二夜目
男の生活は、とても穏やかなものになりました。
優しい人々に囲まれ、賢い王様に護られ、争いしか知らない男は、それまで知る事のなかった慈愛に満ちた心を教わったのです。
男は、王様を心の底から尊敬しました。同時に、剣の腕前以外に何の特技もない自分が、王様の為に何ができるのか、真剣に考えるようにもなりました。
悩む男に、王様は、自分の側で悪い獣が近寄らないように守ってほしい、と言いました。その日から、男は王様の一番側でお仕えするようになりました。
王様は、時々、夜中に出かけます。オアシスの外れの小高い丘に、祈りを捧げに行くのです。
夜の砂漠は、獰猛な獣や悪い魔物がたくさん出ます。天の神様に愛された王様を喰らおうと、祈りの場に寄って来るからです。
男は、王様に危険だと伝えましたが、王様は、男が側に居るので大丈夫だと笑いました。
小高い丘に着くと、王様は天の神様に祈りの歌を捧げます。それは、優しい子守唄でした。
優しい声で柔らかに歌う子守唄は、静かにオアシスに響きます。祈りの歌は、夜明けまで続きました。
男が王様に仕えてから、一年、二年、と何事もなく穏やかに過ぎました。
三年を過ぎたある年、砂漠の向こうの国々で、大きな飢饉が発生しました。
豊かな土地に住んでいるのに、自分の欲を満たす事しか考えなかった国々の王に、天の神様が怒ったのです。
夏の日照りに大雨、冬の大雪に見舞われ、それまで豊かだった大地は痩せ衰えました。
それぞれの国の王たちが、自分の過ちを悔い改めれば、天の神様もお許しになるのに、彼らは自分の欲を満たすために、戦争を続けました。
多くの人々が、食べ物も無くて飢えました。それでも、愚かな王たちは、争う事を止めません。
男は心配しました。
あの強欲な王たちが、潤い満たされたこのオアシスを、いつか奪いに来るのではないか、と。
そして、その心配は、現実になったのです。
ありがとうございました。