38話 エルドラdeデート?後編
僕とキクノは食事亭ハングリーについた。外から中の様子を伺うといつもより人が多いようだ。
カランカラン
「いらっしゃい。おや?キクノちゃんにアレク君じゃないか。」
店内に入るとマスターが出迎えてくれる。キッチンの方では、ロマが忙しく動いていた。
「マスター、お久しぶりです。今日は忙しそうですね。」
「そうだね、でもお客さんがいるのありがたい限りだからね。二人も好きな席に座って。」
僕とキクノは窓際のテーブルへと腰掛ける。いつもカウンターに座っているのでなんだか新鮮な気分だ。
「いらっしゃいませ、キクノちゃんにアレク君。注文はこのメニュー表からお願いします。」
ロマが僕たちのもとへと、メニューと水を運んできてくれた。
「ありがとうロマちゃん。はい、アレク見える?」
「うん、ありがとう。」
キクノはロマからメニューを受け取ると、僕にも見えるようにテーブルへと広げた。
僕がメニュー表を食い入るように見ていると、その間にロマがキクノに耳打ちしていた。
〜〜キクノちゃん。〜〜
〜〜なーに?〜〜
〜〜今日はその……アレクとデート?なのかなって。〜〜
〜〜うーん、どうなんだろ? 私はデートのつもりで朝出てきたけど、アレクは昨日エルドラを案内して欲しいって言ってただけだから。〜〜
「二人して何話してるの?」
「ううん、何でもないよ。」
僕が不思議に思って話しかけると、ロマは焦ったようにあたふたとしている。
「……?メニューありがとう。」
僕はロマの方を気にしながらキクノの方にメニュー表を向ける。
キクノはメニュー表にパッと目を通すと、即座に注文を決めたようだった。
「じゃあ、私はロマちゃん特製サンドイッチで。アレクは?」
「僕はマスター特製オムライスを。」
「うん、それじゃあお待ちくださいませ。」
ロマは注文をメモして可愛らしく頭を下げるとキッチンへと戻っていった。
「アレクも気に入っちゃったの? オムライス。」
「ははっ。そうだね、美味しくてつい頼んじゃうんだよ。そういえば、この間のキクノ特製ハンバーグは、完成しそう?」
僕の質問に対してキクノは苦笑いを浮かべて答える。
「もう少しだよ、待ってて。」
「楽しみにしてるよ。」
キクノはコップに注がれた水をごくりと一口飲み、午後の予定を発表する。
「食事を食べたら、私の最後のお気に入りスポットに案内しようと思うの。」
「どこにあるの?」
「エルドラの中心に大きな建物あるでしょ? あの中。」
僕は脳裏にエルドラの景色を思い描く。確かあの建物は町長達が働いているだけだったはずだ。
「でもあそこって、一般の人が入れるのは街の相談所だけじゃ?」
「それは行ってからのお楽しみだよ。」
しばらくキクノとたわいもない話をしていると、ロマによって料理が運ばれてくる。
「お待たせ。サンドイッチとオムライスだよ。」
「ありがとうロマちゃん。」
キクノの前には、分厚い照り焼きの鶏肉と卵フィリングのサンドイッチと、イチゴと見た目だけで甘そうなクリームをたっぷり挟んだサンドイッチの二つが置かれた。
「うわぁ、キクノの奴も美味そうだね。」
「当たり前だよ、ロマちゃん特製なんだから。」
キクノは得意げに言い放つと、サンドイッチにかぶりついた。目を見開いて「美味しい!」とうなっている。
僕も、目の前にあるいつものオムライスを食べ始めた。変わらない美味しさに体全身が包まれる。
ーーー僕とキクノの目の前からみるみる食事が消えた。
「ふぅ、お腹いっぱいだ。」
「少し、休憩してから行こっか。ロマちゃんーー!」
キクノは、手をあげてロマを呼んだ。
「はーい。」
テクテクと歩いてきたロマに、キクノはメニューを見ずに頼んだ。
「ホットコーヒー砂糖とミルクたっぷりで。」
「いつものだね。」
「アレクも何か飲む?」
「……じゃあ、同じので。」
僕は答えに迷いとっさにキクノと同じものを頼む。ロマは軽くお辞儀するとキッチンへと戻っていった。
今度は運ばれてくるのに時間はかからなかった。
「お待たせしました。キクノスペシャルです。」
「キクノスペシャル!? 名前ついてるんだ……。」
僕は運ばれてきたコーヒーの名前に驚く。キクノはコーヒーに息をかけると少しだけ飲み込んだ。
「……。美味しっ。」
「……!?」
僕も同じようにコーヒー飲み込むと、口いっぱいに広がる甘さに思わず驚いてしまう。
「どうかした?」
「いや……。美味しいなと思って。」
キクノの問いかけに苦笑いで僕は答えた。その後もなんとかキクノスペシャルを飲み続け、一杯を飲み終わる頃には店を出る時間になっていた。
「アレク、そろそろ行こっか?」
「そうだね。」
