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1話 女神との出会い


 生きとし生けるもの全てにおいて魂が存在する。

 この世界では魂の存在がとても顕著であった。

 あるものは魂を鍛えあげ、(ソウル)の力を使った。

 あるものは獣機と呼ばれる獣と魂を重ね、武具として共に戦った。

 そんな世界で青年と一匹の狼が歩き出そうとしていた。



「さぁどうだい安いようまいようちの野菜は天下一品、奥さん買ってってよ。」


「うちの肉は何処よりも新鮮とびきりいい肉ばかり、なんでも揃ってるよ!」


「さぁさぁ早いもん勝ちだ! うちの魚どこよりも美味しい食べごろも食べごろ! 旬なものばかりだよ!」


 早口で捲し立ていつ呼吸してるのかと思う店員達の声が、道いっぱいに響き渡っていた。


 ここは大都市のメインストリート。どこもかしこも人だらけで荒波のようにごった返している。その荒波の中、一人と一匹が流れに逆らって歩いていく。


「ここがエルドラ…… 噂には聞いてたけど、ここまで人が溢れかえってるとは……」


 その青年は短髪の黒髪に汗を湿らせて、必死に人波に抗っていく。その横には白狼が尾を垂らしてくっついていた。


「ガルム絶対にそばを離れるんじゃないぞ。」

「クゥ〜ン」


 僕こと、アレク・ルチアーノがここに来たのには理由があった。この街のファミリア、キングファミリアに所属するためである。


 しかし何処に行って何をすれば、ファミリアに入れてもらえるのか分からないので、途方に暮れていた所だった。

 誰かに聞いてみるしかないが、ちっぽけな村から出てきて、知り合いとしか話したことがない僕にとって、それはとても難しいことだった。


 人混みの中、誰にも話しかけられずに歩いていくと後ろから急に声をかけられる。


「どうかしたの? 何か困ってるの?」


 その声に驚いて僕が振り向くと、金髪のショートカットを煌めかせ、首を傾げている小柄な少女がそこには立っていた。


 その子は、ザ・町娘といった感じのロングスカートのワンピースで手元には買い物かごを抱えている。


「えっ? どうして僕が困っているのが分かったんですか?」


「だって暗い顔をしてうろちょろ歩き回っているんだもん、誰だって分かるよ?」


 そう言う彼女は、とても愛らしく優しい笑顔で笑いかけてくる。僕は、照れと緊張で何も言葉を返せずに呆然としてしまう。


 それを悟ったのか、彼女の方からどんどんと話を進めてくれる。


「私、ここから少し行った所の花屋で仕事してるの。よかったらそこで話を聞くよ?」


「じ、じゃあお言葉に甘えて……よろしくお願いします。」「バウ!」


 僕は彼女に向かって勢いよく頭を下げる。ガルムも真似をして頭をペコペコと下げていた。


「じゃあ、行こっか! 人混みに紛れて迷子にならないようについてきてね?」


 彼女は人の流れに乗りながらゆっくりと歩いていく。


 きっと彼女はとても優しい女の子なのだろう。見ず知らずで挙動不審の僕に手を差し伸べてくれるのだから。


 そんな彼女の一挙手一投足は、とても愛らしい小動物のようで見ているだけで癒される。


「ちゃんとついてきてる?」


「はい!」「バウ!」


 僕はガルムと迷子にならないよう一緒になって、彼女の後ろにピッタリとくっついて歩いて行く。


 すると前を歩く彼女が、人混みをのらりくらりとかわしながら平然と歩いていく事に僕は驚く。大都市で生きているとやはり、こんな人混みの中でも歩いていけるんだなと感動する。


 僕はこの時、大都市に来た緊張感で心臓がバクバクと大きく脈を打っていたが、彼女に先導されてからは落ち着きを取り戻していた。


「こっちだよ。」


 彼女に誘導され脇道へと入っていく。脇道にずれると人混みはまばらになり、いくらか歩きやすくなった。


 その道をしばらく歩いていると、一つの建物の前で止まる。

 

「ここが私の仕事場兼お家なの!」


 そう言って彼女は、片手を大きく広げて店を指す。

 

