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16. アクシデント

 林間学校二日目。

 今日の予定はハイキングで、また班ごとに分かれての活動だ。

 低山を登って頂上を目指すのだが、これが意外と足にくる。他の班の女子たちもかなり辛いようで、頻繁に休憩を取っていた。


(このくらいの山道、前世なら余裕だったはずなのに。この体だときついなぁ……)


 毎日馬車で通学しているせいだろうか。体力の無さに落ち込んでしまう。

 これは魔術の訓練だけでなく、運動をして体力もつけたほうが良さそうだ。将来、旅に出るというのに、こんな体たらくでは休憩ばかりになってしまう。


 そんなことを考えてため息をついていると、ライルが心配そうに顔を覗き込んできた。


「疲れてそうだな。少し休むか」

「ちょっと足が重いですけど、まだ平気です。……ミアは大丈夫?」

「わたしも足がヤバいけど、今休んだら動けなくなりそうだから、このまま頂上を目指したいかも……」


 ミアがどこからか拾ってきた木の棒を杖代わりにし、足をさすりながら答える。


「たしかに、頂上に登ってからゆっくり休みたいかもね……」

「じゃあ、そうするか。荷物は俺が持つから貸してくれ」

「はい、ありがとうございます」


 ライルに水筒などが入った荷物を預けて、また歩き出す。

 途中、ライルがルシンダにも木の棒を見つけてきてくれたり、少し段差のあるところで手を貸したりしてくれたおかげで、早めに頂上に着くことができた。


 その後もライルはルシンダたちを気遣ってくれ、先に頂上で待っているはずの先生を探してくるから先に座って休んでいるようにと言って、一人で行ってしまった。


「私たちが一番乗りみたいだね」

「やっと休める〜……」


 ルシンダとミアは、へたへたとベンチに座り込み、水筒の水で喉を潤す。


「疲れたけど、ちょっと達成感……」

「まあ、意外と景色もいいし、頑張ったかいはあったわね……」

「本当だ、いい眺め」


 やっと人心地がついて周りに気を配る余裕が出てきた。

 空は青く澄み渡り、遠くにそびえる霊峰スピラは山頂に雪を戴く姿が神々しい。


 目の前に広がる美しい自然の風景を眺めていると、清々しく爽やかな気持ちになるのを感じる。


 そのまま綺麗な景色に見惚れていると、すぐ横でガサガサと音がした。ルシンダが顔を向けると、サミュエルがまた虫を追いかけて草をかきわけているところだった。


(あ、サミュエルもいたんだった……)


 同じ班のメンバーなのに、すっかり存在を忘れていた。


(サミュエルはあんなに元気で、意外と体力があるんだなぁ。虫捕りが好きそうだから、山道とかに慣れてるのかな)


 ぼんやりとそんなことを考えていたら、「うわっ!」という叫び声とともに突然サミュエルの姿が消えた。


「サ、サミュエル⁉︎」


 嫌な予感がしたルシンダが慌てて駆け寄ると、サミュエルが急斜面で足を滑らせたのか、木の根に手をかけたまま崖で宙吊りになっていた。

 どうやら自力では這い上がれないようだ。


「サミュエル、掴まって!」


 ルシンダが地面に膝をついて片手を伸ばす。なんとかサミュエルの手を掴んだが、なかなか引き上げることができない。


(ダメだ……。私の力じゃ助けられない……)


 サミュエルが縋るような瞳で見つめてくる。どうしようかと焦ったその時、背後から大きな手が現れてサミュエルをあっという間に引き上げてくれた。


「……ライル! 助けてくれてありがとうございます」


 手を貸してくれたのはライルだった。どうやら、ミアが助けを呼びに行ってくれたようだった。


「いや、間に合ってよかった。二人とも怪我はないか?」

「私は……膝と手首のところを少し擦りむいたくらいで大丈夫です」

「そうか……。レイ先生に言って手当てしてもらおう。サミュエルは大丈夫か?」


 ライルが尋ねると、サミュエルは真っ赤な顔で睨むような視線をルシンダに向けた。


「きっ、君が僕を助けようとなんてするから……!」


 そう震え声で叫ぶと、そのままどこかへ走って行ってしまった。


「なんだアイツ……」


 二人でポカンとしていると、ミアがレイを連れてきてくれ、すぐに手当てをしてもらえた。

 そのうちサミュエルも戻ってきたが、無言で睨んでくるばかりで、結局ハイキング中に再び言葉を交わすことはなかった。

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