第37話(現れた人物)
せっかくとってきた葉ものだが、癖の強いものもいくつか混ざっていた。
だが、“天ぷら”にすると結構、いろいろなアクの強い山菜などが食べやすくなる。
手に入れたものの中には、“タラの芽”のような春先に美味しいタイプの山菜が幾つかあった。
それにキノコやら俺たちの知っているような味の野菜のようなものもあり、それらを全て“天ぷら”にしようと思ったのだ。
なので本日はご飯も炊きつつ、“天ぷら”を……めんつゆはないので塩で楽しんでもらうことにする。
他には油が強いので、お茶なども用意する。
そういえば今日取ってきた果実があるが、魔法を使ってシャーベットにしてもいいかもしれない。
魔法があるこの世界は便利でいいと俺は思う。
などと考えながらエプロンをつけて俺は調理を始めた。
実はこういった料理は結構体力を使うが、この魔法世界では身体を強化すればこの家事労働も結構手軽にできたりする。
重い鍋だって楽々に持ち上げられるのだ。
などと魔法世界のすばらしさを感じながら俺は料理を進めていく。
そして、ライスとたっぷりの“天ぷら”、そしてシャーベッドにお茶、といったものを一通り用意して、後は楽しい夕食会と、なるはずだった。
コンコンコン
俺の家の扉が叩かれる音がする。
いったい誰だろうか?
隣の家の人物が、さて、夕食を作り終わったころだろう、手合わせ願おうか……などと尋ねて来たのだろうか?
ここにきて日が浅いのだから尋ねてくる人物などしれている。
居留守を使うべきだろうか?
俺は少し悩んだが、声をかけて何者かが分かってからでも構わないだろうと俺は思って、そこで違和感に気づく。
あまりにもこの外にいる人物は“普通過ぎる人間”のけはいがする。
まるで“作られた”もののようだ。
そしてその気配には覚えがあるも、とりあえずは、
「どちら様でしょうか~」
「私、私、私だよ~」
「“私”という人物の知り合いはおりませんのでお引き取りを」
「え~、薄情ね~、ソニアだよ~」
と言って、俺の予想通りの名前を口にする。
やっぱりだ、と俺が思いながら玄関に近づこうとすると、
「今、ソニアって言っていなかった?」
「言っていたがどうしたんだ? ミカ」
そこでミカが何か考えるように俺に聞いてきたのでそう答えると、
「今の声と、ソニアって名前……私の裏切ったあの侍女と同じ名前なの」
「そうなのか……。でもソニアは……いや、どうせ扉を閉めたままでもけ破ってきそうだし普通に招き入れようか。そこで話してみたらどうだ?」
「……何を話せっていうの?」
ミカが暗い表情でそう呟くも俺としては、
「俺はあのソニアという人物を知っているが、色々とおかしい人物ではあるが、結界の魔道具を盗むといった、人の迷惑を超えた危険な好意をする奴だとは思えないが……」
「私もそう思ったわ。でも……」
「そのあたりの詳しい話も今聞けばいいだろう。とりあえずいつまでも待たせると俺の家のドアが大変なことになりそうだから、早目に開こう」
そう俺はミカに答えてドアを開ける。
そこには案の定、予想通りの人物がいて、
「ひさしぶり~、げんき~」
「げんきだが、今度は何をしに来たんだ?」
「う~ん、ちょっとね。それとミカ姫に会いに?」
そい、黒髪に青い瞳の彼女はそう言ったのだった。
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