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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界2週目
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異様な空間

 私は夕景に拘束され、肩に担がれた状態で移動させられていた。これで真相に近付くと思うとワクワクが止まらない。

 私は思い出したように「助けて」と言い適度に抵抗しながら、不運にも捕まってしまった女の子を演じていた。

 今は渡との待ち合わせのことだけが気掛かりだ。

 命が結ばれた状態で相手の所在がわからないのは、さぞや不安な事だろう。

 この状況では死なない以外の事が出来ないため、私は心の中で渡に謝った。殺す気があったらこんな手間を掛けて捕まえないだろうし、死にはしないはずだ。

 視界が塞がれているため、時間の感覚がない。袋の中だから空気も肌で感じ取れない。それでも本能的な感覚で十分~二十分過ぎた頃、夕景が私を地面に一旦下ろした。

 石と石が擦り合うようなずるずるとした音がする。石材で出来た扉でもあるのだろう。

 私を持ち上げ中に入れた後、夕景は再度私を地におろし石を移動させる音をさせた。

 再度肩に私を担ぎ、夕景は進んでいく。私の身体は上下に揺れ、夕景の足音が周囲に反響していた。この場所は石壁に囲まれた階段だろうか。夕景は空間を地下へ潜るように移動しているようだ。

 然程長くない階段を下りきると、夕景以外の声が初めて聞こえた。


「夕景様、お帰りなさいませ」

「ああ」

「それが例の娘ですか?」

「中々器量がいいぞ、あの方もお喜びになるだろう」

「はい」


 今の会話で私の使い道が一部わかってしまった。別の意味で十分に期待していろと心の中でほくそ笑む。

 夕景は立場上偉いのか、すれ違う者皆が帰りを歓迎しているようだった。

 扉が開閉する音が聞こえた後、私はどこかに降ろされた。縄を解かれ袋から出される。

 開かれた視界が捉えたものは四方を囲んだ石の壁だった。扉は木製のものだが、蝋燭の小さな灯りのみで照らされた薄暗い部屋は牢屋を思い起こさせた。

 その部屋の中で夕景が下卑た笑みを携え、私を見下ろしている。


「な、何するのですか!?」


 私は怯えた様子を装った。涙の一つでもオプションで付けたいのだが、女優でないのでそれは諦める。

 見るからに怪しげな施設だ。証拠としては十分だがまだ暴れない。この施設の被害者と加害者の区別がつかないから慎重に動く。

 下手に騒ぎを起こし、それにより幹部を逃して別の場所で被害が起きても寝覚めが悪い。


「安心しろ、すぐに何もわからなくなる。この魔法のお香でな」


 部下と思われる男が夕景にお香を渡し、それを受け取った夕景は、甘い煙を燻らせるそれを私に近付けた。

 これは一体どんな効果があるものなのだろうか。

 甘い香りがするが、それだけだ。何か身体に対して毒になるような成分が含まれているのだろうか。そうだとしたら、私の身体は強力な洗剤を扱う掃除婦の特徴として自分に害のあるものを全て無効化してしまうのだ。

 眠ればいいのか? それとも薬物中毒者らしくヘラヘラ笑った方がいいのか? そもそもこのお香はアッパーなのかダウナーなのかそれすらもわからないから演技のしようがない。

