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傘の気持ち

作者: 如月 子龍

物を大事にするって大切な事ですよね?

私は傘だ。

これと言って珍しいところもなく、大量生産された淡いピンクの傘だ。

今日他の仲間の傘たちと共に出荷された。

私はとある雑貨屋で売りに出された。

激しい夕立の夏の日に私は買われた。

私はこれからこの女性の下で働いていくのだ。少しでも濡れないように雨を受けるのが傘の役目である。

私は『頑張るぞ!』と決意を固めた。

しかし、彼女の家までが私の使命だったらしくその後はひっそりと傘立ての奥で埃をかぶるだけの毎日だった。


数ヶ月後。

私は久しぶりに外に出された。

桜咲く小春日和の暖かい日であった。

行き先は小学校で開かれるフリーマーケット。

手放されるのだ。

私の周りに置かれた他の物は次々に売れていった。

残された私はまた埃にまみれる生活に戻るのだと思った。

その時、一人の少女が私をじっと見つめていた。

新しい主人が決まった。

彼女に長く使われるようになって彼女気持ちを感じれるようになった。

彼女はあの時初めて貰ったお小遣いで初めてした買い物が私だったのだ。

それもあってか私を大事にしてくれた。

強風に煽られて骨が折れた時も新しい傘が買えるよりずっと高い額を払って修理してくれた。大事な試験の日、満員電車から降りる際に私を落とした時も試験に間に合わなくなるのを覚悟で再び電車に飛び乗り私を見つけてくれた。

そんなに大事にしてもらってもやはり年月と共に私はだいぶ傷んできた。

台風が来た。

彼女はいつものように私を連れて出掛けた。

少しでも長く彼女と一緒にいたい私は有らん限りの力で耐えた。

その時、彼女の歩む先に今にも落ちそうな看板がある事に気付く。

このままでは彼女は下敷きになる。

私は意を決し風を受け彼女の手を離れた。

私を追いかけてくれと願い初めて自ら彼女の手を振り解いた。

彼女は私を追いかけ後戻りしてくれた。

その瞬間、大きな音と共に看板は落ちた。

彼女は助かった。

しかし私は道を走る車に引かれ傘である原型を留めない姿になっていた。

私は幸せだった。

彼女が無事だった事。

彼女の傘であれた事。

彼女と共に時間を過ごせた事。

全てが幸せであったと感じた。

彼女はバラバラになった私を見つめ涙を浮かべた。ひとつひとつ私のかけらを拾いながら

「助けてくれたんだね?ありがとう。」

と何度も何度も心の中で言ってくれた。

わたしも何度も何度も彼女にお礼を言った。

伝わるといいな…



私は今もまだ彼女の傘立ての中にいる。

人にはゴミにしか見えないだろうが傘として使えなくなった今でも埃をかぶる事なく大事にされて幸せである。

使い捨てが当たり前の世の中。もっと感情を込めて愛着を持って接するとあなたも物の気持ちを感じるようになれるかも知れません。

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