Scene4 私のかけら
この話はちゃんとハッピーエンドになります
皿を落とした。洗い終えた食器を棚へ戻している最中のことだった。フローリングへと吸いこまれるように、落ちていく。そして私の瞳には、その様子が妙にゆっくりと映り込んでいた。当然のように皿は割れてしまう。
綺麗な半円と、三つ、四つの扇やら三角形の破片に化けたそれを見ながら、一番細かくなった破片へ、自身を投影していた。
私というものを構成していた核の半分が消えゆき、残った核すら小さく細分化されていく。
哲学において、砂山から少しずつ砂を減らしていったとき、いつからそれは“砂山”ではなくなるのかという問いかけを聞いたことがある。
どんどん核が小さく揺らいでいく私は、もう自身を構成するものがなんなのか、よく分からないのだ。私はまだ砂山のままなのだろうか。
いつからこのことに気づいていただろう。もうずっと前からだった気もするし、たった今この皿を割った瞬間のような気もする。
ずっと前からだとしたら、きっとあの時からだ。
『……ねえ、いまなんて、なんて言ったの?』
何度も言わせるなとでも言いたげに、夫は深いため息を吐いた。
『お前の職場にはもう伝えてあるから、もう仕事に行かなくていい』
『そんなこと、急に言われても! 大体そんな勝手な』
『勝手なのはお前だろう! 俺は散々言ったよな、結婚したら家に入れって。それをお前が子どもができたら専業主婦になるだなんだって言って引き伸ばして来たけどさ……お前、子どもなんて』
できねえじゃん。
この人は、こんなに簡単に人を傷付けられる人間だっただろうか。
吐いて捨てるように言った後、ばつの悪そうな顔を浮かべる貴方を見て、どうして自分の方が苦しいような顔をするのだろう、できるのだろうと漠然と思った。
そもそも、「結婚したら家に」なんて、私に言ったことは無かったのに。
降って湧いた突然の専業主婦生活は退屈で仕方がなかった。
特に家事に困ることもないけれど、日常の平坦さに嫌気が差していた。そもそも平日碌に家で食事を取らないあの人は、どうして私に家にいて欲しいのだろうか。
朝起きる、着替える、換気をして、朝食。洗濯、掃除。普段使わない部屋や、窓のサッシ、玄関などは日替わりでルーティンに組み込む。
大掛かりな場所が終わったら、丁度洗濯が終わる頃合いになる。
ベランダに干してから昼食を作る。食事を終えたら食休みに本を読み、紅茶を飲んで、乾いたものからアイロンをかけたり、しまったり。
主婦生活の初めの方は良かった。けれどもいよいよやることがなった。意地になって屋根裏まで綺麗に磨いたのに。
一度本格的に綺麗にしてしまうと、日々軽く掃除を続ければ中々汚れはしない。
今では午前中でほとんど家事を終えてしまう。
そのほとんどは自分自身の食事作りや買い出しなのだから、本当に何故私をこの家に常時置いておきたかったのか、いよいよ分からない。
このままで良いはずがない。何度も考えるが、その度に耳奥で聞こえる彼の声に思考が止まってしまうのだ。
“できねえじゃん”と。
プロローグの人ませんでしたね。
この人は一体誰なんだろう(すっとぼけ)
みんな幸せになってほしいですね。




