そうだ、臓器売ろう
不老不死バディものです。
金が無いーーー目下の悩み事はそれだ。
今月の生活費はもうカツカツだ。
収入に対する支出が釣り合わない。
出ていくばかりで入ってこない。
今住んでいる築45年の木造ボロアパートを追い出されないためには、ある程度まとまった金が必要だった。
だから、
「臓器売れば金になるよ。おれたちの長所といえば、死なないことでしょ。治りだって早いし。だったらそれ売ればいいんだよ。需要あると思うよ」
へらりと笑いながらそう言う同居人兼仕事のパートナーである志々尾の言葉は、悔しいけれど理に適っていた。
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本当に唐突だが、俺たちは「不死者」だ。
理由とか経緯とか、諸々の説明は面倒だから省くけど、つまるところ「死なない」。
そこそこ長い年月を生きていて(でも見た目は普通の人間でいう20代後半くらいで止まっている。実年齢は忘れた)、これからも生き続ける。多分。
そして不死者でも現代社会を生きていくには衣食住が必要で、衣食住を維持するには金が要る。
それが冒頭に繋がるわけだ。
しかし、不死という体質(?)ゆえに、戸籍もなければ、保険証も、パスポートも、持ち家も何も無い、「どこにも所属していない」俺たちが、普通の人間のようにまっとうな職業に就くことは難しい。
だから俺たちは普段、「堅気でない奴ら」に、限りなく黒に近いグレーな仕事や、危険度の高い仕事を紹介してもらって日々小金を稼いでいるのだ。
さて、のっけからの臓器売買発言に俺が何も言わないのを肯定と受け取ったのか、志々尾はすぐに携帯を取り出すと、
「よし、聞いてみよう。臓器要りませんかーって」
「誰に」
「決まってんじゃん。坊ちゃんのとこ」
そう言ってさっさと電話をかけ始めた。
“坊ちゃん”とは、俺たちに仕事を斡旋してくれている人間のことだ。
さっき言った「堅気でない奴ら」の筆頭であり、この街を牛耳る「御厨組」の若頭ーーーつまりヤクザの次期組長ーーーである。
「もしもーし。志々尾だけど」
普通の人間であればまず確実に関わり合いを持つことを避けるであろうそんな相手に、まるで親しい友人のような口調で話しかける志々尾は、「そうそう、金が欲しいんだ」「いやー、なるべく楽に稼ぎたいんだよねぇ」などと身も蓋もないことを宣っている。
「そう、うん、だから臓器売買。やってる?」
仮にも自分の身体の一部を差し出す行為を出前みたいに表現するな、と言おうとしたが、志々尾は少しの間の後にこちらを振り向くと、グッと親指を立てた。
そして一言二言話して電話を切ると、へらりと笑って言った。
「やってるらしいよ。今から来いってさ。いや〜、雇用主?が悪でよかったね」
こうして俺たちは資金繰りのために坊ちゃんの所へ向かうこととなった。