Prologue
プロローグです。
まだ全然話が見えないので初回投稿に限り何話かまとめて更新します。
拙い文章ですがよろしくお願いします。
小さな檻の中に、幼い私がいた。
箱状のその中には、私以外にも数人がおり、彼らは知り合いとも、そうでないとも言い切れないどこかで見たような顔をしていた。
私を含め皆一様に檻の中から外の景色を呆然と眺めている。何か気になることがあっても出ることはおろか、じっくりと見つめることも出来ない。
檻はゆっくりと移動していた。
檻の外には大きな人々が取り囲むように存在し、時折私たちを見下ろしてはにこにこと笑うのだ。
これが私の記憶する一番古い記憶である。
今となっては、この記憶が街中でも、度々見かける保育園の散歩での様子と理解できる。
自身の足で歩かせるにはまだ幼い園児を、安全に公園へ連れて行く手段のそれだが、どうにも不気味な映像として、度々夢に見る。
夢の中で、私は徐々に成長していく。周りにいた他の子どもたちが檻の外へ出て自分の足で歩くのを、私はじっと見つめるばかりなのである。檻の中からの映像や、空中から俯瞰しての視点など、なんとも夢らしくころころ位置を変えながら、気づくといつしか私は檻の中で一人、大人になっている。そんな頃合いで目が覚めるのだ。
少し前に流行ったアップテンポの曲が小さく聞こえ始め、徐々に意識は浮上していく。段々と煩さを増すそれを止めるべく、枕元の携帯電話を手に取った。
時刻はいつもの起床時間を僅かに過ぎていた。
いつも通り、家に人の気配はない。彼はまた帰って来なかったのだろう。
『今日も帰れそうにない。飯はいらないよ』
新着メールには昨日の深夜に届いたらしいものがあったが、ここのところ毎日のようにこんな調子、見飽きた内容だった。
嫌な慣れだ。これに慣れきってしまったら、きっともう彼に対して私はなんの期待を抱くことも出来ないだろう。もしかするともう手遅れなのかもしれないが。
ベッドの上で溜息を吐く。これも最早ここ最近のルーティンの一部と化していた。
フローリングに両足をぺたりと付けると、刺すような冷たさがふくらはぎ、腰と徐々に上がっていき、背中を震わせた。
随分と朝が冷える季節になってきたものだ。最近の秋は短い。木々の葉もまだ枯れ果てないうちに、気づくと冬が顔を出す。
すぐさま再び毛布へ包まりたい衝動に駆られるが、いくら一人だからといって自分に甘くしてしまうと堕落の始まりになる。
ただでさえ、最近はあまり褒められたことではないことばかりなのだ。そちらを改善する気がない以上、極力文化的な生活水準を守る必要がある。
誰に会う予定もないがひとまず寝間着からは着替えよう。
そして私が私であるために、きちんと朝食を作り、化粧をするのだ。
そういう一日を、また今日も一人過ごす。
まだ何もわからないですよね、知ってる。