三夜目
それは、雨季に入る前の事でした。
外で遊び回っていた子供の一人が、砂漠の異変に気付きました。空は晴れて砂嵐も起こっていないのに、地平線にもうもうと砂煙が立っていました。
砂煙は次第に近づき、やがてオアシスの周りは、武器を持った恐ろしい人たちで埋め尽くされました。いきなり現れた恐ろしい人たちに、オアシスの民は怯えます。
男は、心優しいオアシスの民や王様を守るために、武器を手に取ろうとしました。それを、王様がやんわりと止めます。
「せっかく綺麗になった手を、また血で汚す必要は無い。我らは誰とも争わぬ」
「しかし、それではオアシスが滅ぼされてしまいます」
「もし、このオアシスが滅ぶとしても、それは天の定め。我らは天の意に従うのみ」
王様は穏やかに言うと、男に微笑みました。
「すでに、そなたもオアシスの民、一人矢面に立たせるなど、できぬこと。皆もそれは望むまい」
穏やかに諭されて、男は武器を手に取るのを止めました。
王様は、男を従えて、オアシスを取り囲む恐ろしい人たちに対峙しました。
彼らは、オアシスを明け渡せ、と王様に迫ります。
王様は、オアシスは天の神様のものだと答えます。
どれだけ威嚇しても、どれだけ脅しても、王様は動じません。業を煮やした彼らは、王様に向かって矢を放ちました。
男は、身を呈して王様を庇おうとしましたが、不思議なことに、矢は王様を避けて、あらぬ方向に飛んで行きます。それなら、と、彼らは剣で斬りつけますが、やはり、それも王様には当たりません。
怯えた恐ろしい人たちは、王様の事を魔物だと口々に叫びながら、オアシスに一斉に攻め込もうとしました。
その時です。
にわかに青空が曇ったと思うと、巨大な砂嵐が起きました。
オアシスを囲むように起こった砂嵐は、次第にオアシスに迫ってきます。
武器を持つ人たちは、逃げ惑います。砂嵐は、その背後から彼らを襲い、呑み込み、あっという間に連れ去ってしまいました。
オアシスの危機が去っても、砂嵐は消えません。
怒った天の神様は、愚かな人たちからオアシスを守るため、砂嵐で閉じ込めてしまおうとしたのです。
このままでは、オアシスの民は永遠に孤立してしまいます。
王様は、天の神様に、許しを請いました。しかし、最愛の王様の願いでも、天の神様は聞き入れようとしません。
困り果てた王様は、とうとう、最後の手段に出たのです。
ありがとうございました。
まだ、もう少し続きます。今しばらく、お付き合い下さい。