四夜目
王様はオアシスに戻ると、怯える民たちに言いました。
「今すぐ、祈りの丘に地下室を作りなさい。同時に、長い鎖を三本金無垢で拵え、それの中央に、同じ金無垢で出来た手枷と首枷を取り付けなさい」
オアシスの民たちは、意味も分からずに、王様の言う通りに部屋と鎖を用意しました。
王様は王宮に戻ると、禊の部屋に篭ります。禊をする間、王様は、自分の世話を男に任せました。その間に、オアシスを治めるのに必要な知識や仕来りを、男に教え込みます。
全ての準備が整うまで、王様が男以外の人に会うことはありませんでした。
男は、王様が何をしようとしているか、見当がつきません。何を尋ねても、ただ悲しそうに微笑まれるだけで、答えをもらうことができませんでした。
地下室と鎖の準備が出来ると、王様は、男を伴って祈りの丘に行きました。オアシスの民たちも、遠巻きに、心配そうに見守っています。
王様は一度、民たちに振り向くと、
「これより先、このオアシスの王を彼に任せる」
男を名指しして、そう告げました。
数人の従者と男を伴って地下室に降りた王様は、用意されていた鎖の手枷と首枷を自分に取り付け、部屋の中央に座します。
そして、手枷の両端の鎖を部屋の四隅の床に、首枷の両端の鎖を前後の壁に取り付けさせ、部屋を閉じるよう命じました。
男は、大慌てで王様を止めましたが、王様は、静かに微笑むだけです。
「天の怒りを鎮めるために、我は自ら供物となる。悲しいことではない」
涙を零す男に、王様は優しく告げます。
「ただ、叶うなら、我の歌が途切れるまで、丘で見守っていてほしい」
男は、王様の最後の望みに、黙って頷くしかできませんでした。
従者たちに引き摺られるように部屋から連れ出され、男は、地下の入り口が塞がるのを見守りました。
丘の上には、男が一人、取り残されました。その場にうずくまり、泣き続ける男の耳に、優しい子守唄が聞こえます。
男は寝食を忘れ、王様の子守唄に耳を傾けました。
日に日に弱る歌声に、丘の周りに集う民たちも、泣きながら祈りを捧げます。
途切れ途切れに聞こえていた歌声も、やがて、聞こえなくなりました。
自らの身を供物として差し出した王様に、天の神様は、怒りを解きました。
砂嵐が消えて、オアシスに、穏やかな青空と静かな地平線が戻りました。
オアシスの民たちは安堵し、同時に、命懸けで天の神様の怒りを鎮めた王様を慕い、男と共に鎮魂の祈りを捧げました。
そして、王様の言葉通りに、男を新たなオアシスの王に迎えたのです。
男は、残された王様の妹(娘とも言われています)を妻に娶り、末長く、平和なオアシスを護り続けたと、今に伝えられています。
オアシスの国、アルバドス初代王様にまつわる、古い昔話です。
ありがとうございました。
短いお話でしたが、少しでも暇潰しになっていれば、嬉しいです。