72話 開戦 後編
キングファミリアに脅迫状が届いてから一日。様々なファミリアの人物達が大広間に集まっていた。
「皆、力を貸していただき感謝する。既に話しは聞いていると思うが、現在クリミロスより脱獄した犯罪者達とアドヴェエントドグマの連中が、戦線布告をしてきている。」
キングの力強くまた、怒りが微かに感じられる言葉をその場の全員が耳を傾けて聞いていた。
「俺は人々の平和を壊す奴らを許さない。フェアレー盆地にて完全に奴らを叩き潰す!」
「「オオオオ!!」」
キングに感化された連合軍が声を張り上げて答える。その鬨の声はキングファミリアのホーム全体に響き渡った。
「全員で攻撃を仕掛けたい所だが、そうするとその間、各街の守護が手薄になってしまう。そこで、諸君らには街を守る者とフェアレー盆地に攻め込む者に分かれてもらう。」
キングは一時込み上げてきた怒りを抑え、二つ名である守護神らしく冷静に人々を守る案を指示する。
「まずは、ここ……エルドラにはケンとキクノ。ハノイとトータス村にはゼロファミリア。ガルドはニコの子供達とハイド。ルマールには、ドラゴファミリアより、テラノとヴェロク。アクアホルンはパッチーノファミリア自身で守ってもらう。加えて戦力に不安がある街には俺の家族の半数を分散して派遣する。」
その場にいる全員が納得いったように頷いている。
「そして残りの部隊は全員、フェアレーへと進軍。今回は俺が直接赴き指揮をとらせてもらう。皆、よろしく頼む。」
「「オオオォォォ!!!」」
キングは頭を下げてその場の全員に感謝の意を表す。その期待に応えるよう、皆が再び割れんばかりの声を上げた。
「それでは攻撃部隊は明日の朝、フェアレー盆地へと進軍する。守護隊は申し訳ないが、準備が出来次第移動を開始するように。……よし、最後にはなるがサイモン博士から報告がある、聞いてくれ。」
キングと入れ替わりでサイモンが皆の前に出てくる。サイモンが自分の部下達に指示を出すと、何やら小型の装置を配り始めた。
「それは未確認神聖物認識装置、UARD。シンとアモンの強力によって完成した物です。」
「これは何が出来るんですか?」
アレクは、不思議そうにその装置を眺めながら問いかけた。サイモンは「よくぞ、聞いてくれたね。」と少し嬉しそうにしながら答える。
「これはだね、装着した人の魂の流れを読み取り、周囲に波紋として広げる事が出来るんだよ。アレク、シン、ちょっと手伝ってくれるかい?」
二人はサイモンに手招きで呼ばれ、前へと出ていく。
「じゃあ、アレク。UARDを体のどこでもいいから装着してみてくれるかい?」
「分かりました。」
アレクはシャツの胸元にUARDを取り付ける。小型でネクタイピンの様な装置を、アレクは訝しげに見つめていた。
「でもこんな小さいのに、そんなこと出来るんですか?」
「信じられないかい?実際にやってみたら、分かるよ。シン、アモンをここに呼んでくれる?」
「分かりました。アモン!」
シンが叫びしばらくすると、ホームの窓がガタガタと少し揺れる。それ以外は特に変わらないが、シンは何やら空間に向かって喋っている。
「よし、それじゃあアレク。意識して魂の流れを装置に集中させてくれるかい?」
「はい。」
アレクは一度深呼吸をして、意識を集中させる。皆、集中しているアレクを見つめるが、特に変化はない。
「……何も変わらないですけど?」
「シンの方を見てみて?」
アレクは言われた通りにシンの方を向く。するとアレクは口を開けて固まった。
「どうだい見えたかい、アモンが?」
「モヤですけど、み、見えますぅ!?」
アレクは驚いた顔で目をパチパチさせながら、アモンを見つめていた。それを聞きシンは嬉しそうにアモンへと声をかける。
「凄いな、見えてるらしいぞアモン。」「俺様を?昔を思い出すぜ。」
「しゃ、喋ってますぅ!?」
