昔々、ある所に釣り人が居ました。ー色々でてくるけれど、結局これって最終的に世界が滅ぶ寸前でどうにかなると思うんだ。つまり、世界の最後が訪れることが無いうちは俺の出番はないってことでFA。
季節は、記録的猛暑が観測された夏が終わり、残暑も過ぎ、冬の足音が聞こえて始めたとある秋の事。
「ある晴れた~昼下がり~♪」
森の中で、切り開かれた広場に大きな湖があったそうな…。それはそれは大きな湖で、対岸に見えるのは水平線に木の頂上の先端が見えるかどうかであったそうな…。
一人の釣り人が、その湖に糸を垂らして居った。森には凶暴な魔物もおらず平和で、時折小鳥が歌っておった。その鳥の歌に合わせた様に、釣り人は調子外れの歌を口遊んでおった。
その空間全体の時間が止まっておるかのように、それはそれは静かで、長閑であった。
「ふざけるな!!私を誰と心得る!!」
森に響く怒声…。ブロンドの髪を三つ編みにして腰まで伸ばした女性と、ダークブラウンの眼鏡をかけた神経質そうな男がそこに居た。
「ええ、分かってます。分かっておりますとも、王国“元”公爵令嬢様?」
「くっ!!」
「ええ、ええ。分かってます、分かっておりますとも。未来の王妃争いに負け、没落した間抜けな令嬢ですよね?」
「貴様!!それもすべて貴様の手の内であったのだろう?!」
「ええ、ええ。そうです、そうです。せっかく最後ですし教えて差し上げましょう。私が王になるための、計画を!!」
「まさか、あなた!!」
「あんな愚かな王は死すべきです。あなたさえよければ、側室ぐらい考えてあげますよ?」
「ふざけるな!!貴様自分の立場を分かっておるのか?!」
「ええ、ええ。心得ております、心得ておりますとも。王国の宰相でしょう?それが?」
「宰相とは王を支えるものだわ!」
「その通りであるな。」
「「なっ!!」」
突如、二人の会話を謎の男の声が遮った。
「誰だ?」
男が声を出せば、二人のすぐ傍の木から一人の男が降りてきた。その男は褐色の肌に黒髪から山羊のような黒い角が生えていた。
「「魔族?!」」
二人の男女は声を揃え驚き、警戒をする。
「ふはは。愚かな人族よの。我をその辺の雑魚と一緒にするでない。我が名はブラック。魔を統べる者なり!!」
「ま、魔王?!」
男は驚き、女は声も出せない。ただその顔は両者とも恐怖で引き攣っていた。
「くくく、くはは、ふははははははは!!どうした先程までの痴話喧嘩の威勢はどうした?」
「くっ」
男は引き攣った顔のまま、どのようにして逃げ延びるかを考える。
「な~にしかたない事よ。魔王を前にして、平静を保てるなど勇者位なものよ。」
「その通りだな。」
「「なっ?!」」
魔王と男の声が重なる。
「誰じゃ?」
「おいおい、分かってるんだろ?」
そう言って、魔王が降りた木から、男女を挟んだ逆の木の後ろからこれまた綺麗な銀色の短髪の男が現れた。
「貴様、勇者か?!」
「そうだぜ?お前の天敵様だぜ?」
「くっ。」
魔王はその顔を苦しそうに歪める。男女は助かったと、その顔から緊張が取れる。
「さっきまでの余裕が嘘みたいだな?魔王。」
「ふ、ふん。貴様こそ覚悟せい、ここで殺してくれる。」
そして、魔王の前に小さな火が産まれる。男女は互いに背を向ける様に、慌ててその場を離れる。魔王の前に現れた火は徐々に大きくなってゆく。対して勇者は、自らの腰に下げた鞘から光り輝く聖剣を抜いた。
「来いよ?テメェは、俺が切る。」
「その減らず口がいつまでもつだろうな?」
魔王の前の大きな火の玉が勇者めがけて発射され、その火を勇者は聖剣で叩き切った。直後辺りを大きな爆発が包んだ。爆発による煙が晴れた時、辺りの木は吹き飛ばされ、かろうじて逃げ切れた男女は腰が抜けたようにへたり込んでしまった。
それもそのはずだ。勇者を中心にして、男女が逃げた一帯まで木が吹き飛んだのだから…。
「この程度か?魔王。」
そしてその爆心地である場所には、無傷の勇者が魔王に向けて挑発をするように、欠伸をしていた。
「ふん。そんなもの小手調べじゃ。」
