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day of the necromancy!!  作者: SOTOKU
状態:死霊術師見習い
13/25

how to hunt 前編

 獣を殺すのに協力してほしいと聞かされた村人達の反応は様々だった。

恐れる人、呆然とする人、なおも絶望をやめない人。希望を取り戻す人。


 一人の村人が言った。


「なにか策があるのですか?」


私は答えた。


「単純なものだけど、一つあるわ」


 策。なんて大袈裟なものではないけれど、エイズを倒す方法は思いついた。それが実行できるかは、村人達にかかっている。


「それは如何様なもので?」


 アドルフが不安げな表情で問う。それに答えるには、いくつか質問しなければならなかった。


「まず、この中に火薬が扱える人はいる?」


・・・誰も名乗り出ない。これでは策が破綻してしまう。私は続けて言った。


「とにかく大きい音がして、エイズを少しの間でもびっくりさせられればいいの」


「それなら・・・」村人の一人が名乗り出た。「私自身、火薬の知識はありませんが、魔道具屋のラシィーンが火炎壺を売っていたはずです」

ラシィーン。私に壊れたカラスの頭蓋を売ろうとしたあの詐欺師ね。


「必要だわ。あるだけ持ってきて」


私がそう言うと、何人かが魔道具屋へ走っていった。必要なものの一つが揃った。でも、まだ足りない。もう一つだ。


「次に、なにか・・・錨のような、返しのついた、丈夫な大きい針はある?形状がそれらしければ、なんでもいいの」


また、名乗り出る人はいない。それどころか、こんな事を言い出す人もいた。


「そもそも、これは私達だけで解決すべき問題ではありません!もう一度ブラッドゴースの砦に行って、吸血鬼様方に助けを乞うべきです」


私はこの意見を却下したかった。吸血鬼を頼りにしたからこそ、こんな事態に陥っているんだから。でも、多くの村人はその意見に賛同した。仕方なく、私は譲歩した。


「わかったわ。誰か、足の速い人がブラッドゴース砦に向かって。でも、こっちはこっちで準備するわ。吸血鬼隊の増援よりも早くエイズが来た時のために戦う準備をしなくちゃいけないのは変わらない」


助けを呼ぶのに選ばれたのはアドルフだった。彼は「行ってくる」と短く言うと、飛ぶように走っていった。


話を戻し、錨のような物に心当たりがあるかもう一度尋ねると、鍛冶屋が「簡単な造りのものでよければ、槍を折り曲げて似たような物が作れるかもしれない」と言った。製作にどれほど時間がかかるかわからないので、私はすぐにそれを作るように言った。


これで、必要な物が揃った。私は、とにかく出来るだけ多くの村人を広場に集めて、エイズを打倒するための作戦を話した。


「まず、死体が必要だわ。あの逃げ帰ってきた情けない蝙蝠男を殺して、その死体に槍で作った大きな釣り針を埋め込むの」


これを聴いた瞬間、村人達はどよめいた。でも、今は時間がない。私は話を続けた。


「奴の死体は出来るだけズタズタに切り刻んで、血を流させるの。そうしないとエイズは食いつかないわ」


ちょっと待ってくれ!と、誰かが言った。煩わしい。今は時間がないのに。彼らを納得させるため、私は出来るだけ短く、その必要性を話さなければいけなくなった。


「どちらにせよ、あの吸血鬼は助からないわ。出血しすぎているし、それに、エイズに血を嗅がれたからにはもう、どこまで逃げても最後には食い殺される未来しかない。なら、今ここで楽にしてあげるのが、一番の優しさなんだと思わない?」


 これが暴論だってことはわかっていた。それでも、個人的な恨みを抜きにしても、今ここで彼は死ななければならない。彼を犠牲にして、村人達はその代償に、生き残る。


「答えは二つに一つよ。彼を殺してみんなで生き残るか、彼と共にみんなで死ぬか」


 話は脱線してしまったけれど、村人達は渋々了承した。ようやく次に入れる。


「どこまで話したっけ?ああ、そうだわ。埋め込んだ釣り針にはあらかじめ鎖を繋げておいて、その鎖を広場の噴水の柱に括り付けておくの。死体は私があらかじめ死霊術で蘇らせて、立たせておくわ。」


そこまで言うと、何人かの村人は「なるほど!」と驚嘆の声をあげた。私の策の全容が見えてきたみたい。


「つまり、哀れな飼い犬みたいに、エイズを柱に括り付けておいてしまおうというわけだな!」


 私は笑顔で「そういうこと」と答えた。

それでも何人かは合点がいっていないようで、話を捕捉して理解してもらう必要があった。私はその後、話を続けた。


「でも、柱に括りつけて終わりってことじゃないわ。エイズが暴れたら、柱がいつまで保つかわからないし、なにかの方法で抜け出すことができてしまうかもしれない。だから、奴が餌に食いついたらすぐに、火炎壺を奴の耳元で炸裂させてびっくりさせるの。一瞬でも奴に隙ができたら、何人かで奴の両耳と鼻を削ぎ落として。そうすれば、仮に奴が抜け出せても、私達が見つかることはないわ」


