表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/106

幼龍との戦い

 ネイベル達は少し距離のある卵を注意深く見守っている。


 黒っぽい大きな岩の塊のようにも見えるが、もうほとんど割れかけている。ここから見るだけでもかなり大きいのが分かる。


 ネイベル二人分、いや三人分くらいの高さはあるのかもしれない。もっと大きいかもしれないが遠目からなのではっきりとは分からない。


「口から吐き出すのも珍しいけど、随分大きいね。それに孵るのも早い」


 ネイベルはそう思ったことを口にする。


「そうね、スルーレの大きさを考えれば妥当なのかしら。孵るのが早いのは……詳しい事は全く分からないけれど、体の中で育てているんじゃないかと思うわ」


 リンはそう答えてくれた。


「私もそう思うわ」


「まぁどこが一番安全かって言えば、あの化け物の体内が確かに一番安全だろうな」


 ミネルヴァとカルーダもそう言って続く。


「海龍の子供が生まれる瞬間なんてあまり見られるものじゃないけど、一生見たくないものでもあるわね」


 そろそろよ、と言ってミネルヴァが注意を促した。


 ネイベルはしっかりと気合を入れる。


「リンは出来る限り広く空気の層を取ってそれを維持して。カルーダは無理をし過ぎないように。ミネルヴァは気付いたことがあったらすぐに教えて」


 一通り指示をだすと、深く集中する。


 全員が息を飲む。


 そして、ついに殻が割れた。






 大きな卵からうまれたスルーレの子供を、ネイベルはしっかりと観察する。


 全体的に大きさがそのまま小さくなっただけのように見える。それでもネイベル達の背丈より遥かに高い位置に頭が来るだろう。


 前足と後ろ足は体の大きさに対して親よりもしっかりしている気がする。



 ――キィィン



 甲高い音が耳に響く。


「龍の子供は総じて幼龍と呼ばれるわ。大きな牙や手足での攻撃と尻尾の針に注意しなさい。魔法も使うわよ。以前見た時は、幼龍の為に狩りの訓練でもしているつもりなのか、スルーレはほとんど手を出してこなかったのよ。だからスルーレの攻撃方法は分からないわ」


 ミネルヴァの言っている事は無茶苦茶だ。要するに全て注意しないと駄目じゃないか。


 スルーレが手を出してこないのは助かるが、幼龍を相手にするだけでも相当な苦労をするだろうな、とネイベルは思った。


「分かった、基本的には相手の攻撃を捌きながら反撃しよう。何かあった時に水の外へ出るのは俺だけだ。三人はしっかり固まっていて!」


 ネイベルはそう言うと、妨害呪文から順に試してみる事にした。



 ――キィィン



 スルーレは子供に対して、なにやら言い聞かせているような感じだ。


 幼龍がこちらを向いた。


 そして体をくねらせながら、怪物達より一層勢い良く突っ込んできた。


 ネイベルは両手に棍棒を持った。もう手が空いてなくても魔法が使えると確信できたからだ。


 一瞬だけ目を瞑って集中する。


 そして目を開くと同時に魔力を一気に開放し、眼光鋭く敵を射すくめた。



 ――眠れ。



 瞳孔がやや縦に伸びて黄色い目をしているなとネイベルが思った時には、相手の瞼が閉じていた。


「眠ったわ!」


「うまくいったけど勢いはそのままだから気をつけて!」


「カルーダ、落ち着いてしっかり攻撃を叩き込みなさいよ」


「おめぇは少し下がってろ!」


 ネイベルは、眠ったまま勢いよくこちらへ飛び込んでくる幼龍の頭を、思い切り棍棒で叩き付けた。


 カルーダは胴体に槍を突き刺している。


「こいつ、鱗がやわらけぇぞ!」


「きっとまだ幼龍だからよ。カルーダ、油断するんじゃないわよ」


 あっちもうまくやっているようだ。


 ネイベルの攻撃は、相手の頭蓋骨へと深く響くように綺麗に入った。


 カルーダの槍も胴体に深く突き刺さっている。


「起きるまでに攻撃を叩き込むんだ!」


 ネイベルがそう指示すると、カルーダは引き抜いた槍を地面へと置き、剣に持ち替え尻尾を切り落としにかかった。確かにあの尾に付いている針は危険そうなので良い判断かもしれない。