「何、俺様の声も聞こえんのかよ?」「はっはっは、下手な悪口を叩けなくなったな。」
サイモンはその様子を見ながら、嬉しそうに体を皆に向ける。
「本当は神や天使の言葉を聞きたいのですが……ご覧の通り、魂の波紋は悪魔の魂や声と共鳴し、共鳴波として自分に返ってきます。それによって悪魔などの目には見えないものを見ることができるんです。」
「「おぉぉ………。」」
「協力ありがとう」とサイモンが言うと、アレク達は元の場所に戻っていった。
「皆さんもどうぞご活用ください。キング、私はこれで。」
「あぁ、ありがとう。」
今度はサイモンと入れ替わりで、キングが前へと出る。
「それでは、これにて解散する。各自明日に備えて万全を整える様に!」
解散の号令と同時に、集まった皆はバラバラと自分なりの準備を始める。アレクもガルムの様子を確認しに行こうとしたが、ハイドによって呼び止められる。
「どうしたんだ、ハイド。」
「実はな、俺アドヴェエントドグマの連中の事、自分なりに調べてたんだよ。」
「そうなのか、何か分かった?」
「バーロックとシュティだけは軽く分かったぜ。」
「本当か!教えてよ、対価は持ってないけど。」
アレクが冗談気味に言うと、ハイドも返すように「しょうがねぇな」と言いながら言葉を続ける。
「どうやらバーロックは昔、小さな村で先生をしていたらしい。シュティは元生徒だったみたいだな。」
「先生か……なんでそんな人が、アドヴェエントドグマなんかに?」
「詳しい事情は知らねぇけど、バーロックのいた学校で立てこもりが発生したらしくてな、それでバーロックの生徒達と当時の恋人が殺された。」
「酷いな。」
アレクは眉間に皺を寄せ、手を握り、怒りを滲ませていた。
「シュティはその唯一の生き残りみたいだ、そこからバーロックは人が変わり、自ら入ったのか、ルミナス達に誘われたのか、アドヴェエントドグマに所属する様になったみたいだな。」
「そんな過去が。でもだからって、暴れていいわけじゃないぞ。」
「まぁ、許せって言ってるわけじゃないぜ。お前ならこの情報を使って、バーロックを説得できるんじゃないか?」
「うーんまぁ試してみるよ、助かる。でもどうしたんだ急に、ハイドらしくないじゃないか。」
「いや、俺も何か出来る男にならなきゃいけないと思っただけだ。じゃあ、俺急ぐから!」
「あっ、ちょっと……!」
ハイドはアレクの言葉を最後まで聞かずに走り去っていった。
「なんだったんだ?……っと、僕も準備しなきゃ。」
ーーーそれぞれの覚悟を持ち、朝日に照らされた戦士達がエルドラの入り口へと集まっていた。
「アレク!」
馬にまたがるアレクの元に、キクノは走って近づいていく。
「キクノ、どうしたの?」
「必ず無事に帰って来てね。」
アレクは一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに笑顔を作り、キクノに声をかける。
「帰ってくるよ、絶対に。キクノも気をつけて、待ってて。」
「うん、待ってる……。」
キクノはアレクの言葉を聞いて安心したのか、笑顔で応え、連合軍から離れる。その様子を、マリー、ドルチェ、ケンがそれぞれ別の表情で見ていた。
「いいわ、青春ね。」
「うふふ、そうね。昔を思い出すわ。」
「……無事に帰って来ても、俺がしごく。」
「もう、大人げないですよケン。ドルチェはキングに言わなくていいんですか?」
ドルチェはキングを見つめて応える。
「良いのよ、言わなくても帰ってくるから。」
「ふふ、そうですか。」
キングは連合軍の先頭に立ち、フェアレー盆地の方へと指を向ける。
「エルドラは頼むぞケン!」
「任せろ。」
「よし、それでは只今よりフェアレー盆地へと進軍する!!」
「「ウォォォォ!!」」
こうして、連合軍はアドヴェエントドグマ殲滅へと動き出した。




