第17話(何者かの白い腕)
ミカの大きな悲鳴が響き渡った。
何事かと思って飛び起きた俺だが、すぐに誰かが走ってくる大きな足音がして俺の部屋の扉が開かれた。
開くだけで大きな音がしたがそれよりも、そこには白い下着のような肩が丸出しのフリル付きワンピースのような寝間着を着たミカが、白い大きな枕を小脇に抱え、月明かりでもわかるくらいに青い顔で、
「で、出たわ」
「……幽霊でも出たのか?」
「そうよ! 白い女の腕がすうっと降りてきて私の髪に触ったの! とっさにはねのけて、でもその後もうっすらと白いものが見えたから蹴りを加えてひるんだ所でこっちに逃げてきたの!」
そう叫んだ美人が台無しと言える、凄い形相のミカに俺は、
「……その様子だと幻覚の類じゃなそうだな。触れるようだから、“幽霊”というよりは“精霊”じゃないのか?」
「……あ」
「“幽霊”だったら、その辺を漂っているだけだからそんなに怖くないしな」
「……私は普通に“幽霊”が怖いんだけれど」
「別に命を取られるわけじゃないんだから怖くもなんともないだろう。もっと怖いのは沢山いるぞ? 特に“人間”とか“人間”とか“人間”とか」
俺が呆れたようにかえしつつ、心に触れる部分があってそう三回言った。
それに何かを感じ取ったのかミカが、
「そ、そう。でも……なんで“精霊”がいるのかしら」
「さあ。……前の持ち主が、マッドな(狂った)マジカリスト(魔法学者)の可能性もあるからな……あいつらは何を考えているのか俺にもたまに分からなくなる」
「たまになんだ……いえ、それよりも、“精霊”なら……一緒に見に来て欲しいんだけれどいいかしら」
そこで一緒に確認してほしいといってきたミカ。
“精霊”と分かっても怖いらしい。
仕方がないと俺は思いながらミカと一緒に部屋に向かうことになったのだが、
「一つ聞いてよろしいでしょうか」
「何?」
「俺に腕に抱きつくのはどうかと」
「べ、別に怖いわけじゃないんだけれど、こうやった方が一緒に移動できて便利よ!」
「……そうですか」
「そうなの!」
俺はある疑問を覚えて問いかけると、ミカはそう答えた。
この辺りがツンデレの名残が見て取れる。
だがそんな事よりも気になるのは、俺の腕にミカが抱きついてくれているおかげで、やわらかい何かが当たっている点だ。
俺は今までのラノベ知識から、ここは黙っていないとひどい目に合うと気づいていた。
だから沈黙を保ちつつ、ミカの部屋に向かう。
確かにそこそこ濃密な魔力の気配も感じたが、
「“隠蔽”がされているな。……確かに“精霊”にはそういった能力を持っている者もいるが、能力封印に、隠蔽……そして探知できないように“透過”もいくつか……俺も油断しすぎていたな。気づかないなんて」
『いえいえ、この部屋からちょっと離れた角の所、それも隣の部屋の天井裏という境界の“曖昧”な所に潜んでいましたから。だって大家さんが困るでしょうし、店子が入った方がいいかなと私も罪悪感があるわけですよ』
「そうかそうか。それで、そろそろ姿を現したらどうだ? 天井裏にいつまでいる気なんだ?」
『それではお言葉に甘えまして~、こんばんは~』
そう言って天井から少女の“幽霊”……ではなく“精霊”が現れたのだった。
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