プロローグ
よろしくお願いします。
「マサキっ、お願い、頑張って!」
「任せろ、ティア! 君のためにもみんなのためにも必ず勝つ!」
つい先ほどまで活気があった村に、凄まじい衝撃が広がっていく。周りにはハッキリと分かる程濃い血の匂いが漂っている。
その村の中央部で、修道服に身を包んだ美少女が倒れた仲間を介抱しながら、今も戦う青年に声援を送る。
青年が相手にしているのは、この世界最大の人類の敵である魔王の配下である“オークエンペラー”。オークの頂点に立つ魔物であり、この村を滅ぼした存在だ。
これまで数多の強敵たちと戦い続け、自他ともに認める最強の一角と言っても過言ではないパーティー。そんな彼らですら苦戦するほど魔王の配下は強かった。
自分を含めて四人いたパーティーメンバーの内、武闘家と魔法使いはすでに重傷を負っており、僧侶がなんとか二人の命を食い止めている。
早く二人を助けようとするために青年――勇者は勝負にでる。
「くらえ! 僕の最強の一撃を!」
相手の一瞬の隙を見つけると、ありったけの力を込めて剣を振り下ろした。
その隙は相手がわざと見せたものだった。
結果がどうなったかは語るまでもない。魔王の配下が死んだという報告がされることもなく、彼らが生きているという報告もなかった。
先程まで勇者達の相手をしていたオークエンペラーは、たった今殺した四人と先に殺しておいた村人達を食べ始めた。
この村を襲った理由は特にない。強いて言えば小腹がすいていたことと、魔王から人間を見つけたら殺せと命じられていたことに従っただけ。この村は運が悪かった。
半数以上の村人をその太い腹に収めたところでオークエンペラーは気付いた。少し離れたところに、メイドが立っているのだ。それもとても美人でスタイルのいいメイドだ。
オークにとって性欲は食欲よりも重要だ。故に、オークエンペラーはメイドに向かって歩き始めた。メイドは全く動く気配がない。
オークエンペラーはメイドに逃げられるとは思っておらず、また逃がす気もなかった。オークエンペラーの頭の中はすでにメイドでどのように遊ぶかでいっぱいだった。
だから考えもしなかった。こんなところにメイドがいる不自然さなど。メイドのすぐそばまで近づいたオークエンペラーがメイドに手を伸ばした途端――
目の前に地面が迫っていた。それが魔王の配下、たった数名しかいない幹部であるオークエンペラーが最後に見た記憶だった。
オークエンペラーを仕留めたメイドは一人呟く。
「こんなにたくさんの豚肉が手に入るなんて、今日は運がいいですね」
にっこりと、満面の笑顔で。辺り一面が血の海になっていることなど、微塵も気にしていないように。