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国王の好奇心

 ネイベルとリンが会話を続けていると、部屋の入り口に控えていた従者が来訪者の知らせを告げ、部屋の扉が丁寧に開かれた。


 国王に続いて、カルーダと数名の人間が部屋へと入ってくる。


「いや、待たせてしまったかな。ちょっと頼れる護衛の戦士がなかなか目覚めなくてね」


 カルーダの方へ視線を向けてそう言いながら、国王がいそいそと長椅子へと腰掛けた。ここでは兵士の事を戦士と呼ぶらしい。それとも何か違いがあるのだろうか。


「さて、さっそくだが――ああ、そちらの御令嬢には挨拶がまだだったね。私がこの地下にあるガルガッド王国、その国王ピスソだ。先に断っておくが、面倒な事が嫌いなんだ。あまりかしこまらないでくれ」


 ネイベルはこの地下にある王国の名前を初めて知った。


「リンと申します、陛下」


 彼女は両手を膝の上で丁寧に合わせ、しずしずと頭を下げた。


 何名かが、つばをごくりと飲んだようだ。ネイベルもその気持ちがとても良く分かる。リンは仕草や話し方が、どれをとっても上品で魅力的なのだ。


「それじゃあ話の続きをしよう。君達の入国及び滞在は完全に認められた。この地を訪れた旅人として扱われる予定だ。そして、先ほどそちらのネイベル君とうちのカルーダが手合わせをしてね、私はそんな必要ないと止めたんだが――」


 横目で左手に控えるカルーダへと視線をやる。どうやら彼は、王の懐刀とでもいうべきか、専属で護衛についているようだ。


「しかしまぁ、晴れてネイベル君の実力は、大勢のガルガッド人の前に示されたわけだ。結果的には良かったかな、はっはっは」


 ずいぶん砕けた雰囲気だな、とネイベルは思った。それに君付けでよばれるなんて久しぶりだ。大昔に地上から離れている分、文化も相当に違うのだろう。


「さて、君たちにはいくつか伝えておかなければいけない事がある。さらに、私も追加で何点か聞きたいことがあってね。この部屋で待機してもらっていたというわけだ」


 どこから始めようか、と少し思案している様なピスソ陛下だが、先にいくつかこちらに質問を投げかける事にしたようだ。


 知的好奇心が抑えられないといった風に見受けられる。


「まず、君たちはあの凍土からやって来た、と言っていたね。実はこのガルガッドの地では、あの通路の先にある凍土への立ち入りを基本的に禁止しているんだ」


 ピスソ陛下は身を少し乗り出す。


「ここにいるカルーダでさえ、選び抜かれた精鋭の戦士達を連れて、あの凍土を突破するまでで精一杯だったんだ。故に終わりの意味も込めて、その先にあったという燃え盛る大地を炎土と呼んでいる。それにあの通路からは、魔物が溢れてくるからね――そう、君達の言う怪物という奴だ」


 机に置かれた茶の様なもので口を潤すと、ピスソ陛下は続けた。


「壁はその魔物達から国を守る為に長い時間をかけて建造されてきた。しかし、君たちは凍土どころか炎土まで抜けてきたと報告を受けているよ。そしてまだ先があるとも聞いている。是非詳しく聞かせてくれ」


 陛下の目は燦燦と輝いているように見えた。











 このダンジョンの地下深くにあるガルガッドという王国では、現在非常に頭を悩ませている問題があるという。


 どうやらこの先の目的地まで行けば分かるらしい。


 ネイベル達は現在、リンとカルーダと三人で、ピスソ陛下に言われた地点へと向かっている所だ。結構な距離があるので、馬車を貸してもらった。


 ダンジョンの中で馬を見た時は目が点になったが、ガルガッドでは長い間、馬を飼育することが推奨されていたらしい。


 確かに通り抜けてきた場所を見る限り、国の壁の中にはとても広大な湖があったし、なだらかな草原地帯もあった。水も食料も大昔から豊富だったのであれば、生物を飼うことは可能かもしれない。


