第16話(その夜の事だった)
そんなこんなでやけに“安い”部屋を借りる事が出来た俺たちだが、
「部屋割りは、鍵がある部屋がミカで、そっちの部屋が俺な」
「ありがとう。でも鍵の付いている部屋って、何か紙のようなものが付いた後があるけれどどうなのかしら?」
「ポスターか何か張ってあったんじゃにのか?」
「でも外側でしょう? しかも微かに魔力の気配がするし……」
「なんだ、“解析”してほしいのか?」
「そこまではしなくてもいいわ。微量な魔力が残っているだけだし、盗撮みたいなものの気配も感じないし」
「そうだな。じゃあ中の様子を見て荷物を下ろしてから、食事に行こうか。そろそろ夕食だし」
そう俺がミカに声をかけたのだった。
ミカは食材を買ってきて料理をしてもいいわよ? と言っていたが、まだ彼女の家事的な意味での能力が未知数であったため、言い訳しつつ俺はお断りを入れながら食事をとりに行くことになった。
夕食は近くの海でとれた魚をフライにしたものになった。
事前にどのお店が美味しいかを聞いていたのでそこに行くことに。
値段の安くて美味しい食事処だったのは良かったように思う。
そこでお腹がいっぱいになるまで食事をとってから、部屋に戻る。
そういえば越してきたばかりなので隣の人に挨拶をしておいた方が良いかもしれない、と帰り道にミカと話していて、角部屋であったのもあり、隣の人に俺たちは果物を購入した。
ただ俺たちが帰ってきたときには隣人は留守にしており、明日改めて挨拶に行くことになった。
そして今日は昼間に歩き回ったり、ミカの敵を追う件も大体が終わったり、俺も……あの関わりたくない依頼から“追放”されたのでキャンセルできたので、うん、よかったように思う。
ただストレスから解放された瞬間にそれまでたまっていた疲労があふれ出てくることはよくある。
例にももれず俺は、ようやく“安心”したからだろう。
部屋に戻ってすぐ眠るとミカに伝えると、
「わかったわ、お休み。明日の朝は……材料がないから腕が振るえないわね。さっき何か食材を買って来ればよかったわ」
そう残念そうにミカが言って、これから買ってこようかと言い出したので、もう外は暗いし商店までは歩くから辞めようと俺は諭した。
何しろこう見えてもお姫様なのだから、何かがあっては大変だ。
彼女自身が強いとはいえ、人間は油断をすることもある。
だから危険な場所に近づかないのも大切だ。
そういった話をしつつ俺たちは部屋を分かれて眠ることにした。
この時、久しぶりの平穏を手に入れて俺は油断をしていたのだろう。
この借りた部屋について、“探査”をしておくべきだったのだ。
そうすればすぐにこの部屋が“安い”理由もわかったかもしれない。
けれど通常状態で、ある程度感じ取れてしまうのも油断する要因の一つだったといえるだろう。
俺は疲れもあってすぐに、夢すら見ることのない眠りにいざなわれた。
自分が眠ったという感覚すらないそれ。
そして、
「きゃあああああああ」
ミカの悲鳴とともに俺は、深夜にもかかわらず目を覚ましたのだった。
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