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19. 欲しかった言葉 〜ルシンダの夢〜


『瑠美! 瑠美! どうしてこんなことに……!』

『戻ってきてくれ、瑠美……。私たちが間違っていた』


 病院のベッドで眠る少女の横で、彼女の両親が悲痛な声をあげている。


 黒髪で色白のこの少女の名は、桜井瑠美。

 ルシンダの前世の姿だ。


『死なないで、瑠美! あなたがどれほど大切な存在なのか、やっと分かったの……』

『目を覚ましてくれ。元気になったら、みんなで遊びに行こう。美味しいものを食べて、なんでも買ってやるから』


 点滴を繋がれ、目を閉じたまま動かない少女に必死に語りかける姿は、間違いなく我が子を心から愛している親そのものだった。


(本当に……? お父さんもお母さんも、本当に私を大切だって思ってくれてるの?)


 二人のこんな姿なんて、一度も見たことがなかった。

 いつも瑠美には冷たく淡々とした態度で、ときにはまるで娘なんて存在しないかのように無視されることもあった。


 でも、今目の前に見える母は瑠美の手を握って泣きすがり、父は瑠美の頬に触れながら娘の名を呼び続けている。


「愛している」「大切な娘」と、繰り返し伝えてくれている。


(ずっと聞きたかった言葉……嬉しい……)


 今までずっと自分は事故死して、乙女ゲームの世界に転生したのだと思っていた。


 でも、本当はまだ死んでいなくて、昏睡状態の中で変わった夢を見ていただけだったのかもしれない。


(頑張って目を覚ましたら、お父さんもお母さんも喜んでくれるかな……? 私を抱きしめて、生きていてくれてよかった。瑠美が大好きだって言ってくれるかな……?)


 このまま死んでしまったら、二人とも悲しくて立ち直れないかもしれない。


 なんとか意識を取り戻して、「私も大好きだよ」と伝えなくては。


(瑠美の身体に入れば、目を覚ませる? お願い、動いて。もう起きなくちゃ……!)


 一生懸命に念じていると、やがて淡い光に包まれて、重く閉じられていた瞼が開く。


 ぼんやりとした視界が次第にはっきりしていくと、目の前に見えたのは、小さな精霊の姿だった。


「……ナイトメア?」


 紫色の光を放つナイトメアと目が合うと、彼はくるりと向きを変えて主人の元へと向かう。


「ご主人様、一人目を目覚めさせました」

「ありがとう、他の二人も頼む」

「かしこまりました」


 主人の命令にお辞儀を返し、ナイトメアが姿を消す。


「ルシンダ、大丈夫か?」

「あ……私、どうして……」


 倒れていたルシンダの身体をクリスが優しく助け起こす。


「悪魔の術にかけられていたようだ。ナイトメアに命じて夢に閉じ込められていた意識を解放してもらった」

「悪魔の術……夢……?」


(じゃあ、さっきのは現実ではなかったの……?)


 父と母が死の淵にいる瑠美にすがりつき、死なないでと懇願していたあの光景は、ただの夢だったというのだろうか。


「ルシンダ、涙が──」


 クリスが驚いたように目を見開く。


「あ……すみません……。これはなんでもなくて……」


 ルシンダが慌てて顔を背ける。

 しかし、クリスはそんなルシンダの頬に触れ、濡れた瞳からこぼれ落ちた涙をそっと指で拭った。


「何の夢を見たのかは聞かない。だが、ルシンダが目覚めてくれて本当に安心した」

「クリス……」


 クリスの穏やかな声に、混乱していた頭が少し落ち着いてくる。


「クリスは大丈夫でしたか?」

「ああ、ナイトメアのおかげか、幸い僕には術が効かなかった。だから悪魔に反撃したんだが、あと一歩のところで逃げられてしまった。すまない」

「そんな……! クリスのおかげで悪魔の術を破れたんですし、謝らないでください。こちらこそ足手まといになってごめんなさい……」

「そんなことはない。ルシンダは優秀な魔術師だ」


 クリスの言葉はきっと、自分が気に病まないように気遣ってくれているだけなのだろうと思うが、それでも嬉しくて胸が温かくなる。


 これ以上迷惑をかけないよう、早く悪魔を捕まえなければと思っていると、アーロンとライルも目が覚めたようで、揃ってこちらへとやって来た。


「……悪魔にやられてしまったようだな」


 ライルもおかしな夢を見させられたのか、浮かない表情をしている。アーロンも似たような様子で、沈んだ目を背後に向けた。


「──乳母はどうしましょうか? 気を失って倒れているようですが」

「悪魔との契約の代償のようだな。おそらく悪魔のほうをどうにかしないと意識は戻らないだろう。逃げられはしたが、奴は血を流しているから、その匂いを辿れば見つけられるはずだ」


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