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第34話(魔族は倒した)

 一瞬にして消えた炎。

 どうやら俺の思い通りに特殊能力チートは使う事が出来たらしい。

 上手くいったと思っているとミカが、


「え、え? いったい何をやったの?」

特殊能力チートを使った」


 短くそう告げる。

 どんな風に? とミカが目で訴えかけてきた気がするが、現状ではそれどころではないので説明は後回しにする。

 と、今の話を聞いていたのだろう、“魔族”の一人が、


「なるほど、特殊能力チートか。つまりは異世界人だったのか。まさかあの忌々しい存在がこんな場所にいるとは思わなかったな」

「……そういえば何回か、異世界人がこのせかいの“魔王”を倒したんだったか」


 ここに来た時に聞いた自称“神”を名乗る召喚士の話を思い出しながらそう聞くとその“魔族”は得意げに、


「そうだ。忌々しい、女神の召喚した異世界人のせいで我々はこの世界の全てを奪う事が出来なかった。だが、今回は違う。あの女神が異世界の男に恋をしてこの世界がいにいない今が機会なのだ。すでに手は打って、あの“SSSランク”異世界人、一番の敵となる人物は“魔王討伐”のパーティに上手く組み入れられて、“魔王”のいない“罠”の方に誘導されているからな!」


 そう俺たちに話した。

 どうやら異世界人に毎回、“魔王”は倒されていたので、今回はその危険そうな“異世界人”は排除する方向に決まったらしい。

 しかし、こうもやすやすと敵の“姦計”に乗ってしまうというのは……あの“魔王討伐”を行うといって勇者パーティを組んだあの国の内部、その人員を決定したりできるような中枢部に“魔族”が入り込んでいたのだろう。


 自分の所の足元どころか目の届きそうな所にまで腐敗は進んでいたらしい。

 しかし、そこまで危険視されるSSSランクの冒険者……俺以外にもそのランクの異世界人は二人いて、それぞれ別ルートをいっているようだが彼らのうちのだろうか?

 どちらにせよ、あの勇者パーティから早く逃げ出してよかった、これから無駄に大変なことを更にさせられるところだったと、俺が思っているとそこで“魔族”が、


「そう、あの都市での戦闘で一番活躍した異世界人、SSSランクの“リク”。一番の危険人物を我々は排除できたのだからな!」

「……」


 そう自信があるように告げる“魔族”。

 そして名指しで言われてしまった俺。

 反応に困ると思っているとそこで“魔族”は、


「あの優秀なSSSランクは能力が高いから“大事”にされているだろう? いい思いをしているんだろう? 同じ異世界人としてお前はどう思う? こんな場所にいるのだから“使えない戦力”として“追放”されたか何かしたのだろう?」


 俺を嘲笑うようにそう告げた“魔族”。

 まだ俺を侮っているのだろう、というのも分かる。

 この“魔族”は自分たちが強いことを知っている。


 そして、実際に先ほどの炎の魔法も彼らにとってはそれほど強くない魔法だと認識しているのだろうが、この世界の常人からしてみれば強力な魔法だ。

 だからこのように傲慢なのはわかる。だが、


「“大事”にしてもらえるだろう、だと?」

「へ?」

「いい思いをしている、だと?」

「ん?」


 そこで“魔族”達がそのつぶやきに変な声を上げる。

 だが、今のその言葉は俺の心をざっくりとえぐった。

 もしも、彼らの、言う通りだったならば。


 俺はこんな場所にはいない。

 次々と脳裏に浮かんでくる不条理な出来事の数々俺の怒りを掻き立てた。

 そして目の前にはその怒りをぶつけても大丈夫な存在が、目の前にいる。


 そう、“八つ当たり”だ。


「……いいだろう、かかってこい。俺が相手をしてやる」

「ちょ、ちょっと……」


 ミカが俺そう声をかけてくるが俺は後ろに下がっていろと合図をする。

 そして俺の今の言葉を聞いた“魔族”の一人が、


「へぇ、よく分からないが戦う気になったようだな。だが高々人間ごと気が……」

「くだらないおしゃべりを続けるなら、もう行くぞ」


 機嫌よさそうに話し出した“魔族”に向かって俺はそう短く告げるとともに、特殊能力チートを使う。

 今回は“伝説の武器”の量産による物理的な攻撃。

 つまり、


「“バアルの剣”……50本で行ってみようか」

「「な!」」


 俺がつぶやくと同時に、50本ほど、この世界では“伝説の武器”と呼ばれる冷気をまとった剣を呼び出す。

 ひとたびその剣が振るわれれば、その大地が、空気が、凍てつく永久凍土の世界になってしまったといった言い伝えのある剣である。

 ちなみに実物はもっと危険で扱いに注意が必要だが、今回俺が使っているものは“複製品レプリカ”の“劣化コピー”品なのでそこまで周囲には影響はない。


 けれどそれでもこの“魔族”達には十分な“脅威”になる。

 焦ったように炎の攻撃を俺たちの方にしてくるが、その時には、俺の呼び出した剣が全てその魔族たちに向かって放出されている。

 次々と炎が切り裂かれて“魔族”に向かって放たれていき……。


「「ぎゃああああああ」」


 悲鳴が聞こえた。

 おそらくは剣が当たったのだろうが……魔力が完全に消失していない。

 少し威力が弱かったようだ。


 もしかしたなら攻撃を“軽減キャンセル”するような防御用の魔道具か何かをつけていたのかもしれない。

 やはり余裕と、頭につい血が上って、相手の能力を“分析アナライズ”するのを怠ったのがいけなかったのかもしれない。

 “魔族”は油断ならない相手だというのに。


 少し気をぬいていたかもしれないなと思っているとそこで、


「……この……油断した……だがこうなれば……」


 とぎれとぎれの声が聞こえる。

 同時にこの森の幾つかの場所で、爆発が起こる。

 炎が吹き上がり、森が燃え始める。


「はは、森が燃えて……町にも……」


 そんなとぎれとぎれの声をききながら俺は、“魔族”にとどめを刺した。

 人の形のものが霧散して、黒い球状の“核”がいずこかに飛んでいく。

 眠るのに適した場所に逃げていくのだそうで、これまでのところそれを捕獲できた例がなく、逃げられてばかりだったらしい。


 そういった説明を聞いたのはあの、俺が召喚された国で“魔族”と戦闘した後の出来事だった。

 だから試しに特殊能力チートを使って“捕縛”を試みる。

 

ガコッ


 そんな変な音がして、俺は捕まえる事が出来た。


「ふむ、後で解析と……手を加えてみるか」


 と一人頷いていた所で今度は森の方から、


おおおおおおおおおおんんん


 といった雄たけびが聞こえる。

 先ほどの“魔族”の攻撃で何かが目を覚ましたのだろうか?

 と思っていると風の精霊のセリアが、


「まずい、切れたこの森の精霊が目を覚まして、すごく怒ってる。大変なことになるわ、火を消さないと……手伝って!」

「何をすればいい? というか……」

「冷気の魔法を沢山放ってもらったら私が届けてきます。そして、同時になだめてきます。特殊能力チートは得体のしれない魔法と警戒されるかもしれませんので、普通の魔法で」

「わかった」


 そうセリアの指示に従って俺たちは、魔法をつかったのだった。

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