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昇級試験1

 本日3月1日は私「天野リリス」がこのビナー魔法学園で2学年に上がれるか退学になるかが決まる実技試験の日だ。私はこの日を待ち望んでいた気もするし、永遠に訪れないでほしいと願っていた気もする。そんな複雑な心境を胸に、私は試験会場である「魔法実技教室」へ向かっていた



 ***



 だだっ広い実技教室へ窓から夕日が差し込んでいる。教室の中心に立たされた私は部屋のドア側に座る10人の先生たちを弱弱しく眺めていた。暗がりからのぞく顔はみな険しく、まるで私を殺して食べる気なんじゃないかと疑いたくなる。その冷徹(れいてつ)で殺意さえ感じる視線を一身に受けながら、私の頭の中では入学してからこれまでのハイライトが流れていた。



 そもそも私「天野リリス」はこのビナー魔法学園に入学できるなんて思っていなかった。入学試験で完全に魔法が使えないことを露呈(ろてい)したからだ。しかしなんと学園の校長先生と仲の良かった父さんが、どうにか娘の私を学園に入れさせてくれないかと頼み込んだ。そう。娘可愛さのあまり堂々と裏口入学の交渉をしたのだ。そうして入学試験のあと落ち込んでいた私に

「喜べリリス! お前の裏口入学が決まったぞ!」

 と興奮気味に電話を掛けてきたのだった。



 元々魔法の使えなかった私は入学してからこの1年間必死に勉強し、練習を重ね、誰よりも魔法の事だけを考え、魔法の基礎(きそ)の基礎から徹底的(てっていてき)にやり込んできた。



 その結果なんと1年経っても一切魔法が使えないままだ。(おどろ)いたことに最も初歩的な魔法さえ使えるようになっていないし、使えるようになる気配さえない。

 そうして入学当初から一人だけ魔法の使えなかった私は常に白い目で見られ続けていた。もう周りの人間が全員白目むいてるんじゃないかくらいの勢いで白い目にさらされ続けた。

 それでも私はめげなかった。



 いくら同級生たちから昼ご飯に「24時間笑いが止まらなくなる薬草」を()ぜられたって、私の魔法の(つえ)に「ペ〇ス」という呪文(スペル)が彫られたって、

「魔法を使えない魔法使い」とか「うんこ」とか「クソ」とか「うんち」とか「うんちーにゃ」とか「魔法少女うんこ☆うんこ」とか(ののし)られたって、私は絶対に負けなかった。



 これまでの魔法実技の授業だって、私は母さん(ゆず)りの気合と根性でここまで乗り切ってきた。「物を動かす」魔法がどうしても使えなと()んだ私は代わりに念動力を独学で学び、冷蔵庫くらいの物なら動かせるようになった。(念動力で)

「ホウキにまたがり空を飛ぶ」魔法が使えないと見るや、市販のドローンを改造して1人乗りヘリコプターを作り上げ、「結果飛べるようになったから良いじゃないですか」と先生を説得した。

召喚(しょうかん)」魔法で何も召喚できそうにないと(さと)った私は、(やみ)契約(けいやく)により悪魔(あくま)を召喚することにした。

 なぜか上手(うま)くいった。



 これからも気合と根性で乗り切っていくつもりだったのだけれど、先生たちの中から私の昇級(しょうきゅう)に待ったをかける声が上がった。

 その言い分は

「いくら親が偉大(いだい)魔法使(まほうつか)いだからと言って、いくら親の金払いが良いからと言って、いくら根性だけはあるからと言って、一切魔法の使えない生徒を学園に置いておくことはビナーの品位を下げることにつながるのではないか」

 と全く理にかなったものだった。私の退学を求める声は日に日に大きくなる一方で、校長先生さえ私を(かば)いきれなくなっていたらしい。



 この学園では普通に授業に出て、普通に実技をこなしていれば先ず退学になることはない。その学園で誰よりも真面目に授業を聞き、誰よりも本気で実技に取り組んでいた私は退学に追い込まれようとしていた。



 そうして窮地(きゅうち)に立たされた私への最後の救済(きゅうさい)措置(そち)として用意されたのがこの合格ならば昇級、不合格なら退学という分かりやすいルールのもとで行われる

「補修実技試験」だった。


お読みいただきありがとうございました!


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