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31話 不穏の余韻


 パッチーノファミリアのホームに、リナリアとヴォルガーが担ぎ込まれる。


「医療班! すぐに治療を開始してください!」


 クロウズの呼び声によって、部屋から数名が駆け出してきた。

 その数名は、ヴォルガーとリナリアを急いで救護室へと運ぶ。


「さぁ、あの二人のことは私達の家族(ファミリー)を信じてください。私達はチーノ様の元へ向かいましょう。」


 アレク達は戦闘の余韻がまだ体に残る中、階段を登りチーノの部屋へと向かった。


 チーノの部屋に入ると、チーノが不安げな表情で窓から町の様子を伺っていた。


「…! 大丈夫でしたか。皆さん!」


 チーノは、入ってきたアレク達に気づいて心配の声をかける。しかしチーノ自身が一番動揺しており、見ているこちらが不安になる。


「落ち着いてください、チーノ。何とか、敵襲は退けました。町の皆さんも大きな怪我はないみたいです。」


 アレクはチーノを落ち着かせるために言葉をかける。それを聞いてチーノは落ち着きを取り戻したようだ。


「そうですか… 今回は本当に大変助かりましたわ、ノヴァ、アレク。」


 感謝の言葉を言って、チーノは深く頭を下げる。


「チーノ、頭を上げてください。助けるのは当然のことで…」


 ノヴァはアレクの言葉を遮って怒りながらチーノに問いかける。


「チーノはこうなる事を分かってたんじゃないですか?」


「……。はい、騙す形になってしまい申し訳ないです。皆様をお呼びしたのはこの未来が見えたからでもありますわ。」


 申し訳なさそうに話すチーノだったが、それでもなお言葉を止める事はしなかった。

 チーノは、クロウズ達に右手を向ける。


「ワタクシのファミリアで、(ソウル)の力を使って戦える家族(ファミリー)はこの三人だけなのですわ。そこでこの近辺一帯で、最強とうたわれるキングに頼んだというわけです。」


「なら、僕達ではなくケンやギル兄を呼べば良かったのでは。」


 ノヴァは、不思議そうな顔で問いかける。それに対してチーノも不思議そうな顔で答えた。


「いえ、名指しで呼んだわけではないのですが、キングには、腕が立つ方をよろしくと伝えたのです。するとこんな若い方達がいらっしゃったのでワタクシも少々驚きましたわ。」


 ノヴァは頭に手を当て、呆れ顔で頭をかかえる。


「全くあの人は……。」


「でもどうして、奴らはアクアホルンを狙ったんでしょうか。」


 アレクは単純な疑問を投げかける。その質問に即反応したのはノヴァだった。


「奴らは、実験だと言っていた。それにまだ能力を引き出せていないと。」


「僕の戦った奴は、悪魔自身の声も聞き取れないと言ってました。」


 チーノは二人の言葉を聞き、考え込みながら一つの答えを出す。


「恐らくまだ、アドヴェントドグマは戦力が整っていないのだと思います。だからそこまでの力がないアクアホルンへ襲撃をかけてきたのだと…」



「じゃあ!俺様達が舐められてたって事かよ!」


 ベネツィオは、大声をだして怒りをあらわにする。


「えぇ…そうなりますわね。ですが、今回は大きな損害も出なかった事ですし、よしとしてください。」


「クソッ!」


「そういえばバーロック達は急に現れましたわよね。どうやったのでしょうか?」


 ベネツィアの質問によって、場は一度静寂に包まれる。その静寂を最初に破ったのはアレクだった。


「恐らくバーロックだと思います。今回の敵の中で明らかにオーラが違いました、あの威圧感、バーロックは悪魔の能力を使えるのではないでしょうか… 例えば瞬間移動とか。」


