を引く美男子で、生徒会室の空気も心なしかきらきらと輝いて見える気がする。


 ルシンダがもう一度ノックをして挨拶をする。


「こんにちは。生徒会のお手伝いをさせていただきたいのですが……」

「……すまない、気がつかなかった。どうぞ入って」


 ユージーンが気がついて、にっこりと微笑んで言った。頬を緩めるユージーンに、クリスが訝しげな目を向ける。


「アーロンは公務がある時は忙しいだろうし、無理しなくていいからね」

「は、はい、お気遣いありがとうございます」

「三人にはこれから色々な仕事を教えていくけれど、まずは簡単な雑務を頼めるかな」

「任せてください」


 なんだか、ユージーンの雰囲気が昨日よりも柔らかくなっているような気がする。

 アーロンへの接し方も刺々しさがなくなって優しさが感じられ、アーロン本人も戸惑っているようだ。

 しかし、そんなことはお構いなしにユージーンはさっそく仕事の割り振りを始めた。


「ではまず、アーロンとライルの二人で、この備品を倉庫に返却してきてもらえるかな? 案内はクリスに頼むよ。ルシンダには書類の整理を頼みたいな」


 ユージーンが指差した先には、そこそこの大きさの木箱が二つ置いてある。だいぶ重そうだ。


「ユージーン、せっかくだからルシンダも連れて行ったほうがいいと思いますが」


 クリスが不服そうな面持ちで異議を唱える。ユージーンは「しかし……」などと言って譲らない姿勢を見せていたが、クリスの主張は正しい。ルシンダも、今後のために倉庫の場所を確認しておくべきだと思い、ユージーンに掛け合ってみた。


「ユージーン会長、私も倉庫の場所を覚えたいので一緒についていって、書類整理は戻ってきてからでもいいですか?」

「……そうだね。じゃあ、戻ってきてからお願いするよ」


 ルシンダの提案にユージーンは少し残念そうな顔をしながらも頷いてくれた。




 四人で揃って倉庫へと向かう途中、ルシンダはユージーンの違和感について話題に出してみた。


「今日はユージーン会長の機嫌がよさそうでしたね」

「昨日がたまたま機嫌が悪かったんじゃないか?」


 ライルが言うが、クリスが即座に否定した。


「いや、昨日のユージーンがいつもの彼だ。今日は明らかにおかしい」

「そうですね、今日はなんだか別人みたいです……」


 ユージーンのことをこの中で一番知っているであろうアーロンまで同意するのだから、やはりおかしいのだ。理由はまったく分からないが。


 そして倉庫に荷物を運び終えて生徒会室に戻ると、ユージーンの異変はとどまることなく、さらに加速していた。

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