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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界2週目
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逸太村

 私と鴇は村に近い森の中を二人でゆっくりと歩いていた。

 道中、食べられそうな木の実やキノコがあると鴇は持って来た籠へと入れていった。

 鴇もこの村で暮らす一人として、毎日の食料調達は出来る範囲で行い、妖が出ればそれを退治して過ごしているようだった。

 私も一緒に歩く間、木の実集めを手伝った。キノコはどれが毒があるかわからないため私は手はつけない。

 そのまま、食料調達を兼ねた散歩をしながら、近くに流れる小川へと私達は辿りついた。

 川が近いせいか、空気が冷んやりとして、呼吸の度に肺が洗われるような心地がした。

 私達は川縁の岩場に腰を下ろした。

 そこから眺める川の水は底が明確に見える程済んでいて、緑色の川魚が踊るように泳いでいる。

 その場所で耳を澄ませば風が吹く度に森の木々が葉を鳴らし、鳥の囀りとハーモニーを奏でていた。


「綺麗な世界だよな」

「うん」


 先程から口を開くたびに出る他愛のない言葉。

 今までのやり取りの中で、私達はお互いの気持ちがわかってしまった。

 それが交わらないとわかっているから、私も鴇も逃げるように核心を避けるのだ。

 けれども、再会の喜びを分かち合う時は、そろそろ終わらせないといけない。


「ねえ、鴇君」

「ああ……」

「私は皆んなを探して、元の世界に戻りたいの。鴇君はどうする?」

「俺は……」


 彼は少しの沈黙の後、遠くを見た。


「俺さ、旅をしていて何で旅をしているのかわからなかったんだ。雪羅が妖を操って人間を苦しめてるって聞いた時は何とかしなければと思ったけど、鬼の国にも妖はいて、前提となった“鬼が悪い”という情報も信じられなくなった」


 それは私も同じだ。鬼の国で暮らして、彼等全てを憎むだなんて思わなかったし、人間側を全て信じる事が出来ない事を知った。

 結局は個人個人の人格や思想に寄るのだ。


「そんな時にいつの間にかこの村にいて、最初は変なカルト宗教臭に引いたけど、なし崩し的に過ごしたらみんな良い人で、神様を崇めながら規則正しく生活するだけだった。唐金に見られたあの変な体操も集団心理なのか毎日やれば慣れるものだ」


 はにかむように鴇は笑った。

 彼の言いたい事はわかっている。それでも私は気付かぬふりをしながら彼の言葉を待った。


「だから、俺はこの村で過ごしたい」

「そう」

「家族がいる元の世界に後ろ髪が引かれないないわけじゃないが、生まれ変わったと思えばその未練も断ち切れる。元の世界に戻ったところで良い事があるわけじゃないからな」

「それが、鴇君の気持ちなんだね」

「そうだ」


 想像通りの答え。

 私は心底困った。このままでは彼は死んでしまう。

 ただ今は無闇に否定するわけにはいかない。外堀を固めなければならないだろう。


「わかった。ありがとう鴇君」

「手伝えなくて悪ぃな」

「ううん、大丈夫。一人じゃないし」


 私はそっと胸元に触れた。

 その後、もう少し森にいたいという名目で、鴇には先に村に帰ってもらった。

 渡を出し、手のひらに乗せる。


「渡、大丈夫だった?」

「大丈夫でござる」

「あの渡、お願いがあるのだけど……」

「あの村の事でござるか?」

「そう。絶対怪しいと思わない?」

「確かに。拙者も姫様に仕える身として、この村の存在は見過ごせないでござる」


 払暁が怪しいのは間違いない。

 幸い今日は払暁の家に泊めてもらえるらしいので、あのお屋敷を十分調べる事ができる。

 私と渡は作戦会議を始めた。


 ※


「お帰りなさいませ……えーっと、鴇様のお供の方」

「柚子葉と申します」

「ああ……、夕景です」


 夕景と名乗り、私を出迎えてくれたのは年齢不詳の体格の良い男だった。パっと見の印象は四十代程に見えるが、肌にはハリと艶があり皺もなくもう少し若く取ることもできる。


「柚子葉様。どうぞ、お部屋を用意しております」

「ありがとうございます」


 私は屋敷の一室を与えられ、そこを使って良いと言われた。

 夕景が去ったのを確認し、渡を表に出した。


「よろしくね、渡」

「柚子葉は無理をしないように」

「はい」


 私達はこの村について調べるために、手分けをして情報収集しようと話し合った。

 小さく隠密行動に長けている渡が主だが、私も出来る範囲で手伝うと約束している。

 渡は私から離れ、こっそりと外へと出て行った。

 私は目立つし、忍ぶとか隠れると言った事が得意なわけでもない。という事は体当たりで情報を集めるしかないという事に至った。

 そんな私が目を付けたのは村人だった。

 私は村へ下り、仕事を手伝う名目で村人へと声を掛けていった。

 最初に出会ったのは六十前後の女の人だった。


「何かしら?」

「あの、私は鴇様と昔旅をしていた縁でこの村で本日お世話になりました。ただで世話になるわけにも行かないので何かお手伝いさせてください」

「そんないいわよ、お客さんでしょう。ゆっくりなさって」

「いえいえ、それでは私の気がすまないのです。掃除婦なのでお力になれる事もあるかと存じます。もし仕事がないなら他を当たりますが……」

「そうねぇ……」


 私は彼女に頼まれ、屋根の上の落ち葉の掃除をした。

 一般的な茅葺き屋根で、そこに落ち葉が其処彼処に付着していた。これはこれで風流だが、日常的に暮らすものとしては衛生面から見ても気になるのだろう。

 これなら屋根に登らずとも落ち葉拾いの能力でなんとかなる。

 私は落ち葉を操作して、全て取り除いた。


「あら、やっぱり専門の人は違うわねぇ」

「いえいえ、大したことではございません」


 私はこれを取っ掛かりに、彼女にこの村の話を聞いた。


「この村に来て長いのですか?」

「まだ三ヶ月くらいよ、掃除をして身も心も綺麗になって邪気を祓うという教祖様の考え方に賛同して息子とここへ来たの」

「息子さん?」

「ええ、彼は今教祖様のお宅でお勤めを果たしているわ」

「そうなのですか」


 あの屋敷で働いているのか、私が会った中にいるだろうか。


「それでは私はこれで失礼します」


 一人に聞き過ぎて警戒されることを恐れ、私は彼女との雑談はこれくらいで終わりにして次の村人を探しに出た。



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