果てなきハテナ
私は子供のころ、よく「空間移動する不思議な部屋の話」を父親に聞かされていた。
眠る前に毎晩。いつも同じストーリー構成だが、何故か飽きない。
それは謎と問題が雨のように降り荒れる世の中で、道に迷った主人公が謎の部屋を訪れるという話だった。
私はその不思議な部屋とその登場人物の夢をいつものように見ていたのである―――――。
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果てなきハテナ
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叔父に連れられ私はある場所を目指していた。
ある場所、といってもその場所の詳細を私は知らない。
ただ、叔父に連れられ。
私はある悩みを抱えていた。それは、通っている高校で私に対するいじめが勃発していることだ。
既に学年の生徒の大半が敵。実際それよりも数は少ないのだろうがそれは私の感じ方によるものなので奴らは敵。
辛気臭い話は嫌いだ。本当はみんなと仲良くしたかったのに。
新しい学校生活が始まると期待して胸を躍らせていたころの私は今は心の奥底だ。
皆が私を変えてしまった。
しばらく歩くと、なんだ、ただのデパートじゃないか。
こんなところに私を歩かせたのか、叔父は。
ぶっちゃけ言って叔父との関りは一切ない。
ろくに話したこともないし、ここまで生きてきて、存在すら知らなかった。
顔ももちろん見たことは無かった。
無言のまま私らは歩き続けた。
こんな近所のデパートに、一体何があろうというのか。
関りを持たなかった叔父が、私との会話の距離を縮めるために呑気にお買い物でも選んだのだろうか。
あいにくこっちは忙しい。友達と遊ぶ約束も三時間後に設定してあるし、なにより最近買った新作のゲームを家に戻っていち早くプレイしたかったのだ。
家に戻っても誰も居ない。私以外の存在をあの家が許すはずがない。あの何の思い出も残されていない家は唯一の私の見方だ。私の家だ。
デパートの中を巡回するように進む。
まさかこいつ。道に迷っているのか…?
友達との約束に送れるのだけは勘弁願いたい。
叔父に連れられ、非常階段の扉をくぐった。
何故非常階段?そんな疑問も親しくない叔父には吐けなかった。
非常階段を上り、二階、三階……いや、二階に戻る。
どこに行くかはともあれ、迷っているなこいつ。
二階に戻ると、職員専用の扉を開ける。
おいおい、職員じゃないが大丈夫なのか…?
扉を抜けると、殺風景な空間があった。
その奥へと進む。
奥に来ると、そこには、こちらを待ち構えるように巨大な階段が存在していた。
建物の構造からすると、ここは二階部分の屋根、つまり屋上に繋がる階段らしい。
それにしても大きすぎると目を疑う。こじんまりとしたデパートなのに。さながら大都市の空港のメイン階段のようではないか。
階段の上はそれまた大きな扉が開けっぱなしになっていて、神々しく光が差し込み奥は見えない。
さあこの奥に行くのかと思った矢先。
叔父は階段の端にある壁との小さなスペースに向かった。
私は内心がっくりしながらも付いてゆく。
階段下のスペースへと足を進める。本来はそんなに活用されるようなところではないが、そこには、これまでとは違う小さな木製の扉があった。
扉の上に表札らしきものが見えるので視線を移すと、「殺す」とゴシック体の二文字の相当な威圧を含んだ言葉が表記されていた。
ああ、これは分かり易い目印だなと納得する私である。
そこで叔父がやっと口を開いた
「いやあ、随分と道に迷ってしまった。長いこと歩かせてすまなかったね」
いえいえ、と私は首を横に振る。やはり迷っていたのか。
「如何せん久々の訪問でね。"アレ"は普段どこにいるか分からないからなあ」
"アレ"とは何のことだろうか。私は内心首をかしげながらも叔父の次の言葉を待つ。
「ここで立ち話をしているのもなんだし、さあ、入ろうか」
叔父はポケットから古びた鍵を。それも随分と印象的な形をしたものを取り出し、丁寧にその扉のカギ穴に差し込んだ。
この扉の先はどうなっているのだろう。私は不思議と心を躍らせながら解錠を待ちわびる。
叔父はゆっくりと、何かを感じ取るかのように鍵を回し、丸いドアノブに手を掛けた。
捻り、開く。
スローモーションの映像を見ているかのような錯覚にとらわれる。
扉の向こうから、淡い光が漏れだした―――――。