僕とキクノはテーブルから立ち上がり、会計をするために出入り口付近へと向かった。対応してくれたのはマスターだった。
「今日もありがとうね。」
「ご馳走さまでした。」
「ロマちゃんにもよろしく言っておいてください。」
カランカラン
僕とキクノが店を出ると日が傾き始めていた。
「急がないと……!日が落ちちゃう、行こうアレク!」
エルドラの中心に向かって走り出したキクノを僕は追いかけ始めた。
ーー改めて見るとでかいな。
僕とキクノは、エルドラの中心にそびえ立つ大きな建物の下で上を見上げていた。
「さぁ、中に入ろう。」
「うん、あぁ待ってよ!」
僕が上を見上げ続けているとキクノは建物内に入って行く。
建物の中は部門ごとに受付が分かれており、それぞれ数名が席に座って住民の対応をしている。
「すいません、いつもの所に行かせてもらいたいんですけど。」
「あぁ、キクノちゃん! ちょっと待っててね。」
キクノは総合受付に声をかけると座っていた女性が奥の部屋へと入っていった。
「キクノ、一体何が起きてるの?」
僕は戸惑いながらキクノへと忍び寄る。
「後少しだよ……待ってて。」
「うん……?」
しばらく待っていると先程の女性が何やら鍵を持ってキクノと喋っている。
キクノは鍵を受け取るとにこやかに挨拶を交わして、僕の方へと駆け寄ってくる。
「私についてきて、アレク。」
「分かった。」
前を行くキクノについて行くと、関係者入口へと入っていく。
「ちょ、ちょっと良いの?勝手に入って。」
「安心して許可は貰ってるよ。」
ドアを開けると人や物を上下に運ぶ、箱型の乗り物が存在していた。
「何これ?初めて見たけど。」
「これは私達を上へと運んでくれるの。」
「へぇー」と僕は頷きながらキクノと共に乗り込む、キクノがボタンを押してレバーを引くとその乗り物はガーーという音を立てて上を目指して登っていった。
「……!」
「もしかして怖いの? アレク?」
「そんな訳ないよ、ちょっとびっくりしただけ!」
キクノは僕を意地悪な笑顔で見ていた。箱型の乗り物はある一定の場所で止まった。
キクノと共に僕は箱型の乗り物から降りる、目の前には鍵のかかった扉があった。
ガチャ
キクノは、先程受け取った鍵で扉を開けると外へと出ていった。僕も続いて外へと出る。
「………!」
僕の目の前には、夕焼けと綺麗に照らされたエルドラの景色が広がっていた。
「ここが私の最後お気に入りスポット。綺麗でしょ?」
「うん……。」
キクノの方を見ると夕焼けに照らされた横顔が見える。
ーー僕はエルドラ来てから、思い出と共に何度も輝くキクノを見た。それ見るごとに僕はキクノに惹かれていく。
「ここはね、ここの職員以外だったら少しの人しか知らない秘密のスポットなの。あっ、これでアレクも知ってる事になるね。」
「そうだね。」
「私ね、どうしてもここの景色をアレクに見て欲しくて。」
キクノはこちらへと近づいてくると、一呼吸おいてから僕へ真剣な表情で言葉を伝えてくる。
「ここから見える景色はエルドラの全部。アレク達はこの全部を守ってるんだって知って欲しくて。」
「………!」
僕はキクノの言葉にハッとした。エルドラの人々を守ると言っても、ジョニー達のように実際助けた事はないためふんわりとしたイメージしか持っていなかった。
今見ている景色とキクノに言われた言葉によって、僕はエルドラを守るという事を再認識する。
「だからね、アレクには自信を持って欲しいな、それで自分に誇りを持って欲しいの。」
きっとこれはキクノなりの励ましなのだろう。 最初にキクノを助けた時もエスカの時も僕は気絶して、キクノには情け無い姿ばかり見せているから。
「ありがとう、キクノ。僕は少しずつ成長してると思う。」
「……。」
「いつかエルドラを………いや、世界も守れる男になるよ。それまで僕を助けてくれないかな?」
キクノは、「ふふ」といつも通りの可愛い笑顔で僕に微笑む。
「そこは助けてじゃなくて、見守ってとかの方が男らしいけど……でも分かった、頑張ってねアレク!」
僕とキクノはその後も夕日が沈むまでエルドラの景色を眺めた。
ーー僕達はフェリチータマムの前まで帰ってきた。もう周りはすっかり夜に包まれている。
「キクノ今日は色々ありがとう、楽しかったよ。」
「ううん、こちらこそ。」
僕は夕焼けの出来事を思い出して、顔が赤くなってしまう。
「じゃあ、またね?」
「うん、また。」
キクノが小さく手をあげて僕に振って来たので、僕も同じようにして返した。
このままだとずっとここにいる事になりそうなので、僕はきりをつけてキクノに背を向けた。
僕は顔を赤く染めつつホームへと走った。




