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79話 人を愛せるように 前編



「ガガァ!!」


「やはり君はバケモノのようだね。シン!!」


 あの時のように、化け物へと変わっていくシン。驚くラディ、ほくそ笑むロジー、焦るアモン。

クリミアはもういない、止まることのない怒りと悲しみに支配されていく。


リーンゴーン


 黒いエネルギーに包まれていくシンの胸元。光り輝くのは彼女の想い。思い出されるのは彼女の言葉、思い出、匂い、声、魂。シンが愛したたった一人の女の子。


ーー皆んなと仲良くね。


「クリミア……。」「シン、帰ってきたか!助かったぜ、クリミア。」


 シンを纏っていた黒いエネルギーは弾け飛び、そこにいるのはただ顔を俯かせる青年のみとなった。


「すまないアモン。少し動揺した。」「カッカッカッ、かまわねぇよ。いつもの事だ。」


 顔を上げたシンはとても穏やかな表情で前を見つめる。それにイラついたロジーは顔を歪めて悪態をつく。


「チッ、元に戻りやがった。それじゃあ約束通り僕が殺してやるよ!」


「俺はお前もラディにいちゃ……、ラディも殺さない。」


 敵意を剥き出しにして叫ぶロジーとは裏腹にシンは穏やかな表情を崩さないまま、落ち着いて話す。


「はっ……?」


「死んじまったら仲良くできねぇからな。」「へっ……お前らは本当にお人好しだなぁ。」


「……そうだ、それがいい。仲良くしようシン。」


 シンの言葉を聞いたラディはおどおどとしたまま、つぶやく。


「はっ?おっさん何言ってんの?」「アモンと和解?ありえませんねぇ。」


「聞いてくれシン!俺が皆んなを裏切ったのは訳があるんだ!」


 ロジーとベリアルの言葉など聞かず、ラディは必死になってシンへと伝える。


「俺はアドヴェントドグマの連中に唆されたんだ!俺には病気の妹がいた。お前達は知らなかったかもしれないが、ほかの町の病院に妹はいたんだ!」


「……。」


「でも、医者には治らないと言われた。そこにアドヴェントドグマの連中が現れたんだ。お前の村の情報を少し流すだけで、妹を助けてやると。」


「……。」


「俺は半信半疑のまま、警備隊の情報を伝えた。するとどうだ?妹は元気になった。さらにはアドヴェントドグマの施設に移動させてもらってそこで治療してもらった。」


「……。」


「けどまたしばらくすると、妹の状態は悪くなった。妹助けて欲しければ、より情報を教えろと言われた。俺は教えた。」


「……。」


「俺は妹を助け続けるために、情報を流していたんだ。そしてあの時、妹はもう死にかけていた。ここのままでは死んでしまうとアドヴェントドグマの連中に訴えた。するとあの爆弾を仕掛けろと言われたそうすれば極上の薬を妹に使ってやると。」


「……。」


「だから、俺はみんなを……。全部終わった後聞かされたよ、妹に使われていた薬は治療用じゃなかった。意識を混濁させ一時的に高揚感を与えるものだった。だから、もう妹は救えないって。」


「……。」


「俺は騙されたんだ!こいつらに!その後も逃げたら殺すと脅されてここまで来ちまった!なぁ、シン、許してくれしょうがなかったんだ。」


「どうして、相談してくれなかったんだ。村のみんなに、親父に、俺に。」


「しょうがないじゃないか!お前達に相談したところで妹を助けれたのか!?無理だろ!な、だから俺は助けてくれよ、シン。」


 向けた手を震わせながら、シンへと近づいていくラディをロジーが止める。


「そんなのダメに決まってるじゃん、おっさん。いい?どんな理由があろうとあんたは殺したんだよ。あんたはこっち側。」


「グッ……なぁ、シンは俺の味方だよな?」


「ラディ、お前に対するこの怒りは本物だ。」


「……!」


「だけどそれで俺がお前を殺すのは憎悪を続かせるだけだ、何も解決はしない。だからお前が悔い改めると言うのなら俺は許そう。皆んなの為にも。」


「シン……。」


 ラディはシンの言葉に顔を綻ばせた。しかしロジーはまたしても顔を歪める。


「あぁ、気持ち悪い。君のその正義感を見ているとあの女を思いだしてイラつくんだよねぇ。あんたもだおっさん、あんたには課せられた任務があるだろ?」


「い、嫌だやめてくれ!」


 ラディは急にハッとした顔をすると、手をブンブンと振って嫌がりはじめる。


「ベリアル頼むよ。」「えぇ、ほら起きてください。不和の悪魔アンドラス。」


「グキキ?」「嫌だ、シンを傷つけたくはない!助けてくれシーン!!」


「な、何だ!」「コイツは!!くそ気づかなかったぜ。」


 急にラディの体が黒いエネルギーに包まれていく。


「が、ガァァァァ!」


「アハッハッハッ!!」


 黒いエネルギーは形をかえ、ロジーに細長い剣を手に握らせ、黒い魂のうねりが犬のような尻尾と爪と牙を作り出していた。

 体を丸めて立つその姿はもはや、人とは言えず狼のバケモノのようだった。


[クロスデーモン] 侯爵(マークイス) アンドラス


「グキキ、シンデ、コロシテ、ヨロコンデ?」


「何だコイツは!?」「アンドラス、適性がなくても人間にクロスできる。そのかわりクロスした人間が死ぬまで周りを破壊し続ける、悪魔の中でも狂った野郎だ。」


「アッハッハ!!さぁ、これで戦うしかなくなったなぁ、シン?僕も力を見せてあげるよ。ベリアル!」「えぇ、改めて。私は暴虐(ぼうぎゃく)(ケーニヒ)殺して差し上げます。」


