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素敵な二人

 そういえばネイベル、とリンが話しかけてきた。


「あなた、そろそろ防具を新調したらどうかしら」


 確かにネイベルの防具と言えるような防具は、厚手のスターラビットの革のシャツくらいだ。


 カルーダにも散々やられたし、もう限界な気もする。いい考えかもしれない。


「それじゃあ防具を扱うお店に行ってみようか。この地図にカルーダお勧めの場所をね、色々と書いてもらったんだよ」






 余計な情報も多い地図であったが、武器や防具を扱うお店でお勧めの所が何件が記されていた。


 その中でも、一番腕の良い職人がいると書いてある場所がここだ。


「防具を一新できるほどのお金はないし、物々交換とかでなんとかならないか相談してみるよ」


「ええ、多分うまくいくと思うわよ」


「え、そうかな。俺はなんだかうまくいかない気がする」


 とりあえず交換に使えそうなのは、スターラビットの毛皮とプシーラの髭くらいだろうか。


 髭はちょっとな。見たことない人には貴重さが分からないだろう。


「すみません」


 店内はほどほどに広く、裏手には鍛冶場があるらしい。音が漏れ聞こえてくる。

 

 ネイベルが思ったとおり、まともな怪物相手に使えそうな武器はあまりなく、基本的に対人戦闘と、草原での動物系の怪物用といった感じだ。


 軽そうで扱いやすさに重点を置いているように見える。


 長剣、短剣、それに長さの違う槍などが多い。


 防具は逆に結構豊富だった。


 そういえばカルーダは、草原の奥には岩山地帯も広がっており、怪物もいない上に金属のとれる場所がかなり豊富にあると言っていた。


 大昔にプシーラが残していったのだろうとネイベルは考えている。


 そこからとれる金属を使って武器や防具を作っているのなら、武器や防具の質自体は、思ったよりずっと良いのかもしれない。


「あいよ。どうしたね」


 気の難しそうなお爺さんが出てくるかと思ったが、ひょろひょろの老婆が出てきた。


 奥さんか何かかなと思ったネイベルは丁寧に話を切り出してみる。


「実は外の探索で使う防具を一新したいと考えていまして、カルーダという人物の紹介で来ました。動きやすい軽鎧を考えています。手袋、すねあて、あとはブーツなんかも――」


