一夜目
優しくて悲しい、砂漠の昔話の始まりです。
お目汚しになりますが、暇潰しになれば、幸いです。
※出てくる国の名前は、架空のものです。昔話も実在しませんので、ご注意下さい。
むかしむかし、砂漠の中ほどに、カルデアという大きなオアシスがありました。そのオアシスは、どんなに日照りが続いても、どんなに砂嵐が吹いても、決して消えることはありませんでした。
そのオアシスは、天に住まう神様に愛された王様が治めておりました。
王様は、とても優しい王様で、争うという事を知りませんでした。ですから、オアシスに住む民たちも、争いを知らなかったのです。
ある日、遠い砂漠の端から、血に塗れた武器を持った男がやって来ました。彼自身も、大きな怪我をして、全身から血を流しています。
優しい王様は、男を王宮に迎え入れると、オアシスの水で怪我を洗い清め、介抱しました。
目覚めた男は、最初は王様やオアシスの人々を警戒していましたが、彼らの裏表のない優しさに触れて、次第に心を開きました。
ある日、王様は、男に聞きました。
「そなたは、どうして傷だらけで砂漠を渡って来たのか?」
男は、悲しそうな顔で答えます。
「隣の国との戦争で、国を失ったのです」
そう言って、男は、ここに辿り着くまでの事を話しました。
男の国は、砂漠の端の、川を越えた向こう側にありました。豊かな土地でしたが、その国を治めていた王や周りの国の王は貪欲で、他の国の富までも自分のものにしようと、常に争っていたのです。
男は、王の身を護る兵士の一人でした。剣の腕が立つのを見込まれ、側に仕えていました。
隣の国と戦争が起こったのは、秋の収穫が終わった頃だったと言います。その国の王が、隣の国に戦を仕掛け、一年も争った挙句に、逆に隣の国に攻め入られて、滅ぼされてしまったのです。
男は、王を助ける為に、身を呈して戦いました。しかし、王は、そんな彼を囮にして、自分だけ逃げ出しました。男は、見捨てられても、王のために必死に敵を退けようと戦いました。でも、大怪我を負ったために、命からがら砂漠に逃げ込んだのです。
そして、何日も砂漠を彷徨い、気が付けば、このオアシスで介抱されていました。
王様は、とても悲しそうに男の話を聞いていました。そして、男が話し終えた時、そっと彼の手を取って、
「優しい人よ、これ以上、その手を血で汚すことはない。今までたくさん傷付いた分、ここで穏やかに暮らしなさい」
教え諭すように、優しく言いました。
ありがとうございました。
しばらく続きますので、お付き合いいただければ嬉しいです。