9023列車 日本一映える物置
前乗り前降りのワンマンカーから木の板に足を付ける。コツンと言う音が足下から響く。僕、高槻、今治が降りたことを確認し、他に降りる人がいないことを確認するとキハ54形のドアが閉まった。
「・・・。」
ふと後ろを見ると車両がホームに入りきっていないのが分かった。よく見える前降り、後ろ乗りというワンマンカーにありがちなバスみたいな運用が出来ないのか。
「ブルルン、ギュイィィィィィィィン。」
エンジンの音を響かせ、糠南駅を発車していく。駅に周りには踏切とそれを横切る道路しかなく、それ以外は人の手が入っているとは思えない場所である。列車が行ってしまうと辺りを静寂が包んだ。
「・・・。」
チラッと列車の中から見えた白いものを見る。僕はこれがなんなのかは知っているが、改めてみると凄い駅に来と思う。
「どっからどう見ても100人載っても大丈夫な物置か。」
「その物置だな。」
物置の扉を開けると色んなものが入っていた。除雪用の道具、時刻表、運賃表。ボトルケースをひっくり返し、座布団が置かれただけの椅子。そして、何故かさがったままの正月道具。謹賀新年ってもうそれから10ヶ月以上経っている。寧ろ、来年の正月の方が近いのだが・・・。この物置には外の光を入れるために側面に窓が付いている。良くもまぁ、物置をここまで魔改造したものだ。
(・・・これ凄いなぁ・・・。)
もちろん、こんな駅に利用者などいない。昔はこの近くにあった集落の人々が使っていたらしいが、その集落も今は消えて無くなったらしい。どこに集落があったんだろうか・・・。辺りを見回しても、集落らしい場所は見当たらない。糠南の近くと言ってもちょっと離れているのかな・・・。
「・・・。」
「北海道の現実って言うのを否応なく見せつけてくるなぁ。この駅・・・。」
高槻が言う。
あっ、そういえば今治はどこだ。そう思うと、今治は物置の近くにいた。今治は物置にカメラを向けている。まぁ、あの日本一映える物置はここぐらいでしか見ることが出来ないからなぁ・・・。そう思って近づいてみた。
(ッ・・・。)
ミクが座っている・・・。
(何もツッコまないことにしよう・・・。)
それを写真に撮って「647の列車に待ち人がいます。」とツイートする。
この駅にいる20分というのはあっという間だった。遠くから「ガタン、ガタン」という音が響き、駅近くの踏切が鳴り出すと上り列車が糠南駅へとやって来る。車両はさっきと同じキハ54形。車内には2人乗客がいたが、席は選び放題だった。
糠南6時47分→天塩中川7時05分
糠南→天塩中川間天塩中川で下車時運賃精算の上乗車
僕は手に取った整理券を写真に収める。ここでしか見ることの出来ないものだからな・・・。乗車人員が0人である糠南駅。地元がお金を出してあの駅を維持してくれとも言わない限り、あの駅が何時廃止になってもおかしくはない。キハ54からこの整理券が出てこなくなる日も近いのかもしれない・・・。