 一生懸命に自分の要求を伝えていたネイベルだが、いきなり老婆の背後からお爺さんが現れて、乱暴な声が投げかけられる。


「おめぇ、ちょっとこっち来い!」


「は、はい――」


「その腰のモン見せてみろ」


「えっ、ああ、これですか。どうぞ」


 ネイベルは骨兵士の落とした棍棒と剣を渡す。


「こりゃおめぇ……」


 ネイベルの渡した武器を、じっと見つめるお爺さん。


 隣では老婆が、顔をくしゃくしゃにして笑顔をこちらへ向けている。


 なんだかとても心が温かくなる笑顔だ。


「おい、おめぇ名前は何だ」


「ネイベルです。今日はカルーダの紹介で来ました」


「――あぁ、あの馬鹿か」


 一瞬表情がこわばった気がする。


 ネイベルは、もしかして、と思った。


 いや、もっと早く気が付くべきだった。喋り方もそっくりじゃないか。






 武器と防具屋の店主はスタリーさんという名前で、老婆はルピスさんというらしい。


 両名とも80を大きく超えている様子だが、とても元気そうだ。


 お店はお弟子さんが継ぐという話を、ルピスさんが嬉しそうに話してくれた。


 スタリーさんは、ネイベルの体の寸法を測りながら、時折こちららに視線を向けてくる。


 なので最近のカルーダの話を少し振ってみたところ、ふんっとか、はっとか、愛想のない返事をする。


 ぶっきらぼうな感じだが、ちょっと嬉しそうにしている気がする。


 ネイベルは、スタリーさんの提案で、防具の代金を物々交換で済ませた。使っていない予備の剣を一振りと、髭を一本渡すことになった。


 一月ほどかけてじっくりと仕上げてくれるという話だ。


 ネイベルは、二人にしっかりとお礼を言って、お店を後にした。






「良い人達だったね」


「ええ、そうね」


「それに――」


「ふふっ、分かるわ。お爺さんはカルーダそっくりだったわよね」


 リンはクスクスと上品に笑っている。


 ネイベルも釣られて笑顔になった。


「お婆さんは優しそうだったし、お似合いだったよ」


「そうね。とっても素敵だったと思うわ。私達も、ああやって年を重ねていきたいわね」


「ああ、そうだ――え?」


 あまりにも自然にそう言うので、ネイベルは驚いてしまった。


「あら、いいじゃない。素敵な年の取り方をしたいのは、万人に共通する願いよ」


「まあそうかも知れないけど」


 でもリンは年を取らないんじゃ――。


「それとこれとは話が別なのよ」


 少し頬を膨らませるリンは、いつもの妖艶な感じではなくて、ちょっと少女っぽい雰囲気に見えた。


 どちらにしろ、ネイベルの心を掴んで離さない。


「そういえば、少し時間が出来たね」


 このままからかわれるのも癪なので、無理やり話題を変えた。


「もう……でも、そうね。魔法の鍛錬、しっかりやりましょうね」


 その間は魔法の鍛錬に加えて、カルーダに対人戦闘を仕込んでもらおうとネイベルは考えていた。


 鍛錬の合間には街中をリンと散策をする約束もしてある。


 デートみたいで楽しみなのだが、リンは――いやもうよそう、とびきりの美人とデートできるだけでありがたい話なのだ。






「ネイベル、次は右手で火のつぶてを出してみなさい」


 いい感じね、とリンは言いながらさらに続ける。


「今まではこのまま相手に直接ぶつける、という手段をとっていたわけだけれど」


 そこで区切ってこちらを見てくる。自分で考えてみろ、という合図だ。


「左手には水のつぶてをだす、とか?」


「あら、すぐに思いついたのにどうして今までやらなかったのかしら。そうよ、両手で別々の魔法を使えるようになると、幅が広がるのよ」


 例えばこんな感じでね、と言いながらリンは左右の手で別々にだした火と水のつぶてを混ぜ合わせた。


 手から離れた空中で、一瞬のうちに煮えたぎる水のつぶてが完成している。


「基本的にはイメージした通りに変化してくれるわ。私の場合は熱湯をイメージしてみたの。熱いお湯をかけられたら、怪物だって嫌がるでしょう?」


 ただ、この場合は別の変化もあるわね。個人の想像力しだいよ、とリンは付け加えて説明を終えた。あとは自分で考えて覚えていけという事だろう。


 二種類を混ぜる魔法があるという事は、三種類を混ぜる魔法もあるのだろうか、とネイベルは思った。


 しかし今は目前のこれを習得するのみだ。自分でやってみるのはそれからにしようと結論をだして、鍛錬に戻った。






「基本的に対人戦闘で大事なのは隙を突く事だ。慣れた者ほど隙が少ない。そして上級者同士の戦いになると、わざと隙を作りあって、そこを攻め合いながら崩していったりもする」


 カルーダは実演しながら見せてくれている。


「いいか、まずは相手の力量をしっかりと判断する事が肝要だ。良く見ろ。そんで隙が陽動だっていう可能性は常に頭の片隅に入れておけ」


 ネイベルは彼の動きを見逃さないように、目で必死に動きを追っている。


「相手が動き出す前に先手を取れ。そのためにあえて後手を踏んでも構わない。勝負を決める時は躊躇するな」


 見た目によらずカルーダの指導はしっかりとわかりやすいものだった。数十年もやっているだけある。


「ネイベル、おめぇには妨害魔法を使いながら人と戦える、という大幅な利がある。俺も初めてあれほどの睡眠魔法を食らった」


 ただ、といってカルーダは言葉を続ける。


「世の中いつでも魔法を使えるとは限らねぇ。それに妨害魔法が効かない相手がいるかもしれねぇ。なら対人戦闘の技術は磨いておいて損はねぇ」


 そういってカルーダは練習用の木剣を投げて寄越してきた。


「さあ始めるぞ」


 ネイベルはそれを手に取ると、カルーダの教えを意識しながら、必死に剣を振った。




素敵な年の重ね方をする二人。熱の入った指導をしてくれる二人。


良ければブックマークや感想、評価なども宜しくお願いします。

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