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30. 数年ぶりの訪問


「ルー、寝つけないのか?」

「あ、お兄ちゃん……」


 屋敷のバルコニーに出て星を眺めていたルシンダは、ユージーンに声をかけられ、どきりとして振り返った。


「えっと、ちょっと目が冴えちゃったから、気分転換に外の空気でも吸おうと思って……」


 眠れないのは、きっと明日の予定のせいだろう。

 明日はクリスの屋敷──数年前までルシンダも暮らしていたランカスター邸へと招かれているのだ。


 そのことを考えると、胸がそわそわしてなかなか寝つくことができなかった。


 みんな、こんなときはどうしているのだろう。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんはさ、ミアのことどう思ってるの?」


 妹からの不意打ちすぎる問いかけに、ユージーンが激しく咳きこむ。


「な、急に何を言い出すんだ!?」

「ミアのこと好きじゃないの?」

「そ、そんなことは言っていないが、ミア嬢とは転生仲間で彼女はルーのことを大切にしてくれるから兄として感謝しているし明るい性格だから居心地がいいというか……」


 突然、言い訳がましいことを長々と語り始める兄の姿に、ルシンダがふふっと笑い出す。


「そういえば、前にミアが可愛げのある人が好みだって言ってたな」

「可愛げ……? 可愛げというのはどういう──じゃなくて」


 一瞬、真面目な顔で考え込もうとしていたユージーンがぶんぶんと首を横に振る。


「いきなりそんな話をしだすなんて……もしかして、クリスのことを考えてるのか?」

「……うん」


 ルシンダが小さな声で返事する。

 暗がりの中でも分かるくらいに、頬を赤く染め、エメラルドのような瞳を潤ませている。


 愛する妹の心をこんな風に乱れさせるなんて、とユージーンは苛立ちを覚えるが、それと同時に、よかったと思う気持ちがあるのもたしかだった。


 最初は感情のままに噛みついてきて、ルシンダを任せるには頼りない若造だと思っていた。


 今、クリスならルシンダの相手として考えてもいいと思うくらいには、彼を信用している。


 実際、身分的にもさほど問題はないし、能力もずば抜けている。間違いなく王国一の召喚術師だろう。

 ルシンダと自分を本当の家族にしてくれたことも、なかなか評価できる。


 ユージーンがルシンダの髪を耳にかけ、愛おしそうに頭を撫でる。


「いつか、ルーが僕たち家族だけのルーではなくなる日を思うと寂しい気持ちはある。でも、ルーの幸せが僕たちの一番の願いなんだ。だから、ルーは自分の幸せを見つけるんだよ」

「お兄ちゃん……」


 ルシンダがユージーンの胸に抱きつくと、ユージーンもルシンダを優しく抱きしめた。


「お兄ちゃん……私、ちゃんと幸せを掴むよ」

「ルーなら大丈夫だよ」


 抱き合う二人の兄妹の頭上を、一条の流れ星が流れていった。



◇◇◇



「お、お邪魔します」


 久々のランカスター邸を前にして、ルシンダがぎこちなく足を踏み出す。その緊張に満ちた様子が微笑ましくて、クリスがふっと笑いを漏らした。


「数年前まで住んでいた屋敷なのに、緊張しすぎじゃないか?」

「でも、数年は長い時間ですし……! それに、今は自分の家というより、クリスの家という感じがして……」


 恥ずかしそうにうつむくルシンダをクリスがどこか嬉しそうに見つめる。


「それにしても、ルシンダが招待に応じてくれてよかった。父君やユージーンが許可しないかもしれないと思っていたんだ」

「ああ、それは……」


 ルシンダはクリスから屋敷への招待状が届いたときの出来事を思い返した。


『は? クリスの屋敷に? ルーが一人で? そんなのダメに決まってるだろう』

『そうだよ、ルシンダ。密室に男女二人きりなんてよくない。やめておきなさい』

『それに今日招待状を送ってきて明日来いだなんて、急にもほどがある!』

『ルシンダがもし職務上の上下関係のせいで断りづらいというなら、私がなんとかするよ。これでも絶大な権力を持っているからね』


 こんな調子でユージーンとベルトランが二人で止めにかかってきたのだった。


 だが結局はアニエスの説得で二人とも渋々ながら折れてくれた。


『あなたもユージーンも何を言っているの。ランカスター邸はルシンダの実家とも言えるんだから、久々に遊びに行ったっていいでしょう? それに私はクリスさんのこと気に入ってるわ。素敵な青年じゃない』


 そう言われて『はい……』と二人そろって返事する様子に親子の絆のようなものを感じつつ、我が家の実権を握っているのはアニエスなのだと理解した。


(……でも、クリスには内緒にしておこう)

 

「いえ、二人とも機嫌よく送り出してくれました。クリスのことを信頼してるんですよ」

「本当か……?」


 疑いの目を向けるクリスを誤魔化そうと、ルシンダがホールの中央に駆け出す。


「わあ〜! 私がいた頃と全然変わってないですね。懐かしい……!」

「ああ。僕が変えたくなかったんだ。ルシンダとの思い出が詰まっているから」

「そ、そうですか……」


 ただ話を逸らしたかっただけなのに、こんな返事が返ってくるとは思わなかった。嬉しさと恥ずかしさでルシンダの頬がみるみる熱を帯びていく。


「ルシンダの部屋もそのままにしてあるから案内しよう。おいで」


 クリスが差し出した手をおずおずと握り、ルシンダは二階にある自分の部屋へと向かった。


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