[クロスデーモン] (ケーニヒ) ベリアル


 ロジーにまとわりつく黒いエネルギーは、少しずつ形を変えていく。ロジーの手には黒いエネルギーを纏ったままのロングソード、背中には黒い翼が生えた。


「どうだいシン、美しいだろ。堕落の天使[ファレナーフェロ]君を殺すにはピッタリだ。」「さぁ、アモンも変身しなよ。私は優しいから、待ってあげます。」


「俺は死なない、アモン!」「ケッ……言ってろ。いくぞシン、俺様は灼熱の侯爵(マークイス)!!お前らの悪意も燃やしてやるよ。」


[クロスデーモン] 侯爵(マークイス) アモン


 両手に手甲剣をつけたシンはロジーとラディに向けて、構えをとる。


「最初から本気で行く。死神の炎(フランモルテ)


 シンの周りから炎が巻き起こり、シンの体を覆う、両手の手甲剣にも炎が纏わりその攻撃性を高めた。


「ふっ……もう怖くないぞ。僕にだってこの翼があるんだから。」


「グキキ!!」


 最初に駆け出したのは化け物とかしたラディだった。黒いうねりによって爪が生えたその脚で、地面を蹴り付けながらシンへと向かっていく。


「はァァ!」


 シンは周りの炎を操りラディへと放つ。火の玉となって向かっていく炎、それをラディは黒い尾ではたき落とす。そしてラディはシンへと手に持った剣を叩きつける。


「ガァァ!!」


ギャリィィ!


 身に迫る剣を手甲剣で受け止めるシン。シンはそのままスライドさせてラディの剣を受け流した。


「……ッ!」


「ガァ!?」


 火花を散らしてずれていくラディの剣、その隙にシンはラディの懐を蹴り上げる。ラディはそのままゴロゴロと転がっていった。


「休ませないよ!はぁぁ!」


「シン、翼だ!燃やし尽くせ!」「あぁ!」


 ロジーは翼を羽ばたかせると、シンに向かって無数の黒い翼が飛んでいく。それに対抗するようシンは巨大な炎の塊で翼を包み込む。


「ノフェルブラッド!」


「ッ……!」


 ロジーの剣が炎の壁を切り裂き、そのままシンの体を斬りつける。何とか体をそらして直撃を避けたシンだったが、切り裂かれた胸元から血が少し飛び出る。


「ガァァ!」


「クソッ……!」


 さらに横から飛び込んできたラディがその太い尾でシンの胴体を叩きつける。シンは口から血を吐き、ゴロゴロと転がっていく。


「まだだよ!」


「グキキ!!」


 シンへと追い打ちをかけるように、ロジーは翼を放つ。そしてその後ろからラディがその獰猛な爪と牙を尖らせながらシンへと向かっていく。


 シンはその二つに臆する事なく立ち上がり、両手を握り合わせる。そしてその両手に炎が纏っていくと巨大な炎の剣が出来上がる。


「ハァァア!!太陽の鎮魂歌(レクイエムソレイユ)!!」


 シンは向かってくるラディと翼に対して、その巨大な炎の剣を横一線に振りかぶる。[ゴォォォウ]という音を立てて、その炎の剣はラディ達を飲み込んでいく。


「グキ!?」


「しまった!」


 無数の翼は燃やし尽くされていき、ラディはそのまま炎の剣に直撃する。ロジーは何とか翼で体を覆い防御をした。


「グギャァァ!」


 炎に焼かれるロディは悲鳴をあげながらジタバタとその場で暴れる。そして既に前へと走り出していたシンはロディの横腹を目掛けて、蹴りを入れる。


「すまない。」


バゴォォン!


「ガフゥ……。」


 死神の炎(フランモルテ)によって威力が増しているシンの蹴りをモロに喰らい、ロディは口から血を垂れ流しながら滑っていく。


「グッ……僕の翼が。」「だいぶ食らってしまったねぇ。」


 ロジーの翼は四分の一ほどが焼け焦げ、使い物にならなくなった。シンはその隙を逃さずに追撃を仕掛ける。


「ロジー!」


「はっ……このぉぉ!」



ギリギリギリ


 手甲剣とロングソードがぶつかり合いお互いの顔の前で火花を散らす。


「降参しろロジー。こんな戦い無駄だと分かっているはずだ。」


「ふっ…‥君もう勝った気でいるの?そういうとこも嫌いなんだよ!」


 衝撃波を周りに放ちながら、シンとロジーはお互いに弾かれた。


ズザァァァ


 両者は武器を構えて向き合った。

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