 後は物をぶつけるなり、油をかけて燃やすなり、倒す方法はいくらでもある。これが私の策の全てだった。

話が終わると同時に、村の近くで獣が吠えるのが聴こえてきた。エイズがすぐ近くまで迫っているのがわかり、私は少し、恐ろしくなった。

なんとか自分を鼓舞して、私は村人に急いで準備するように号令した。


 村人達はとてもよく働いてくれた。鍛冶屋が作った巨大釣り針は、二本の槍を束ねて、切っ先までの上半分を、二本それぞれ反対に折り曲げたもので、エイズの口内に突き刺さるのに充分な鋭さと形状だった。

魔道具のラシィーンは最初、カラスの頭蓋の事で私が怒って暗殺しようとしていると勘違いして、話を聞かずに喚きながら村中を逃げ回った。ようやく誤解が解けると、彼はあるだけの火炎壺を無償で提供してくれた。全部で10個。少し心もとない数だ。


釣り針に繋げる鎖は、村人達がそれぞれ持っている鎖を持ち寄り、それを纏めて太くて丈夫な一本の鎖にした。そして、広場にある柱の一本にしっかり巻きつけた。鎖の長さは程よく短く設定した。あまりに長いと、エイズが好き勝手動けてしまうから、それを防がなければいけなかった。


さて、最後にエイズを食いつかせるための餌を準備しなければいけない。私は恐れ知らずだと自称する四人の村の男を引き連れて門に向かった。そこでは未だに吸血鬼の隊長が座り込み、奴を健気に治療している村の娘達に、やれ血を寄越せだの、やれ私を砦に運べだのと喚き散らしていた。


「やって」私が小さくそう言うと、男達は斧や短剣を取り出して吸血鬼の隊長に迫った。


 吸血鬼の隊長は最初、なにが起きているのかわからず眉をひそめていたけれど、自分が殺されようとしていると気づくと、立ち上がって逃げようとした。

でも、片腕がないせいでバランスがとれなかったみたいで、そのままばたりと倒れた。


斧を持った村人が、そんな吸血鬼の隊長の兜を乱暴に外し、思いきり振りかぶって頭をカチ割った。


吸血鬼の隊長は意外にも、口から少しの吐息を漏らしただけで、静かに絶命した。私は、奴はきっと最期に私に泣きながら命乞いをするに違いないと思っていたから、うかっかり同情しないように自分に言い聞かせていたけれど、その必要はなかったみたい。


男達は、吸血鬼の隊長の死体を各々好きなように切り刻んで血を流させた後、わざと地面に血の軌跡がつくように引きずって広場まで運んだ。これでエイズは迷わずに餌を見つけられる。


 釣り針を餌に仕込ませてみると、見てくれではわからない程に綺麗に埋まった。私は、グレース家から村人にとってきてもらったシプキンスの籠手袋はめ、餌に向かって手をかざし、呪文を唱えた。


 籠手袋の魔法陣が輝いて、掌から何かが飛び出していく感覚を覚えた。そして、飛び出した何かが吸血鬼の隊長の死体に入り込むと、それはゆっくりと起き上がった。


 うめき声を上げながらその場に立った死体を見て、村人達は感心と畏怖が入り混じった複雑な意味を持つ歓声をあげた。それでも必要な事だと理解してくれたみたいで、何人かは軽い拍手を送ってくれた。

これで準備が終わった。と私が一息つこうとした時、村の近くで木がメキメキ倒れる音と、さっきと同じ、獣が吠える声が響いた。さっきよりずっと近く、エイズはすぐそこまで来ていた。


「さあ、みんな、隠れて。出来るだけ音を立てないように」私が小さな声でそう言うと、周りの村人が静かにそれを伝言して、各々一番安全だと思う場所に隠れた。


 私はというと、蘇らせた死体にそっと命令を耳打ちしてから、八百屋の店棚の陰に隠れた。


 死体は与えられた命令どおり、その場で上を向いて意味のわからない単語か、もしくは音で叫び始めた。私はそれに「空を挑発しろ」と命令していた。


 しばらくの間、静まりかえった広場に、死霊の叫びだけがこだましていた。でも、刻々とその時は近づいていた。


 獣の吐息が聞こえ始めた。その吐息だけで、相手がどれだけ大きいかが伝わってきた。野太く、低く、地面を揺らすような声だった。奴は、迷う事なく広場に近づいてきた。やかましく叫ぶ死霊の声に釣られたみたいだ。


私は店棚から少しだけ顔を出して、広場を見た。そこには変わらず、鎖で柱に繋がれた死霊が叫ぶだけの光景があった。でも確かにエイズは村の中に侵入していた。さっきまで自分がいた場所に、今は化け物が跋扈している光景を想像すると、身がすくむような思いだった。


 そして、時は黄昏時、曇天と合わさり、薄暗くなった広場の中に、黒く、巨大なエイズはその姿を現した。

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