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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
80/107

柚子葉の長い一日⑤

 ※

 空が振った、炎を纏う柳葉刀が空気を切った。

 水仙はそれを下方に攻撃を避けそのまま下段回し蹴りを放つ。

 避けきれないと思った空は、瞬時に土の魔法で足に防御壁を使ったが無意味。水仙の蹴りは防御壁を破壊し、軸足の骨を粉々に砕いた。


「嘘だろ……」


 本来ならば生身の攻撃が土の魔法の防御を突破するなど不可能なことである。

 空が水仙の足を見ると、何か薄い光を纏っているのが見えた。


「これは、金の魔法だよ……。私は金の魔法を纏い攻撃力を高めることができる」


 水仙は金の魔法を拳や足に瞬間的に纏い超破壊力を持たせていたのだ。これが出来るのは水仙以外にいないとても難易度の高い技術だ。少しでも間違えば己の身体が金の魔法の圧力で吹き飛ぶ恐ろしい術なのである。


「そんな危ない使い方をされるとは……さすが、水仙さん」

「褒めても手加減はしないよ?」


 この足では戦えない。空は水仙と距離を取り、足に回復魔法をかけたいが、魔法での治療中も水仙の拳は止まらない。それを避けながらの治癒は困難を極めた。

 これだけの傷を治すためには一度静止して治療の時間を稼がなければならない。たった一秒あればいいのだがその一秒を稼ぐのが難しかった。

 空の腕の皮がピクリと動く。空の腕を破壊し芽のようなものが出て、そこから爆発するように樹木が出現し成長した。

 空が何かあった時にと木の魔力を溜めた種を手に埋め込んでいたのだ。それが盾のように空の身体を守る。

 水仙は突如出現した大量の木の幹にギクりとし、勇者から距離を取った。

 急成長した木の幹の盾に隠れ、空は先程ボロボロになった足と木の魔法によって破壊された腕を治療した。

 気を取り直した水仙が木の壁を破壊すると同時に空はその場を飛び退く。

 空は己の身を回復しながら戦う様にRPGを思い出し、少し日本を懐かしく思った。こちら側だけ回復魔法を使うのは卑怯ではないかと友人と話したことがあったが、ラスボスが回復魔法を使ってきた時はどう勝てばいいのかと困惑したものだ。

 今の空は水仙より弱い、全ての属性魔法を使え、全ての武器の才覚がある空だが金の魔法しか使えぬ水仙に押されるばかりだ。

 ならば、今、成長するしかない。

 空は柳葉刀を捨て、己の拳に力を込めた――。

 水仙と同じように空も金の魔法を右手に集中させ、纏わせた。

 力の制御が難しい、一歩間違えれば己の腕が粉々に消し飛んでしまうだろう。こんな事をしながら相手は戦っていたのかと、空は目の前の敵へ尊敬の念を感じた。


「さすが勇者だ。私が何年もかけて習得したものをこの短時間でやってのけるとは。それも扱いが難しい金の魔法でな……」


 水仙は空の成長の早さを目の当たりにし、その異様さと異常さに初めて未熟な勇者に恐怖を感じた。

 しかし、その感情は脳から四肢へ到達する頃には愉しみへと変わっていく。


「ははっ」


 水仙は過去に己が戦場に立っていたことを思い出した。

 その戦場で水仙は金の魔法は一切使わずに戦っていた。金の魔法を戦闘に使う事はあまり表に出せない事実だったため親から禁止されていたのだ。

 戦で命を落としかけた事は何度もあった。その恐怖たるや毎夜毎夜悪夢にうなされるものだった。

 その恐怖から逃れるために水仙は日々己を鍛えた。日々強くなるのは楽しく、強者を倒すたびに得られる安心と快感が水仙を戦いへとのめり込ませ、跡取りとして呼び戻されるまで強敵を探し戦場を駆け回っていた。

 強き者への恐怖とそれを乗り越えた快感が水仙を突き動かす動機なのだ。


「君の才能には恐れ入ったよ。出来れば戦いたくない相手だな」

「その割に嬉しそうですね」

「ああ、強い相手を前にするとどうしてもね……」


 水仙が拳を振り上げ、一直線で空へと飛びかかる。

 空はその場で向かい来る敵を見据え、仁王立ちでその場に立った。

 避けるだなんて無粋な事はしない。腰を落とし、右手に力を込める。

 息を大きく吸い込み、腕を引き絞り、前に突き出した――。

 水仙の拳と空の拳がぶつかり合う。

 その衝撃で周囲に大きな音と共に強風が巻き起こった。

 二人の拳が混じり合い、拮抗する。

 しかし、すぐに水仙の顔色に変化が出て来た。

 ぶつかり合う水仙の右手の皮が火傷をしたように爛れているではないか。


「まさか……」


 水仙は空の拳がただ金の魔法を纏ったものではないとそこで気が付いた。

 空は金の魔法と同時に火の魔法も使っていた。いや、それだけではない……。

 火の魔法は熱を持つため、身体へのダメージが他の魔法に比べ強い。身に纏って使うなど自殺に等しい行為と言える。しかし、空は勇者なのだ。

 空は全ての魔法を使う事ができるため水で身体を覆いその上に火を発生させ熱を防ぎ、万が一高温の火の粉が舞い火傷をしても、すぐに治癒の魔法をかけ己の身体を回復していた。

 空は同時に四つの魔法を発動されていたのだ。

 金の魔法の奥から熱を持つ火の魔法で水仙の拳に熱を送る。

 気が付いた時にはもう遅い、水仙の右手は皮膚が火傷で爛れ、肉を焼き、骨まで露出している状態になった。


「くっ……」


 空と距離を取った水仙が悔しそうに顔を歪める。

 利き手が使えなくなった水仙に、今度は空が襲い掛かる。

 金の魔法を足に纏い、思い切り蹴りを水仙の腹部へ叩きこんだ。手の痛みで動きが鈍くなった水仙はそれをモロにくらい身体が宙に弾き飛ばされる。空は宙に舞った水仙に追い打ちをかけるように上に飛び、水仙の鳩尾辺りにハンマーのように思い切り振り下ろした。

 水仙の身体が高速で地面に叩きつけられる。

 そのまま、寝そべりながら苦しそうに血を吐く敵を、空は見下ろした。


「さようなら、水仙さん……貴方と戦えて本当に良かった」


 空は金の魔法を込めた足を水仙へと振り下ろした。


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