その言葉を聞き、勇者は鼻で笑い、男女は這ってでもその場から離れようと逃げる。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「なっ?!」」
勇者と魔王の声が重なる。
「ドラゴンだと!!」
勇者が空を見ながら驚き、魔王は呆然と空を見上げ、男女は抜けた腰が嘘のように脱兎のごとく“空飛ぶ天災”から逃げ出す。
「ゆ、勇者よ。ここは一時停戦としようか?」
「不本意だが、それには同意だ…。」
「GuGyaaaaaaaaa!!!!!!」
空飛ぶ天災と評されるそれは、息を吸い込む。
「勇者!!」「魔王!!」
勇者は聖剣を構え、魔王は魔力を溜める。
「Guryaaaaaaaaaa!!!!!!」
そしてそれは、吸った息を吐き出すように炎の玉を二人に向かって飛ばす。
「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」
魔王は溜めた魔力は勇者の聖剣へ、勇者は魔力が込められた聖剣を持ってその炎の塊を叩き切る。
辺りを、先ほどと比べ物にならない爆発が包み、森を吹き飛ばす。
逃げた男女は爆風で転げまわり、爆心地の勇者と魔王はボロボロの体であった。
「はぁはぁ、もう一発は厳しいね、こりゃ。」
「はぁはぁ、そうじゃの…。」
「これは、お前の仕業か?」
「Gya?!」「「なっ?!」」
ドラゴンの驚きの声と二人の声が重なった。
「もう一度問おう?これは、お主の仕業か?」
「Gya、Gyaaa!!!!」
「所詮は獣か…。」
「「せ、精霊王。」」
新たに表れたのは、エルフに似た金髪の女性だった。ただその姿には、エルフには存在しない双丘も含め、神々しさが感じられる。そして勇者と魔王が言うように彼女は精霊王である。
「まぁ、お主を殺してから考えるか。」
「Gyaaaa!!!」
そんな精霊王の右手に氷の塊が現れる。ドラゴンはそれに怯える様に後退する。勇者と魔王に対していた時とは、明らかに違う。上位者であったドラゴンでさえ慄く存在が、妖艶にそして男女問わず魅了する笑顔をドラゴンに向け、その手の中の氷の塊を飛ばそうとする。
「お;いえwghつぇえぃbr1!!!!
「なっ」「Gya?!」
精霊王の声とドラゴンの声が重なる。勇者と魔王は呆然と、空を見上げる。
「じゃ、邪神だと?!」
空が割れ、黒い空間から紫色の触手が生える様に蠢く。割れ目から溢れる様にその触手は増えていく。そして、その割れ目には不気味な緑色の目が地上を、空を、すべてを卑下するように忙しなく動いている。
「イラgh歩がgktytwhp!!!!!」
それめがけて精霊王が氷の塊をぶつける。それによって触手が一本氷漬けになったが、それは目玉が叫ぶような声を出すことで掻き消えた。ドラゴンは一目散に逃げ出し、勇者と魔王はボロボロの体を引きずる様に後退する。精霊王は目玉を睨みつける。
「りゃおp日瀬尾H者0p!!!!!」
そして目玉は、触手の一本から光線を出した。光線が過ぎ去ったところは、地面が割れ何かがあればそれは跡形もなくなる。
「そうはさせません!!」
「あれアhgぃアq?!」「なっ?!」
目玉が奇声を発し、精霊王が驚き、ドラゴンは姿を隠し、勇者と魔王と男女の姿は最早ない。
「あなたは、ここに居てはいけません。」
突如として現れた女性は、透き通るような声を響かせる。姿はこの世の美を集めた、いやそもそもその美は言葉では表せれないと言うべきだろう。
突如として現れた女性が左手を払う様に振ると、そこには何も無くなった。それは語弊があった。
そこには元の森があった。まるで、最初から何もなったように…。
「んん~。大漁、大漁。」
糸を垂らしていた男は片付けを始め、自分の家へと帰っていった。
まるで、何もなかったように。
まるで、時間がそこだけ切り離されていたかのように。
そして、また明日が来るのを疑わずに、微睡に身を任せる。
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