70話 己の正義
「そこの青年、話を聞いてくれ。」
「はい、なんですか?」
「ちょっと道を教えてくれないか?」
「いいですよ。」
「この街には大浴場があるって聞いたんだが。どこにあるんだ?」
「この道をまっすぐ行って、三つ目の十字路を左にいったらありますよ。」
「そうか、ありがとう。あっ……あとファミリアのホームと大浴場は繋がってるって聞いたんだが本当か?」
「はい、ファミリアの皆んなも使ってるんですよ!」
「へぇ、もしかしてキミはキングファミリーかな?」
「そうです!」
「そうか、そうか。実は俺、キングとはちょっとした知り合いでね。」
「そうなんですか!」
「どうだ、キングは元気か?教えてくれ。」
「元気ですよ!そうだ、お知り合いでしたら、伝えましょうか?」
「いや、今は遠慮しておこう。アイツの事だ、変わってないんだろう。それより君だ、俺の質問に答えてくれ。」
「はい……。」
「君はどうやら正義が好きなようだな、弱者を守り、悪は許さない人間だと聞いている。あまりにも過敏なその正義感、君の正義とは一体なんだ。」
「精神的に弱い人間を弄び、罪のない人間を身勝手な理由で傷つけ、自分の為だけに生きている悪人を倒す事。力ある人間は力なき人間を助けなければいけない、それが正義です。」
「ほう、ではその悪人とやらは本当に悪なのだろうかね。精神的に弱い人間だからこそ、人を傷つけて己を守ろうとしているのではないのかね。」
「悪意で人を傷つけている事は事実です。それは到底許されることではない。倒すべき悪です。」
「では君は精神的弱者を蹴散らし、その者が頼るものを壊しているということだな。ならば、君も悪人ではないのかね?」
「味方を守る為に力を振るう、それが善だ!己の自己満足の為に傷つけている人間と一緒にするな!」
「本物の善とはなにか。悪を倒すことではなく、悪を変える事ではないのかね。」
「僕は……。」
「この世の中にいる人間は、善人と悪人の二つではない。偽善者と正直者だけだ。正直者は周りを傷つけながら進む、偽善者は自分を無くしながら進む。」
「僕が偽善者だと?」
「そうだ、ただの一般人だった君は、力を得て、権利を得た。権利を得て、正義を得た。だから言い聞かせたんじゃないのか、自分の思い描いていたヒーローになると……ならなければいけないと。」
「だってそうじゃないか!ヒーローは悪を許さず、罪なき人を傷つけない!ヒロインを守り、仲間を助ける!それが正義だろ!」
「君の正義は君を満足させるものでしかない、君を正しく生かし、仁義を貫かせるものだ。今の君はただ守ると、許さないと、叫び続ける男でしかない!」
「……!」
「だが、それでいいのだ青年。真実が常に人を救うわけではない。建前と嘘が人を救う事もある。」
「……。」
「俺の世界の主人公は俺だ。同様に君の世界の主人公は君でしかない。他人の思考回路全てを理解しようなど、神の所業だ。だから貫くのだ青年よ。」
「……。」
「死ぬまで、自分を疑うんじゃないぞ青年。最後まで自分の正義に生きてみせろ。正義。」
「はい。」
「そうだ、チーノは元気か?教えてくれ。」
「はい、元気ですが。悪魔教団に酷く怯えています。」
「そうか……。みんなを頼むな、アレク・ルチアーノ。今日は君を知れてよかった。」
「はい。」
「では、俺と会った事は忘れてくれ。しかし今の気持ちは失くすんじゃないぞ。」
「はい。」
「また会おう。」
「………ん、僕は一体何を?そうだ、集合がかかってるんだ。急がなきゃ!」




