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まさかの仕打ち

遅れました

 錆びている鉄格子。触ると冷たい石畳。随所に苔とシミが出来ている壁。明かりは小さな机の上に置いてあるロウソク一本だけで、その光では照らしきれない部屋の隅を真っ黒な虫が走り回る。鉄格子の向こう側では意味もなく動き回る牢番がいる。








 ここがどこかと聞かれれば、“地下牢”である。それも王城の。







(あのクソ野郎があぁぁぁぁぁぁ!!!)



 心の中でクロイズは怨嗟の声を上げる。一回、大声を出したら今も動き回っている兵士に殴られたため、心の中で叫ぶしかない。



 遠路はるばるやってきたクロイズ。やっと王都に着いたと思えば不審者扱いされ、目的の王城は旅で酷使した身体に響くほど先にある。疲れた身体に鞭打って歩きだせば、少し進むたびに取り調べを受ける。



 ようやく王城にたどり着いた時、旅の疲れや何度も警備兵に捕まったことによる苛立ちで、クロイズは目が血走り息も荒くなっていた。



 そんな男が片手に鈍器(スコップ)を持って王城にやってきたならば、王城の門番はどうするか? 当然、取り押さえる。



「怪しい奴め! ひっとらえてやる!」

「……は? えっ、ちょっと待て! 俺の右手をよく見ろ!」



 自分に向かってくる兵士達に右手を見せる。だがその右手に持っている赤黒いスコップが目立ちすぎて、聞く耳を持ってくれない。



 全力で暴れれば逃げることもできるが、そんなことをすれば兵士に手を出した罪で処罰されてしまう。相手がクロイズの話を聞いてくれないのが悪いのに、全てクロイズが悪いことになる。この時点でクロイズは王都が苦手になった。



「なにがあったんだい?」



 声がした方を振り返ると、そこには無駄に豪華な鎧をまとった男がいた。その男をクロイズは見たことがあった。あったのだが……



「誰だあんた?」



 初めて見た時、男はハッキリ言って「クソ野郎」の一言で表せる人物だったはずだ。それこそ金髪碧眼でイケメンで高身長といういい所を塗りつぶすほどの。



 今はどうだ? 他者をゴミを見るような目ではなく慈しむような目をしており、高慢な声は気遣いを含んだ優しい声になっている。思わず誰だと聞いてしまったクロイズは悪くない。



「貴様! 何という口の利き方だ! この方は勇者マサキ様だ! それも歴代最高クラスで強いのだぞ!」

「あんたも勇者なのか? 俺も勇者なんだ」



 この金ぴか勇者が来てくれたおかげで、勇者であることを主張するタイミングができた。このチャンスを無駄にするものか! とばかりに門番の言うことを無視して、自分も勇者であることを主張する。



「聞いてるのか貴様!? ……今、何と言った?」



 激昂した門番だが、すぐに平坦な声になる。もう何度も同じことを繰り返しているクロイズは慣れたように右手を動かす。押さえつけられているので格好悪いが。



「勇者なんだよ、俺も。どいつもこいつも人が勇者の証拠を見せてやっても不審者扱いしやがって。王都に来て何回俺がこんな扱いをされたか知ってるか?」

「不審人物のような扱いをしたことについてはすみませぬ! しかし、そのような扱いをされても仕方がない恰好ですぞ!」

「貧乏なんだよ、剣を買う余裕がないくらいのな! 勇者が絶対に綺麗な恰好してると思ってんじゃねぇ!」



 地面に押し倒された状態から解放される。王都の兵士は人を見る目を鍛え直した方がいいのではないだろうか?



 すぐそばに立っている金ぴか勇者にも礼をしようと向き直る。こいつがいなくても問題はなかったかもしれないが、すぐ解放されたことには感謝している。



 そこでクロイズの意識は途切れた。




 ♦♦♦




 目が覚めたらびっくりした。目の前にあった城がいつのまにか鉄格子に変わっていれば誰だって驚く。



 クロイズが覚えているのは、金ぴか勇者もといマサキとやらに礼をしようとした瞬間、あごに衝撃が生じたようなことぐらい。



(なんで俺はこんなところにいるんだ?)

「目が覚めたか。ゴミムシ」



 誰がゴミムシだ! と憤りながら声のした方を見ると、マサキがいた。こちらを見る目は完全に人に向ける目ではない。



「誰だお前?」

「ゴミは数分前のことも覚えてないのか? 俺はこの世で最も強く価値のある人間、マサキ様だ。そのちっぽけな脳みそに刻み込んでおけ」

「お前みたいなクソ野郎は見たことがないから聞いたんだけど? いちおうお前と顔も名前も同じ奴なら覚えてるんだが」



 正直に思ったことを口にしたら、マサキは顔をしかめて怒鳴ろうとした。だが、見回りの牢番がこちらに来た途端、魔法でも使ったのかと思うほど一瞬で笑顔になる。



「僕はとても悲しいです。世界を救う使命を背負いながらその手を汚す者がいるなど」



 いきなり何言いだしてるんだこいつ? 



「手を汚した奴って誰だよ?」

「君ですよ」



 クロイズを指し示すマサキ。丁度近くまでやってきた牢番のクロイズを見る目は完全に犯罪者を見る目だ。



「ふざけんな! 俺は犯罪を犯した覚えなんてないぞ!」

「ほほう。証拠もあるのに言い逃れをしようというのかい?」



 そう言ってマサキがちらつかせるのはクロイズのスコップ。



「こんなものを持って王城を訪れるなど、国家転覆罪に該当します」

「家で武器になりそうなのがそれだったんだよ! というかスコップ持って城に来るだけで罪になるとかおかしいだろ!」

「言い訳は結構。しばし牢屋の中で反省しなさい」



 クロイズの言い分は無視され、マサキは悠然と去っていった。

 

 


王城の地下牢と分かったのは、牢番に教えられたから。

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