「瞬間移動か… 急に現れたヴォルガー達も説明がつくな。」


 ノヴァは納得いったように頷く。そこでクロウズが藪から棒に疑問を投げかける。


「それならホームへ直接乗り込んでしまえば良かったのではないでしょうか。」


 チーノは自信なさげに疑問へ答える。


「確証は全くないのですが、ワタクシ達のホームには黄金の呼び鈴がドアに付いてますよね。」


「僕が来た時に鳴らした奴ですね。」


「えぇ、昔に祖母から言われた事があったんです。黄金の呼び鈴は、悪魔を遠ざける。あのベルが悪いものを入れないでくれるから大事にしなさいと。」


 アレクは、ハッとした表情で故郷の事を語り出す。


「そういえば、僕の村にもそんな言い伝えがあったような気がします。実際村の出入り口には大きなベルがぶら下がってましたし。」


「じゃあ黄金のベルのおかげで、あの悪魔達が入れなかったって言うのか!はっ、あり得ないだろ!」


 ベネツィオは馬鹿にしながらその仮説を否定する。しかしベネツィアは冷静に異議を申したてる。


「でも、今回壊された建物は全部、黄金のベルが付いてなかったけれど、その近くのベルがついている建物は手が触れられてなかったわ。」


「眉唾物ですが試してみる価値はありますわ。どうかキングにも伝えておいてください。」


「はい、伝えておきます! 話は変わるのですが、チーノは悪魔の事をどのくらい知っているのでしょうか?」


 アレクは、真剣な表情でチーノに質問をする。


「そうですね、悪魔とは神達と同じでこの地界に肉体を持たないようです。人の魂に取り憑き、能力を引き出させる事で存在してると…」


「悪魔に取り憑かれると人格などはかわるんでしょうか?」


「…?えぇまぁその可能性もないとは言えないでしょうね。でも何でそんな事を?」


 アレクは、なんとも言えない表情で両手を握りしめて答える。


「ヴォルガーから、シンパシーのようなものを感じたんです。見返してやるって気持ちが伝わってきたんですけど、ヴォルガーは自分自身を騙しながら戦ってるような気がして。」


「それは本人から直接聞いてみましょうか、明日には目が覚めると思いますので。」


「そうですね…」


 場が暗い雰囲気に包まれた。黙り込む全員に疲れの色が見えた。チーノはその様子を察して提案をする。


「アレクとノヴァもお疲れでしょう、今日はホームの一部屋を使って休むといいですわ。」


「えぇ、助かります。」


「クロウズ、ベネツィア、ベネツィオ。貴方達もよく頑張りましたわ。今日はお休みなさい。」


「「「ハッ!」」」


 こうして、この日の集会は終わった。チーノの部屋を出て早々に、アレクとノヴァはリナリアの様子を見に行く。

 リナリアがいる治療室に入ると白いベットへリナリアが横になっていた。


「大丈夫ですか? リナリア。」


「ノヴァ……アレク……。うん、気絶しただけだから大丈夫だよ。」


 ノヴァの呼びかけによって、ベットに横たわっていたリナリアが体を起こす。


「そうだ、敵は?」


「ストラスは、リナリアのお陰で倒す事が出来ました。けれど自分でアロンの首を落として逃げてしまいました。」


 リナリアは、普段の様子からは考えられないほど顔をしかめる。


「なんて奴ら、許せない…悪魔ってみんなそういう奴らなのかな。」


「僕も同意見です。悪魔をほっとく訳には行きません。それにアドヴェントドグマの連中も野放しにする訳には行かないと思います…」


 アレクも同様に、鬼の形相で意見を発する。その言葉からは怒りが滲み出ていた。


「そうだな、それも含めて帰ったらキングに報告するとしよう。明日出発になったので、リナリアはよく休んでくださいね。」


 ノヴァは冷静に対応すると、リナリアへ労いの言葉をかけてから出口へと移動する。


「リナリアそれでは。」


「リナリア、お大事にしてください。」


「うん、ありがとう。」


 アレクはノヴァに続いて、リナリアに声をかけ部屋を出ていく。


「ノヴァ、部屋へ先に戻っててください。僕はヴォルガーの様子を見てきます。」


「分かった。気をつけてな。」


 二人は別れると、それぞれの目的地へと向かった。


 アレクは、ヴォルガーのいる医務室へと入っていく。中に入るとヴォルガーには輸血がされており、周りには何人かの治療士が立ち話をしていた。


「何とか一命を取りとめたが、まだ意識が戻らないな。」


「そうですね、チーノ様に報告してきます。」


「あぁ、よろしく頼む。」


 一人の治療士が部屋を飛び出していった。その代わりにアレクがヴォルガーへと近寄る。


「どうですか、ヴォルガーの様子は?」


「あぁ、アレクさん。出血が酷くて… 何とか輸血は間に合ったのですが。意識が戻らず…」


 アレクは浮かない顔をして治療士に質問を投げかける。


「ヴォルガーはどうなるんでしょうか?」


「意識が戻らなければ、そのまま……意識が戻ったら、アドヴェントドグマの情報を引き出してからクリミロスへ移送されます。」


「ヴォルガーの意識が戻ったら。僕達にも伝えていただけませんでしょうか。」


「もちろんです。必ず伝えましょう。」


「お願いします。」


 アレクは治療士達に挨拶をして部屋を後にする。


 廊下へと出ると月夜が窓を照らしている。その窓を見つめるアレクの表情は今までにないほど曇っていた。



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