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入国審査

 ネイベル達は現在、牢屋の様な所に叩き込まれている。


 ダンジョンの中に閉じ込められたというのに、さらにその中で牢屋にまで閉じ込められる事になるとは……。


 まったく、ままならない世の中だ、とネイベルは思った。


 とりあえず言語は通じるのでその点は本当に助かった。あとは無事にここを通過させてもらえれば万々歳だ。


「これから俺はどうすれば良いんだろう」


 ちなみにリンも一緒に捕まったのだが、誰か人の気配がするまでは、ランプの中に篭っている。便利な身体だ。


 やかんの注ぎ口に身体が吸い込まれていた。


(そうね、いくつか方法はあると思うわ。でも一番手っ取り早いのは、あなたの実力をしっかり示すことだと思うわよ)


「俺の実力? 確かにリンに教えてもらった魔法はかなり使えるようになってきたし、戦闘技術も磨いてきたけど、一流の人間と比べられたらどうしようもないよ」


(そう思っているのは、あなただけだって言っているのよ、ネイベル)


 ネイベルにはリンの言っている意味が分からなかった。


 ダンジョンに閉じ込められてからは六年以上が経過したが、実際に鍛錬などに費やした時間は二年にも満たない。


 冒険者家業を続けている猛者なんていうのは、それこそ十年、二十年単位で活動をしているのだ。比べるまでもない。


 ただ、中堅冒険者くらいは名乗る権利があるのかも、とネイベルは思った。リンが言うには、魔法を三系統しっかりと扱える人間はそれほど多くないという話だからだ。


 妨害系の適正が高いのも、思わぬ所で需要があるかもしれない。


「リンにそうやって評価してもらえるのは嬉しいけど、実際に自分の目で見て判断するよ。がっかりしたくないし」


 そういってネイベルは、ここから出してもらう為に何か有効な手段がないか考え続けるのであった。






「出ろ」


 見張りが近づいて来てそう告げる。あれから数日が経過した。


 出された食事は最低限のもので、こっそりやかんの薬湯を飲みながら、お腹が空くのをごまかしていた。


 荷物は全て取り上げられたネイベルだが、腰に掛けていたやかんだけは、見た目が完全にやかんなので見逃された。


 ふたを逆さまにはめる事によって、妖しい光を放つ事もなかったのが後押しをしたのもあるだろう。


 最近では信じられないほど綺麗になったが、傍から見れば、やかんはどこまでいってもやかんだ。


「着いて来い」


 そういうと、前と後ろを人に挟まれて、ネイベルはどこかに連れて行かれるようだった。


 ちなみに、壁の中に入る前に目隠しをされていたし、牢屋から出るときも目隠しをされているので、周りの様子はさっぱり分からない。リンから少し聞けるだけだ。






「ここに座って少し待て」


 扉から外へ出る音がする。金属製の扉だな、とネイベルは思った。さらに鍵も掛けられてしまった様だ。それからややあって、次の指示が出る。


「目隠しを取れ」


 ネイベルは言われるままにした。


 初めてみる壁の中の光景は、完全に壁だった。


 四方を壁で囲まれた上で、背後には金属製らしい扉がある。目の前には水晶の玉だろうか。うっすらと光を帯びながら敷物の上に置かれている。


 その周りには濃密な魔力の気配を感じる。盗難防止の魔法の類だろうな、とネイベルは思った。


 自分で利用した事がないので知り合いの商人から聞いた話になるのだが、専門の魔導師を呼んで掛けてもらうのだと言っていた。


 そして驚くべき事に、水晶から声が聞こえてきた。


「質問に正直に答えろ。嘘を言ったと判明した場合、貴様の命はないと思え」


「まず、名前と年齢、職業、使える魔法、これを答えろ」


 あの水晶はどうやら魔道具だった様だ。正直ネイベルはうんざりしていたが、はやくここを通過したかったので質問に答えた。


「ネイベル・ティボルだ。三十一歳、職業は商人崩れの冒険者で、使える魔法は三系統。攻撃、回復、妨害、以上だ」


「……よろしい。では次に、貴様の所持品について答えろ。まずはこの武器からだ。どこで手に入れた」


「ああ、それは俺達が出てきた通路のずっと先でな、骨の兵士みたいな怪物を倒した時に拾ったんだよ」


「…………」


 向こうで何かひそひそと話し声が聞こえる。


「で、では次だ。お前の所持ひっ……お、お待ちをっ――」


 なんだなんだ。向こうで何が起こっているのだ。ネイベルはとりあえず黙して待つ。しばし間があってから先ほどとは違った声が水晶から響いてきた。


「おい、俺は面倒くせぇ問答は嫌いだ。はっきり答えろ。それだけでいい。聞くぞ? お前は地上の人間か?」


 ネイベルは、リンの言っていた言い伝えを思い出していた。


 確か地底の人達は、地上の人間に追いやられた民族達の末裔だと言っていた気がする。


 ただ、今更地上の人間ではないと言っても嘘はバレバレだろうから、もうどうしようもない。


 ネイベルは開き直ることにした。


「その通り、確かに地上の人間だ。それに、俺も正直うんざりしている。あの通路のずっと先からここまで歩いて来ただけだ。目的はこのダンジョンを生きて出ること。その為に壁内を通過させてもらいたい。上方へと至る階段などがあればそこを使って即座に出て行く事を約束する」