 ただ、尻尾の先だけでも優に大人数人分以上の太さをしている。柔らかいのは鱗だけで、中の骨は十分に硬いはずだ。一度では無理だろう。


 ネイベルは、ひとまず頭への攻撃を継続している。二度、三度、全力で殴りつけた後に四度目を叩き込もうとすると、横から背筋の凍るような殺気を感じた。


「ネイベル、危ないっ!」


 リンの声が届く頃にはギリギリで身を引けたネイベルであったが、自身のいた場所には幼龍よりも遥かに立派な針が突き刺さっていた。


「カルーダ!」


 ミネルヴァの声がするほうを向くと、カルーダが倒れている。


「スルーレがネイベルの溶岩のつぶてを吹き飛ばしてきたのよ!」


 辺りに散乱する魔法の痕跡を逆に利用してきたようだ。知性がかなり高いのだろう。


「私が見るわ! ミネルヴァは少し離れていて!」


「俺の後ろに回るんだ! 幼龍もすぐに目を覚ますはずだ」


 リンはカルーダの体を持ち上げると、左腕に回復魔法を掛け始めた。


「骨が折れているわ! まだ少し時間がかかるけど、すぐに良くなると思う。ネイベルはそれまで耐えて頂戴!」


「分かった! ミネルヴァも十分に気をつけて! 何かあれば教えて!」


 顔色が悪いミネルヴァが頷く。






 目を覚ました幼龍は、攻撃を受けた箇所を痛がる素振りを見せている。


 ネイベルはまた、目に魔力を集中させる。段々と慣れてきた。



 ――お前の敵は後ろにいるぞ。



 幼龍の目を射抜くと、瞳孔が丸くなっていく。


 後ろへ振り向き、スルーレに向かって突っ込んでいった。


 その隙にさらに深く目に魔力を集中させていく。これはとても便利だ。


 溶岩のつぶてを大量に作り出して、後を追うようにまとめて追撃させた。


 続けて雷の魔法を発動させて、風と水の融合魔法をなぎ払うようにぶつけてやった。


 今出来る全力を出すのだ。


 スルーレが口から細かい泡を吐き出しているのが見える。


 やがてネイベルの魔法はしっかりと幼龍の体を捉えたのだが、その威力は泡によって軽減されてしまったようだ。溶岩のつぶてはただの石ころとなり、雷は立ち消え、激しく回転する渦による攻撃も泡を細かくした後に掻き消えてしまった。


「くそっ! あの化け物はやっぱり桁違いだ」


「落ち着きなさいネイベル。リンがカルーダを治療する時間が稼げれば今は大丈夫よ」


 ミネルヴァはそう励ましてくれた。


「ああ、分かっている――また来るぞ」


 意識を取り戻した幼龍がまた突っ込んでくる。



 ――眠れ。



 瞳をとろんとさせ、再び深い眠りに落ちている。


 今は時間を稼ぐのだ。


 空気の層へと突っ込んでくる敵を風魔法で逸らしてやる。


 そしてさらけ出された胴体に向かって思い切り棍棒を叩き込んだ。


 肉から勢い良く血が噴き出す音がする。こいつらは陸上でも戦えるとミネルヴァは言っていた。油断してはいけない。


「ミネルヴァはスルーレの動きを注意して見ていてくれ!」


 そう言って両手の棍棒を徹底的に叩き付ける。その度に肉が抉られ返り血がネイベルに降り注いでいく。


 成体は向こうが透けている気がしたが、幼龍は鱗が水の色に近いだけで中にはしっかりと肉が詰まっている。ただ、生半可な金属よりもよほど硬そうな骨には、一切手出しが出来ない。


「だめだ、骨が尋常じゃない硬さだ。肉は抉り取れるけど骨は折れない!」


 ネイベルは方針を変えた。


 より集中を深めて風魔法を練り上げていく。


 十分に練り上げた風魔法は、ネイベルの目の前で高音を発しながらうなりを上げている。


「これでどうだ!」


 そのまま超高密度となった嵐の球を胴体目掛けて飛ばした。


 当たる直前に目を覚ました相手は、急いで体をよじり魔法をかわそうとするが、胴体の一部を抉りとることに成功した。


 再び勢い良く血が吹き出す。ちぎれた肉が細切れになって辺りに散乱した。


「これならいける!」


 ネイベルの魔法で胴体の一部を抉り取られた幼龍は、水中で真っ赤な血を垂れ流しながら暴れている。


 ネイベルは確かな手ごたえを感じていた。


 カルーダとリンの方も、そろそろ手当てを終えて戻ってきそうだ。リンの回復魔法の効果も上がっている気がする。


 ネイベルはそのまま時間を稼げるように、幼龍へと魔法を浴びせていった。



 

産まれたばかりではあるけど、海龍の子供を相手にしてもネイベルは頑張れています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