僕は抱き枕ではありません!
暫くして、目を開けて見る。外は星空でいっぱい。裏山だから明かりが少ないし物凄く綺麗。
「はぁ。結局僕は死んだのかな?だってこんな綺麗だし…。それにしても、何かがお腹に乗っているような…って、うわ!」
いや驚くでしょ!お腹を見たら女の子がその上で寝てるんだよ?!見事にうつ伏せで僕と交差するように寝ている件。何をやってるのこの子は?!しかも下手に動いたら可哀想な寝顔してるし…!なんか前とは違う意味で厄介なんだど…。
ま、まあ…殺しにきてるわけじゃないし…助けてもらったし…いやいや、このままじゃ駄目でしょ!ここ外だよ!とりあえず、頭を撫でて揺すってみる。
「えっと、起きて?ここで寝ちゃ駄目だよ?」
「うーうーん…あ、夜なんです!お休みなさいなんです!」
あー、確かに夜かー。…って違うわ!
「ちょ、ちょっと…ここ外だよ?ここで寝たら風邪引くよ?!」
「そ、そうなんですか!外で寝ちゃいけないんですか?!で、風邪ってなんですか!空飛ぶんです!」
何言ってるのこの子?!誰か説明して!寝ぼけてるのかな?
「えっと…取り敢えず降りてくれないかな?僕動けない。」
「降りるですか?!あ、抱き枕があるんです!しっかり握って眠るんです!」
とか言って僕に抱きついてきて目を瞑る少女。うん、可愛い…じゃなくって!!
「え、えっと…降りてお願い…あのー、重いというか…」
「ひ、酷いんです!質量差別されたんです!生きていけないんです!」
質量差別って何?!初めて聞いたよその言葉!というより退いてくれる気配がないのでもう放っておくことにする。まあ小さい女の子だし…夜遅くまで起きるのは良くないのかな?まだ、20時ぐらいだけど…。というより、この子は今の状況を理解しているのかな…。
「ね、ねえ…名前なんていうの?」
「はい!アマミなんです!魔女なんです!お休みなさいなんです!」
待てい!寝るな!というより、なんかすごい言葉聞こえたぞ?!
「ま、魔女?」
「魔女なんです!みんな信じてくれないんです!どうしてですか!」
なんで僕に当たるの?!僕まだ疑問形しか発してないよ!というより、見た目ジャンバースカート履いただけの小学生じゃん!普通信じないよ!
「あ、うん…アマミちゃんね。アマミちゃん?ここは危ないよ。今すぐ離れた方がいいよ?」
「危ないってなんですか?!隕石が降ってくるんです!だったら危ないんです!」
いやそれ本当?本当だったら今すぐ逃げないと死ぬよ?!念のため、上空を見たけど異常なし。うん知ってた。
「だって、ほら、僕がいるし…それに見て。」
さっき僕が爆破した場所を指差す。アマミちゃんもそれにならってそっちの方向を見る。
「な…なんなんですかこれは!いけないんです!治療するんです!」
ちらっと、現場を覗くと…まあ予想通りだった、うん。爆発の中心地から半径5 m程が完全に消失している。巻き込まれた人間から木々から土から全部。例外は無い。まあ、結果論では、直径10 m、深さ最大5 mの球状クレーターができた感じ。即ち僕は生まれて初めて人殺しをした…。い、いや…自己防衛だし…それに、この魔法は人殺しより残虐な…って、何やってるのあの子?
少女がクレーターの方へ行ったかと思ったら、急に地面が揺れ始めた。いや…クレーターの地面が隆起し始めたんだけど?!そのうち、完全に埋まって…草が生え始めて、木も一本生えたんだけど!え…えっと、まあ裏山だし周りも木々が立ってるから違和感はないけど…違う、何かがおかしい。少なくとも数秒で大木が生えるのは何か間違っている…はず!
「何がどうなっているんですか?!あんな大きな穴は見たことないんです!陥没なんです!空飛ぶんです!」
いやいや、勝手に空飛ばないで!しかも、当本人ジャンプしてずっこけたよ。まあここは裏山だから足場は良くないからね、しょうがないね。それにしてもここで本当に空飛ばれると突っ込みきれなくなるから助かった。どうやら魔女云々とはいえ空は飛べないようである。
「痛いんです!何するんですか!」
いやいや僕のせいじゃないからね!こけたの自爆じゃん!ただ、アマミちゃんが疑問を放つのは仕方がないかもしれない。アマミちゃんがおそらく僕の後ろから現場を見てはいたんだろうけど…爆発後の現場を見ていない可能性がある。それに、あの魔法はただ爆発するだけじゃない。
あの魔法は消滅魔法。爆発した範囲内を全て抹消する。しかも、物理的ではなく存在そのものをこの世から完全消滅させる恐ろしいもの…。例えば、本来誰かが死んでも遺体は残る。仮にそれを燃やしたとしても骨は残る。それを埋めたとしても、その人が生きていたという証拠は必ず残る。記憶でも良い。写真でも良い。言葉でも良い。とにかく何かしら残る。
ただ、この消滅魔法を食らった生き物はそれさえ全てを抹消されてしまう。記憶も残らない。本人の親や兄弟、息子や娘全て完全に記憶から消される。写真からも消える。言葉や文字も消える。名前も消える。学校であれば名簿からも座席からも全て。完全消滅とはそれぐらい恐ろしい魔法なのである。もちろんこれは僕の魔法ではなく、誰かから借りた魔法。使える本人は何故これ程恐ろしい魔法を作ったんだろう…。
即ち、アマミちゃんにしてみれば目の前で爆発が起きたことと、その結果クレーターが出来たことは理解出来てもそれによる犠牲者は全く分からないのである。ただただ爆発が起きた…僕の手によって…それしかわからないはずである。因みに、この魔法の発動者だけは消滅させた生き物についての記憶は残るので…さっきまでボコボコにされていたとか…旧友に裏切られたとか…というのは消えない…世の中そんなに甘くない。