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第57話(トラウマの言葉)

 ここで嘲笑しながら魔族の一人が俺に向かって、魔族相手に余裕で勝利した人物がいたらしい。

 俺はとても嫌な予感がした。

 もしも。


 あの時。

 あの場から。

 さっさと逃げ出していたならば。


 俺はこんな思いもせず、こんな事にも巻き込まれず悠々自適な生活ができたのかもしれない。

 この力があれば余裕なのだから。

 頭の中でそんな後悔が渦巻く俺。


 するとそこでさらにその魔族が、


「まああの時俺は遠くからその光景を見ていたがね」

「なんだ。仲間がやられているのを見ていただけか? 助けたりはしないのか?」


 俺がそう問いかけると、その話していた魔族は、こいつ、何を言っているのだろうといったような顔で俺の方を見る。

 だがすぐに気付いたらしく、


「助ける? それは“弱い”お前たち人間のようなものがするものだろう? ああ、そういえば“精霊”もそうだったか。だが、そんなくだらないことをしているからいつまでたっても、誰かがしてくれると思って“弱いまま”なのだ」

「……本当にそう思っているのか?」

「もちろん。“弱い”人間こそお前たちのように群れる。そしてその力があるからこそ自分は強くなったと錯覚するのだ」

「……どうだろうな」


 そう俺は言い返しながら、さてどうしようかと考えつつも、この“魔族”という生き物の発想に嫌気がさす。そもそも、


「その国の出来事を見ていたなら、倒されていく“魔族”の姿や戦っている人物も見ていたんじゃなかったのか?」

「俺は魔族がやられていくのを見ていたが、結構強いと思っていた奴らが意外にも弱い“魔族”だとは思わなかった。だからしばらく笑い転げていたな。だが、そういえばお前、似ているな」


 そこでその話していた魔族が俺に対してそういった。

 ようやく気付いたのか、とかそういった皮肉を言ってやりたかったが俺は黙る。

 するとその魔族が、


「まあ人間はみな似ているからな。区別があまりつかない。……見るからに弱そうだし、もしかしたなら姿かたちが似ているから、その人物と同じ事が出来ると思っているのか?」

「お前たちが危険視している人物かもしれないんだぞ? 俺は。そんな風に余裕があっていいのか?」

「は! 確かに件の人物は魔王様は危険視しているようだが、俺はそう思っていない。それに今頃、勇者パーティで嫌な思いをしているころだろうからな」

「……」


 そこで俺は沈黙した。

 そう、こいつは俺が、あんな思いやこんな思いをすると分かっていてそう言った風に陥れた連中の仲間なのだ。

 だが俺が黙ってしまったのを見て魔族が、


「なんだ、その人物だと思えば俺達が逃げるだろうと思ったのか? それは残念だったな。そもそも俺は、あの危険視している異世界人を、そんな強敵とは思えなかったのだよ。見ていたからこそ俺は分かる」

「……何が分かるんだ?」


 俺はこの余裕めかした魔族が何を言う気なのかと思ったから、聞き返す。すると、


「俺があの場所にいても勝てる自信はあるのさ。あの程度の異世界人の敵を倒す魔法……見ていたからこそ俺は分かる」

「あの攻撃している異世界人の魔法は、危険なものだと思うが?」

「は! あの程度、見ている分には簡単そうだったぞ」


 そこで魔族がこんなことを口走った。

 おそらくは、本人にとっての率直な感想だったのだと思う、のだが。


「見ている分には簡単そうだった、だと?」

「ん?」


 そこで魔族がそんな声を上げるも、俺はもう、抑える事が出来なかった。


「人の苦労を知らないで、見ている分には簡単そうだっただとおおおおおお」


 そうおれは、心の傷がえぐられたのだった。

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