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3話 影の道


 「おーい? 急にどうした? まぁ、いいやキクノによろしく。」

 

 ハイドは来た時と同じように姿を消す。


 僕はハイドの答えを聞いて呆然としてしまい、時が止まったようになり周りだけが早送りのように感じる。


 気がつくと何人かいた客も居なくなり、静寂に包まれた店内で聞こえてくるのは時計の針音だけとなった。


 「これからどうしようかな…… ハァ……」


 僕のため息だけが店内に響き、時間は刻々と進んでいく。こういう時に行き着くのは大抵、自分がすがりつく人物の所だ。

 この大都市エルドラにその人物は一人しかいない、僕は重い腰を上げ立ち上がる、店内の時計の針は五時を指していた。


「ありがとう…… マスター……」


「はい。またきてね。」


ガチャ


 外に出るとガルムが伏せて待っていた。


「行こうガルム。」

「バウ?」


 僕は日が落ち始め、影が落ちる脇道をキクノの花屋目指して歩き出した。





少し前、大都市エルドラの隣町ハイノにて水面下で戦略を練る人物達がいる。

  背が高く、男にしては長さのある髪の毛で、鋭い眼光が眼鏡をかけているせいで、より鋭くなっている兄貴分の人物。

 それに加えて、小柄で丸坊主の弟分の人物二人が、声を殺していた。


 「どうします、アニキ。」


「いいか、キングファミリアと正面からやり合っても勝てない。住民を盾にして戦力を削ぎキングまで辿り着くってわけだ。」


「さすがアニキ!」


「うるせぇ、声がデケェ! 目立つだろうがぁ!」


「アニキの方が目立ってるッス…」


 弟分の男は、傍若無人な兄貴分を呆れた表情で見ていた。


「あいつらは、問答無用で俺らの仲間と親分を捕まえていきやがった…」


 兄貴分の男が憎しみをこれでもかと込めた声で語り始める。


「絶対に…タダじゃおかねぇぞ!あいつらぁ!」


「ウス!」


「マル!他の奴らには伝えてあるな!」


「もちろんです!レイのアニキ!」


「もう四時半だ、そろそろ日が落ちて目が効かなくなってくる。俺らの時間だ!行くぞエルドラ!」


「ウス!」



 暗い道を気が遠くなりながら歩き、僕が気がついた頃にはあの花屋の近くまで来ていた。

 愛狼ガルムも僕の心が分かったのか尾を垂らしながら歩いている。


 なにから喋ろうか、なんて言おうか、あんなに手を振って送り出してくれたのに、なに一つ得ず帰ってくるキクノは僕のことをどう思うだろうか?

 そんな暗い考えがぐるぐると僕の脳内を支配していた。


 バン!バン!


 銃声と人々の叫び声が聞こえる。なんだ、この安全な大都市エルドラで何が起こっているんだ?


 僕は驚き不安に駆られる。しかし足は勝手に走り出している隣についてくるガルムも同じみたいだ。


 不安になると安心を求め、確認したがる。小心者の僕の癖だ。


 しかし今はそんな事関係ない、ただひたすらにキクノのもとへ走る事で僕は頭が一杯だった。


「さぁこいつらを殺されたくなければさっさとキングを呼んで来い!!」


「やめてくれぇ…」


 何人もの人質が捕まり、各地でキングを呼べと叫ぶ悪党達。その中にレイの姿は無かった。

 そして花屋にも悪党の手先が現れていた。


「オイ! さっさと呼んでこい。じゃないとこの女が死ぬぞ!」


 捕まっている彼女は、何も言わず固まっている。


「クソ! 遅かった!」


 僕がもう少し早く立ちあがって帰っていれば、僕があの暗い道を前を向いて走っていれば、まだどうにかなったかもしれない……


 いや…… 下を向くな!今は!今からは!目の前の現実をこの眼に焼き付け、逃げずに突破していかなければならない!


「キクノを離せ! この野郎!」

「バウバウ!」


「誰だテメェは? ヒーローのつもりか?」


「ヒーローじゃない…… 英雄でもない! だけどその子は! 必ず助ける!」


 落ち込みうなだれていた青年は、もうここにはいない。

 今はただ、少女を助けるために、立ち上がった一人の人間がいるだけだった。





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