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冬になって晴る  作者: やつはし
13/20

Scene12 初めての乾杯

瀬戸ちゃんとカナさんのターンです。

やっとちょっとは甘酸っぱいかも…??

 公園の前に着いたのは、彼女から遅れること四十分といったところだった。


「お、おつかれ〜、先に始めてるよ」


「はいはい、予想通り。追加のおでんも買ってきましたよ」


 歓声と共に買い物袋を奪われた。私の買ったものも入っているのだが、お構いなしに開けられていく。


「えー、多くない? こんな食べられるかな」


「なんで一人で食べようとしてるんですか。私お腹減ってるんで大丈夫です」


 私の文句にカナは笑うと、白滝を自分の器へ移動していった。


「これ貰っていい?」


「もう持ってってるでしょうが」


 何故か得意げな表情を浮かべると、持っている缶を一呷り。熱そうにしながらおでんを頬張る。


 やっぱり、これだよね。これ。


 彼女は何やら数度自身と対話するように頷きながら呟き、大切な言葉でも吐くようにそっと口にした。


「私やっぱり、こういうのが好き」


 好き、という言葉にドキッとしかける心臓を押し込める。酒に酔ったのか寒さからか、やや赤らんだ顔でそんなこと言われると、思わず勘違いしそうになってしまうのでやめてほしいものだ。


「……おでんの話?」


 おそらく違うのだろうと思いつつ、他にこれといって思いつくものもなく彼女の手元の容器の中で湯気を纏う白滝を見つめる。


「ちがうちがう、あ、いや違うこともないんだけれど。そうじゃなくってね、こうやって深夜の公園で寒い寒いって言いながら、あったかいコンビニのおでんをつまみに飲むのがいいなって」


 うん、やっぱりいいと彼女は言って、またしても、うんうんと頷く。


「カナさんって、庶民派っぽいもんね」


「なに、見た目が貧乏くさいってこと?」


 口を尖らせるが、何故か機嫌そのものは随分良さそうに見える。今にも歌い出しそうだ。

 思えば初めてここで会った時も、ここベンチに座ってこの人はほろ酔いで歌っていた。


「私、最初はカナさんのこと、もっとクールな大人だと思ってた」


 こんな子供みたいにベンチで脚をぶらぶらさせながら、酒盛りするようなタイプじゃなくて、小洒落たレストランとかで高いワインを傾けるような人。たぶん似合うのも本来はそちらなのだろう。無駄に奇麗な作りの顔を見る。


「なにその言い方! まるで私が大人じゃないみたいな言い草だなー? ほんと、失礼な若者だな君ってやつは。――まあでも実際そう。なんだったらまだまだ買い被りよ。どんなに私がダメなところ見せても、言っても。瀬戸ちゃんは未だに私のこと、心の中のどっかで“すごい人間”だって勘違いしてる。私なんて、そんな大したものじゃないのに」


 戯けた様子から途端に俯いたカナはぽろぽろと溢れ出すようにそんな言葉を吐く。唖然としながらも、「そんなことないよ」と言いたかったが、「たとえばどういうところが?」なんてすぐ聞き返してきそうな彼女に、上手く言葉を続けられる気がしなかった。またしても白滝を見つめていた。


 私の沈黙を気にすることなく、カナは続ける。


「目よ。目がそう言ってるもの」


 隣に座っていたカナは、さらにこちらへ身を寄せると、私の目元へ手を伸ばした。

 思わず目を閉じると、冷たい手にゆっくりと瞼を撫ぜられる。


「……なんて言ってんの、私の目」


 問いかけるも答えはなく、その間もカナは私の瞼に触れている。痛みこそないものの、他人にこんなにも瞼を触られることなんてそうそうない。落ち着きをなくし始めた心臓が嫌に大きく聞こえて、カナにも伝わってしまうのではないかと気が気ではなかった。

 そのままどれほど経ったのか、随分と長かった気もする。少なくともカナの手の冷たさはすでにほとんど感じなかったことから察するに、互いの体温が溶け合うほどの時間は経っていたのだろう。

 恐る恐る目を開くと、カナは真っ直ぐ私をみて微笑んでいた。


「ふふ、内緒」


 笑顔、口ぶり。どれも楽しげな様子だけれど、やはりどこか気怠げな空気感が伝わってくる。

 大丈夫とか、大した人間じゃないなんて言わないでとか。先ほど言いたかったことがぐるぐると頭を巡るが、結局何も彼女の芯に触れることはできなかった。縫いつけたように口は重い。

 ふらふら何の目的も目標も持たないフリーターなんてしている年下のガキに、この人を慰めることなんて出来るはずがない。十歳の子供も四歳の子供も総じて子供だが、二十九歳のキャリアウーマンと二十三歳のフリーターがどちらも大人かというと、そうではない。


「……私も飲んじゃおうかな」


 やっと口から出たのはそんな言葉だった。

 カナの買い物袋から適当に一缶取り出す。カシュ、と気の抜けた音が上がる。


「バイクはどうするの?」


「明日取りに来ればいいよ……ほら、かんぱい」


 そっか、と小さく呟いて、彼女は緩慢な動きで缶を差し出してきた。


「はい、かんぱーい」


 楽しげな声で、彼女はそのまま缶をぐいっと勢いよく傾け、口の端から零れた酒が顎を濡らしていた。

 妙なテンションのカナさんはけらけらと笑いながらこちらを見る。


「冷たい!」


「ああ、あー、もうなにしてんの」


「瀬戸ちゃんの反応も冷たいなー、ねえティッシュない?」


 鞄の外ポケットに入れっぱなしだった、一体いつから入っていたのかすら覚えてないポケットティッシュを渡してやる。


「拭いてくれないの」


「……何言ってんの、ほらさっさと拭きなよ」


 照れ臭さを誤魔化すように、やや乱暴にポケットティッシュを投げ渡す。


 ちぇー、などと口を窄ませたのち、何が楽しいのかにこにこと口元や胸元を拭うカナ。

 目元は細められているが、私にはその顔がどうしても泣きそうな子供のように見えていた。

ドキドキしてるのは瀬戸ちゃんだけですね。そもそも瀬戸ちゃん自身綺麗な女にときめくだけで、まだ"カナさん相手だから"という感覚は薄めです。

頼むからはよくっつけぇ〜!!

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