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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界2週目
92/107

鴇?

 鴇は右足と左足を使いボックスステップを踏んだ。

 この世界ではこの足使いに名前などついていなかったが、鴇がいた日本ではそう呼ばれているものだった。


「えっさー、ほいさー、天気はどしゃ降り、心は晴天~」


 最初は恥ずかしかったが、今は慣れてこの珍妙な歌も平気で歌えるようになった。

 大きな声ではきはきと歌いながら、鴇は足をクロスさせ、上方へ高く飛び跳ねた。


 毎日昼頃になると、住人全員で手を繋ぎ輪になって踊るのがこの村の習わしだった。

 鴇は最初見た時は宗教のようだと思ったが、実際そうらしく“ヘンタイ神”という謎の神を讃えているようだった。

 ヘンタイ神はこの国の神の八百万の神の一人で、異世界から来た勇者が元になっているようだ。

 変態と同じ響きだなんて変な名前だと、最初聞いた時に鴇は苦笑したのを覚えている。


「君の瞳を見つめながら、今日も私は背中を掻くのさ~」


 頭を振りながら、足は前、後と交互に重心をかける。


 鴇が目覚めたのは、この集落の寄り合い所のようなところだった。

 鴇はこの世界に異世界転移し、仲間達と旅をしていたはずだ。鬼の領土に入り、真朱と宿の部屋に居たところまでは覚えているが、その後の記憶がない。

 目覚めたらこの村に居たのだ。

 この村は異世界からの勇者を信仰しているため、鴇を神の使いと言い手厚く歓迎した。

 鴇は仲間達と合流しなければと思うのだが、旅に出るにも支度と情報がいる。ここで一度生活を安定させてからと、この村で厄介になることにしたのだ。


「ヘンタイ神様ありがとー!!」


 両隣と繋いでいた手を離し、万歳のポーズで真上に飛んでフィニッシュ。

 段々慣れて恥がなくなったからか、毎日のこの踊りにもキレが出て来た。日本で言うラジオ体操のようなものだと思えばいいのだ。

 午後も頑張ろうと思ったとき、視線を動かした先の繁み人影がある事に気が付いた。


「あれは……唐金?」


 その人影は異世界で死んだと思っていた同級生だった。

 鴇の顔は絶望で青く染まった。


 ※


 私は傷む身体を、ゆっくりと起こした。

 痣やすり傷はあるがそれ以上の怪我はなさそうだ。


 崖から落ちた私は渡を抱き締めたまま、高圧の技を使い、水を地面に思い切り噴射する事によってその反作用で衝撃を和らげながら落下した。

 何度も反作用で上がったり下がったりを繰り返し、徐々に衝撃と落下距離を落としていきながら地面へと落ちた。

 地面に無事に辿り着くと、上下運動のせいか渡は辛そうに、目のあたりを手で覆った。


「渡、大丈夫?」

「ああ、問題ないでござる。危うく死ぬところでござったがな」


 渡は、目が回っているのか、ふらふらとしながら立ち上がった。


「……本当にごめんなさい」


 自分の不甲斐なさに本気で落ち込んでしまう。私が死ねば渡も死ぬのだ。

 旅を簡単に考えていたが、自分の強さを過信していた。旅の危険は妖だけではないのだ。

 自然という脅威を、私は忘れてはいけなかった。

 私は攻撃に関しては無敵だが、防御に関しては紙だ。もっと身の安全を考え慎重にならなければいけないかった。


「柚子葉」


 渡に名前を呼ばれ、私は顔を上げた。真っ直ぐに渡は私を見た。


「次からは気を付けるのでござるよ」


 そう言って、地べたに座ったままの私の頭をぽんぽんと二回、渡は軽く手の平で触れた。


「う、うん」

「では、落ち込むのは終わりでござる」

「ありがとう」


 渡はもうこちらを見ない。羅針盤と地図を取り出し、それと睨めっこを始めてしまった。

 私も立ち上がり、周囲の様子を見回した。すると、風に乗ってどこかから音が聞こえる気がした。

 これは太鼓の音だろうか……? それに人の歌声のようなものも聞こえる。


「渡、あっちの方から何か音が聞こえない?」

「ん?」


 渡も耳を澄ますと聞こえたようで、目を丸く見開いた。


「このような場所に人里があるなど聞いたことがないでござる」

「一応行ってみない? 洞窟の出入り口のこととか聞けるかもしれないし」

「そうでござるな。それに、姫様が管理していない人里の存在を放って置くわけにもいかぬでござる」


 私と渡は物音のする方目掛けて、歩みを進めた。

 近付くにつれて、音は大きくなってくる。リズミカルに鳴る太鼓と笛の音のようだ。

 何かのお祭りの最中なのだろうか。

 私と渡は物音を立てないように、警戒しながら歩みを進める。

 そのまま歩くと、木々の隙間から小さくだが村の様子が見え始めた。歌声もはっきりと聞こえてくる。


 えっさー、ほいさー、天気はどしゃ降り、心は晴天?


 耳に入って来た歌詞は珍妙で、聞いただけで関わり合いになりたくない気持ちにさせた。

 しかし、この手の民謡で歌詞がおかしいのは珍しいことではない。

 私達はさらに村へと近寄り、木の陰から村の様子を覗き見た。

 ギリギリまで接近すると、村の広場に人が集まって輪になって踊っているのがわかる。

 踊りも歌に負けずに奇妙で、見ているだけで呪われそうだった。

 村人を観察していると、踊りをおどる村人の中に知り合いに似た人物を見つけた。


「まさか、鴇君……?」

「柚子葉、どうかしたでござるか?」

「もしかしたら、ずっと前に離れ離れになった知り合いが、あの中にいるかもしれない」

「それは……奇特な知り合いでござるな」

「うーん。こんな人じゃなかったはずなんだけど……」


 私と渡は余りの異様な光景に、すぐに村人に声を掛ける事が躊躇われ、そのまま様子見を続けた。

 歌を聞いていると、フィニッシュで「ヘンタイ神様」という単語も聞こえた。

 ヘンタイ神という神様を崇める歌なのだろうか。それにしてもヘンタイ神って……。

 私は一人の男の顔を思い浮かべた。


「まさかね……」


 私は乾いた笑いを漏らした。

 歌と踊りが終わり、村人達が各々散ろうとする最中、鴇がこちらに気が付いたのか目が合った。

 私は鴇に向かって軽く手を振る。

 しかし、彼は青い顔をしてその場で固まってしまった。

 何だろう私がわからないのかな……? 少し身を乗り出して、もう一度手を振った。


「いやあぁぁぁあぁぁぁぁああぁ!!!!」


 すると鴇は、叫び声を上げながら、村の奥へと走り去ってしまった。

 ど、どう言う事……?

 私は渡と目を合わせ、互いに首を傾げた。


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