 その建物は、二階建てになっており下が花屋、上が生活スペースになっているようだった。


「凄いなぁ。」「バウー。」


 さすが花屋と言うべきか、というか花屋なのだから当たり前だが、色とりどりの花が置いてあり、建物の前に立つだけでうっとりするような匂いに一瞬で包まれる。

 その匂いで僕は、故郷の村の花畑に帰ってきたような気持ちになった。


「そういえば、自己紹介がまだだったね? 私はキクノ! よろしくね!」


 驚きと感傷で僕が突っ立っていると彼女が思い出したように喋り出した。

 満開の笑顔で挨拶をしてくれる彼女は、見ている僕を明るく照らしてくれる。


「僕はアレク・ルチアーノ、こっちの狼はガルム。よろしく!」


「バウ!」


 キクノはガルムの頭に手を伸ばしすと、わしゃわしゃと撫でる。ガルムもとても嬉しそうだった。


「この子、狼にしてはとても優しい目をしてるね。」


「うん、ガルムは優しいんだよ。僕の最初の友達。」


 そういえば、僕がガルムを連れてメインストリートを歩いていても誰も気にしなかったのには理由がある。それはこの世界の成り立ちにまで遡る。


 とても昔の事だ、悪魔達が潜む魔界、天使と神が棲まう天界、人々が生きる地上界、この3つを巻き込んで大戦が起きたらしい。


 悪魔の王ディアボロが、地上界を手にする為進軍してきた。しかしゼウス率いる天界と地上界が協力し、悪魔軍を倒したのだ。


 この世界では、その大戦の時から(ソウル)の力が使えるようになったと言われている。


 (ソウル)の力は主に二つある。


1つ目は[クロスソウル]


 獣機と呼ばれる動物達や他の魂と重なる事で、(ソウル)の力を引き出すことが出来る。主には武器や道具に変化させて力を使う。



2つ目は[ソウルオーバー]


 自分の魂を高めることで、(ソウル)の力を使えるようにする。主に修行や経験で鍛えられ、自身の能力向上や特殊能力を使うことが出来る。


 しかし(ソウル)の力も弱まってきているらしく。現在では、全ての生物が魂を重ねられるわけではないと、()()()()が発表している。


 このガルムとも魂を重ねられる訳ではないが、長年共に歩いてきた親友だ。これからもずっと一緒に旅していこうと思う。

 

「それでアレクは何に悩んでたの?」


 花屋の中に入っていった彼女は、買い物かごを丸テーブルに置いて椅子に座った。


「実はーー。」


 僕も共に花屋に入り、キングファミリアに入りたいこと、そのための方法を知らないか聞いた。

 

「ごめん! 力になってあげたいんだけど、私には分からないや。」


「そっか…… でもあそこでずっと立ってるよりは、良かったよ。」


 申し訳なそうにしているキクノに、僕も申し訳なさを感じてしまう。

 とりあえず、メインストリートの人混みから出してくれたことと話を聞いてくれた感謝を告げた。


「でもこの街には情報屋がいるの! その人なら知ってるかも、情報屋はね昼の二時ごろ、食事亭ハングリーに行って、オムライスとイチゴミルクをアイツにって言うと会えるみたい。」


「オムライスとイチゴミルク? またとっぴなものを頼む情報屋だね…… でもありがとう行ってみるよ!」


 僕は急いで立ち上がるが、ハングリーの場所を知らなかったことを思い出した。


「あっ、ごめん。ハングリーの場所教えてくれない?」


 キクノに食事亭ハングリーの場所を地図へと書いてもらい、足早で向かうことにした。

 

「忘れないでね。オムライスとイチゴミルクだよ?」


「オムライスとイチゴミルクね、忘れないようにするよ。それと何から何までありがとう、また挨拶しにくるよ」

「バウ!」

 

 僕はキクノとの別れを惜しみながら、大変惜しみながら花屋を後にする事にした。


「頑張ってね。」


「うん。」


 キクノは、小さく手を振って僕を送り出してくれる。頬が熱くなるのを感じながら僕も手を振って返した。そのまま僕は店を後にする。


「なるほど、こっちか。」


「待って!」


 キクノの描いてくれた地図を眺めながら、しばらく歩いていたら後ろから声をかけられる。


「最後に言い忘れてたことがあるの!」


 驚いて振り返るとキクノがいる。あまり運動は得意ではないのか、息を切らして少し汗ばみながら屈んでいる。僕は心配になって駆け寄った。

 

「何? どうしたの?」


「もし情報屋が、しぶって教えてくれなかったら。()()()()()()からの紹介って言って?」


「分かった、言ってみるよ。」


「うん、頑張ってね!」


 大きく手を振る彼女を背に、僕は食事亭ハングリーを目指して歩き出した。







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