 それにネイベルは、あの湖をみて直感することがあった。


 そもそも、ダンジョンの中に国があり、あまつさえ平和に暮らせている、という事実がおかしいのだ。


 おそらくあの湖は、ネイベルのいた洞窟にあった池の水と同じで、怪物を遠ざけたり発生させないような効果があるのだと思った。


 もし飲用水としても利用しているなら、病にかかりにくいといった効果もあるかもしれない。






「しかし、あの国王はちょっと対応が砕けすぎてないか? 公式にはただの旅人風情という扱いになった俺達に対しても、なんというか、その、まぁ上手く言えないんだが――」


 馬車に揺られながらネイベルは、別室で話した際に感じた事を口にした。


「おめぇの言いたい事は何となく分かるけどよ、ああいう気取らない所が陛下の魅力なのさ」


「確かに、人の懐に入り込むのは上手そうね」


 リンが今日も上品にそう言うと、カルーダはそれを肯定しながら大笑いしている。


「リン、もうちょっと言い方っていうものが――」


「いいや、リンは良く分かってる。ネイベルも少しは見習えや」


 いつの間に呼び捨てにするほど仲が良くなったというのだ。ネイベルはため息をついた。


「しかし、それにしても俺がダンジョンの奥の話をしている時の、ピスソ陛下のあの食いつきっぷりはすごかったなあ。目から光が溢れ出ていたよ。俺が死にかけた時の話なんか大笑いしてたしさ……当時の俺はそれどころじゃなかったっていうのに」


「ああ、おめぇは元々商人なんだろう? ちょっと俄かには信じがたいが、まぁ、あの語りっぷりを聞くにあながち嘘じゃねぇんだろうな。なかなか堂に入っていたぜ。俺も途中から聞き入っちまったしよ」


 褒められれば悪い気はしないネイベルだった。


 ちょっと単純すぎるかもしれない。ただ、そんな彼らには申し訳ないが、完全に本当の事を話したわけではなかった。


 リンが魔道具であるやかんから顕現した、なんていう話は出来るはずもない。


 ましてや、文字通り死にかけた状態で、リンに数年間も面倒をみてもらっていた、なんていう話はそれこそ――へそが茶を沸かすような話をするなと怒られてしまうだろう。


「しかしネイベル、おめぇの言った事を疑うわけじゃねぇが……本当に炎土にはまだ先があったなんてなぁ。陛下がいうには、大昔から残されていた資料の一部にだけは、一応少しだけ情報が残っていたらしいが……あんなもん、誰も信じちゃいなかったしなぁ」


「あら、昔の人達は、あなた達が到達出来なかった所まで足を踏み入れていたって事じゃない。自分達が出来ないから嘘だなんて、そんな酷い話もないわよ」


「それを言われちゃ立つ瀬もねぇんだが……今の時代とはちょっと違った情報なんかも沢山あるみたいでな、資料自体に疑いの目が向けられていたっつー話だ」


「先人の知恵は大切にするべきよ」


 リンは少し胸を張りながらそう言った。それを受けて、違いねぇと豪快に笑うカルーダ。そんな両者を見ながら、もしかしてこの二人って意外と息が合うのかな、とネイベルは思った。






 目的地に到着した。ネイベル達が出てきた通路は、この国では南にあたるらしい。ここは国の最北端だ。


 馬車を降りたネイベルとリンは、御者を買って出てくれたカルーダにお礼を言って、周りを見渡した。


 カルーダが歩きながら指を差した方向に顔を向ける。



 ――なるほど、あれのことか。



 ネイベルの目には、見覚えのある粗末な木製の扉が映っていた。


「これが陛下の言われていた扉だ。ネイベルとリンには、この先の探索をしてもらって、情報を持ち帰って来てもらいたい」


「簡単に言ってくれるわね」


「まぁそう言うなよ、色々あるんだ」


「どっちみち生還するには、やらざるを得ないんだ。別に良いさ」


 そう言ってネイベルは、目の前の粗末な扉を開いた。少し懐かしい感覚が胸にこみ上げてくる。


「なんだ気持ちわりぃな、ニヤニヤしてよ」


 ネイベルは慌てて表情を戻す。そして言った。


「別になんでもないよ。それより、カルーダ達も当然ここは探索してみたんだろう?」


「ああ、とりあえず先へ進んでみればわかる」


 カルーダがそう言うので、ネイベルはひとまず先へと進んでみる。


 通路はとても短く、扉を開けたら少し先に出口がもう見えている。


 周りは黒っぽい岩壁となっているが、外はかなり気温が高いみたいだ。吹き込む風が、むわっとした熱を運んでくる。


 そのままネイベル達は、すぐに通路を抜けた。




新しい空間へ!


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