 私が反応に困りながら、オロオロとしていたら夕景が不審そうに眉間に皺を寄せた。


「おかしいな、このお香を吸うと意識が朦朧とするはずなんだが……」


 私は即座にその場にだらりと倒れ、薄っすらと目を開けながら全身の力を抜いた。


「効いたか」


 立ち上がった夕景は部下に私の見張りを頼み、牢屋のような部屋から出ていった。

 見張りがいるため私の三文芝居は続く。

 その状態で数分経った頃だろうか、扉の前を見張る男が周囲を気にするように首を右に左に動かした後、こっそりと私の方へ近寄ってきた。

 男は「こんな可愛い子がここに来るなんて」と言い、茫然とした私に鼻を近付け、音を立てながら髪から始まり足先まで匂いを嗅いでいった。

 男がの生暖かい呼吸が私にかかると、その度にその場所に鳥肌が立ち、全身に冷え切るような悪寒が走った。

 気色悪いがここは我慢だ。目の前の男をタコ殴りする様を想像しながら、反吐が出るこの状況を私は耐えていた。

 私の身体を嗅ぎ回りながら二往復し、満足したのか男がやっと顔を私の身体から離した。

 内心悪夢のような時間が終わった事に安堵したのも束の間、男は「少しだけなら」と言い、私の着物の合わせ目を開いてきた。

 さすがに抵抗しようと思った時、私にセクハラを働いた目の前の男が破裂音と共に吹き飛んだ。


「下僕風情が触れていいと思うなよ」

「ゆ……夕景様」


 戻った夕景に火の魔法を思い切り叩き込まれたのか、焦げた薫りが空間に漂った。夕景は壁際で痛みに顔を歪める男に近寄り、追い討ちをかけるように思い切り蹴りを叩きこんだ。男は苦痛に雄叫びを上げる。

 死んではいないようだが骨ぐらいは折れているだろう。それぐらい夕景の攻撃にはパワーがあった。

 ふんっと鼻を鳴らし、夕景は男から私へ興味を移した。

 彼は私へと手を伸ばし、私の身体を軽々と持ち上げた。

 そのまま私は、再度夕景の手によって移動させられる事となったのだった。


 移動中、私はこっそり周囲の様子を観察した。

 この場所はすべて石壁で囲まれ、窓がない事から地下なのだろう。

 魔法で照らされている蝋燭があちこちにあり、それがこの場所では太陽の代わりを果たしているようだった。

 先ほどから何度もボロ布のような服を纏った痩せ細った男とすれ違う。女はいない。男だけだ。

 回復魔法があるため傷そのものはないが、人によっては肌に傷の痕が残っている者も沢山いた。

 ここでの生活の過酷さがそれだけで伝わってくる。

 運ばれている最中に女性の悲鳴が聞こえて来た。

 夕景が舌打ちをし、悲鳴が聞こえた方へと進行方向を変えた。

 長い廊下を進み、その最奥にある部屋の前で夕景は立ち止った。そして、重そうな鉄の扉を片手でいとも簡単に開け放った。


「おい、何やってる」


 その中では私より少し年上の女性が裸で縛り吊るされていた。瘦せ細った彼女の周りには三人の男がおり、その内の一人が手に持った大きな木の杭のような物を女性の尻に突き立てていた。

 女性は痛そうに下半身からダラダラと血を流している。


「ゆ、夕景様」


 男達は夕景に恫喝され、女性から一歩離れてその場で立ち竦んだ。


「女は貴重だ。壊すな」

「で、でも夕景様。回復魔法を使えばこの程度の傷は……」

「精神が壊れちゃ意味ないんだよ」


 夕景が凄むと、男達は気不味そうに部屋から出て行った。男達が去ったのを確認すると、夕景は私をその場に一旦降ろし、女性を縄から解放した。

 回復魔法を使える者を呼びつけ、夕景はその者に女性を託し、再度私を担いでどこかへ向かって歩き出した。

 彼はこの異様な空間で一種のストッパーのような役割を担っているようだ。

 かと言って私を容赦なく連れ去ったりと残忍な人ではあるようだが、何でもありではないということなのだろう。

 何でもありにしてしまっては、集団がまとまらなくなってしまうし、万が一逃亡者が出てここの事を外部に知られてしまうリスクが出てきてしまう。

 夕景は馬鹿ではないだけで、優しい男でないと言う事だ。


 そして、私は彼に物のように担がれた状態で、この洞窟の最奥へと連れていかれた。

 洞窟の最奥、この部屋に居るのは払暁だろう。


「立て」


 夕景は私を肩から下し、私の身体を操り人形を扱うように後ろから支えながらその場に立たせた。

 空いた手で夕景が扉を開ける。その先にラスボスの姿があろう事を期待しながら、私は薬漬けにされた女の演技を続ける。

 払暁と合間見える事を期待しながら私はその時を待った。


 だからその扉の先に居たのが良く知ったクラスメイトである鴇だったことに、私は驚きを隠せなかった。

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