 ネイベルは一息にそう言い切った。


「あの通路の先から来た……? ダンジョンだ? お前は一体何を言っているんだ」


 おかしい。話が通じないな。どういう事だろうか。


(地上と地下に別れたのはもうずっと昔なのだから、あなたの常識が通用するとは思わないことね)


 ネイベルは声が出そうになった所をぎりぎりで踏みとどまった。ネイベルだけが連行されたので、リンは今、一人であの牢屋にいる。


 確かに常識がそのまま通用するとは思ってないけど……言葉が通じると言う事は、ある程度文化も似通っているものではないのだろうか。とりあえずネイベルは水晶に向かって質問に答える。


「あの通路の先は大別すると、凍える大地、燃え盛る大地、墓地、そして草原だ。それぞれの空間が階段で繋がっていて、人間を襲ってくるような怪物や罠などがある。地上ではこういう性質をもった生物を、ダンジョンと呼んでいる。ここはその一部だ」


 ネイベルはなるべく丁寧に答えた。ここの牢屋に叩き込まれた原因は、どうやらあの通路の先の大地のことを、大した事のない場所だと言ったせいらしい。リンはそう言っていた。


 そのせいで嘘つき認定を受けたというのだ。普通の人間にとってあの大地は、相当に酷い場所だから、と。


 なかなか返事が返ってこない。相談でもしているのだろうか。


 もうネイベルに隠し事は一切ない。……事もないが、大体話せる事は話してしまった。


「おい! おめぇその話、命を掛けて本当だと誓えるか?」


「ああ、誓おう。俺の荷物を検めただろう。その中にも数点、証拠となるものがあるぞ。それにお前らが取り上げた俺の武器は、さっき言った墓地で手に入れた物だ」


「……分かった。『おい! こっちこい!』……よし、それじゃあお前――なんだ、ネリベルだったか、少しそこで待ってろ」


 随分と声の大きい地底人だが、彼らはこれくらいが普通なのだろうか。


 ひとまず、何とか話を信じてくれた様な気がする。






 ネイベルは現在、非常に格式の高そうな広間に立たされている。


 この広間自体が綺麗に磨かれた石造りであり、主要な場所にはしっかりと絨毯も敷かれている。壁際には槍を持った兵士がずらっと並んでいて、何かあれば彼らが即座に動く事になるのだろう。


 目の前には、舞台を鑑賞する時の様な、円を切り取った形の座席が設けられており、その中央には一際豪勢な椅子が置いてある。ネイベルからは距離があるが、正面の位置だ。


 その豪勢な椅子から見て左手の位置は空席になっているが、その他の座席は恐らく地底人と思われる人々で大体埋まっている。


 ネイベルは彼らを良く観察してみたが、肌の色くらいしか違いが分からない。


 青白い肌の人が多い様子だが、健康的に見える褐色系の人もおり、頭髪の色も黒から茶色から様々だ。


 結局人間はどこまでいってもあまり変わらない生き物だという事だろう。地底に住んでいるか、地上に住んでいるか、くらいの違いしかないのかもしれない。


 壁の外にいた、少し見た目の変わっていた兵士達は珍しい存在だっただけなのかもな、とネイベルは思った。


 そして、いくらネイベルでも十分に理解出来た。恐らくここは、この地底にある国の王様か何かと謁見する為の場なのだろう。






 ネイベルの横に、老兵士が近づいてきた。兵士長とか騎士団長とか、そういった肩書きが似合いそうだ。


 悪さを働かないように、という事だろうか。腰に縄まで巻いておきながら、随分と慎重だ。


 ネイベルは今、完全に丸腰だし、なによりこの老兵士は凄腕の雰囲気がする。


 気配というか、殺気というか――ネイベルもダンジョンで生き延びてきて、そういったものを感じ取れる様になっていた。


 すると、扉が開け放たれた音がした。


 その瞬間、壁際の兵士達が一糸乱れぬ見事な動きで、槍を上空に掲げた。


 コツン、コツン、という足音だけが静寂の中で鳴り響く。


 入場時に何か言ったりするわけじゃないんだな、とネイベルは思った。ちなみに隣の老兵士も右手の槍を掲げている。


 そしてネイベルの目の前にあった豪華な椅子には、精悍な顔つきで、ネイベルより幾分年上に見える男性が着席した。


 平伏をするとか、そういった決まりはないのだろうか。俺はこのまま立っていていいのだろうか。



 ――今更か。



 特に何か言われたわけでもないし、ここでも開き直ることにした。


 中央の男性が、広間に響くような美しい声で語りかけてくる。


「私が現在国王を務めている、ピスソだ。さっそくだが、ネイベルと言ったか。手荒な真似をしてしまったね。ただ、こちらとしても地上の民と接触するのが久しぶりで、どういう対応を取るかで意見が割れてしまったんだ」


 さらに国王は続ける。


「結論から言うと、現在我々は少し困ったことになっていてね。君がその解決に役立てるのであれば、入国及び滞在を許可するという事になった。さっそくで悪いんだが、横にいるカルーダと手合わせをしてみてくれないか」




国王と対面したネイベルは、いきなりとんでもない事を言われました。


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