職業鑑定
私達は夕霧に連れられ、再度姫様達の待つ広間へ通された。
双子の姫は今日も麗しい。
「異世界から来た勇者たちよ、昨日はゆるりと休めたか?」
「あ、はい、お蔭様で」
鴇に続き、残り三人も各々に頷き感謝の辞を述べた。
紅睦月は満足そうに、微笑む。
「そうか、そうか、それは良かった」
「それでは、主らの旅の準備は整った、これから一通り説明させてもらうぞ」
私達は表情を真剣なものに変え、緊張した空気がその場に流れた。
冒険とこの世界に関する知識だ、心して聞かないと後々悪影響を及ぼす。
「まず、主らにそれぞれこの巻物を渡そう」
夕霧が、私達に巻物を一つずつ配っていく。
巻物は緑色で、一見なんの変哲もない。
「これは、知識の巻物というものじゃ。それすべてにこの世界の法、物の名前、技の名前、主らの力、すべてが書かれておる」
「俺らの力?」
「そうじゃ、主らが今どういった技が使えるのかといったところか」
「まあ、まず主らの職業適性を調べる。巻物に主らの職業を記憶させねばならぬのでな」
「では、そちからこちらへ来い」
鴇が指名され、姫達の前へ出る。
紅睦月と藍如月は丸い水晶を出し、力を込めるようにし覗き見た。
すると、水晶が一瞬だけ白く光り輝いた。
「みえたぞ、お主の適正は武術師じゃな」
「武術師?」
「そうじゃ、戦うことに最も向いている職業とされている。刀や槍を使い力も他の職業に比べて断然に高い。さすが異世界よりきた勇者一行じゃ、この世界でも珍しい貴重な職業ぞえ」
「そ、そうなんすか。ありがとうございます」
「巻物を貸してもらえるか、職業の記述をする」
鴇から巻物を渡された紅睦月がサラサラと筆で巻物に何かを書き鴇へ返した。
武術士か……、予想通り怪力補正がつく職業だったか。
説明からするにRPGで言う戦士ポジションで良さそうだ。
「では、次はお主が前へ」
「は……はい」
次は真朱だ。鴇の時と同じように鑑定される。
「お主は、呪術師じゃな。主に魔術を得意とする。火・水・土・金・木属性の魔法を自由に操ることができる。これもさすがじゃ、珍しい優秀な職業じゃ」
「あ、ありがとうございます」
真朱は己の力にピンと来ないのか、不思議そうに手を握ったり開いたりしていた。
次は、瑠璃が呼ばれた。
「お主は、神巫女じゃ。回復を得意としありとあらゆる怪我や病を癒すことができるであろう。巫女自体は沢山おるが神巫女は珍しい。旅でさぞや重宝されるであろう」
「ありがとうございます」
「うむ。そして、最後はお主か……」
二人の姫君の視線が、私へ集中する。
「此度は、女の勇者なのか」
「美しい女子の勇者。良いではないか」
「あ……あの」
「ああ、失礼。勇者というのはすべてを束ねる英雄のような職業のことじゃ。異世界から来たものの中で一人だけ選ばれる、英雄の中の英雄じゃな」
私は心の中でガッツポーズを作る。
やったー勇者きたー!!
もうこれ確定でいいよね、私しかいないよね、やったー!!!
私は一応、表では戸惑っている風を装いながら姫達の前へ出た。夕霧が少し困ったような表情で姫達を見ているが何かあるのだろうか。
「お主の職業は…………ん?」
「これは……なにかの間違いではないか?」
あれ? 何やら姫達の様子がおかしいぞ、何か不穏な空気が漂っているような……
「おい、夕霧。この水晶壊れておるぞ」
「え? そんなまさか」
夕霧も姫達の元へ行き水晶を調べ始める。
「壊れてはいないようですが、念のため変わりのものを持ってきましょう」
夕霧が一旦席を外し、私達だけが取り残される。
どういうこと? 私何か悪いことしたかな……
「しばし、待たれよ」
姫達は目一杯の笑顔を私へ向けるが、額には冷や汗をかいている。
その状態で数分待つと、夕霧が別の水晶を持ってやってきた。
「これで試してみてください」
「ご苦労であった。さあ仕切り直しじゃ、お主の職業は……」
「…………やはり」
「結果は変わらぬか……」
「えっと、どうしたんですか?」
「いや、なんと言うか、お主の職業なんじゃが……そうじふじゃ……」
「え? なんですか?ソージフ?」
“そーじふ”って何だろう? 僧冶府? 蘇宇治布? いやなんかしっくり来ないな。
今一瞬別の単語が思い浮かんだけど……、まさかそんなわけないよね?
「“そうじふ”とはあれだ。この屋敷にも沢山おるが、掃除をして至る所を綺麗にしてくれる職業――掃除婦じゃ」
掃除婦、だと……?
それ適正とかあるの? そもそも、和風ファンタジーの職業じゃないよね。
私以外の三人も唖然としている。
「ともかく、お主は掃除婦だ。紅も信じられないが事実なのだから仕方がない。掃除婦として頑張れ」
「あの、掃除婦は何か職業としての特性はあるのでしょうか?」
「掃除用具を装備できる、洗剤を生成できる、細かい汚れに気が付きやすいといったところか」
「生活スキルとしては優秀で食いっぱぐれはないぞ、まあ……戦闘ではどうかわからぬがな」
昨日、鬼退治に行くとかはっきり宣言しなければ良かった。戦闘では役立たず決定だよねこれ。
日常生活では役立つようだし、私をこのままここに置いてくれないかな本当に。
でも、今更やっぱり行きませんとは言えないしなぁ……。昨日の旅に出ます宣言が今になって私の首を絞めて来るとは。
私達の、職業適性は一通り終わった、その場にいた全員が私へ憐れみの視線を向けているのがわかる。
やめて、居た堪れないから、やめて……
とりあえず、話題を逸らさなければ。
「あ、あの、じゃあ勇者はいないということですか?」
私の質問に、紅睦月は難しい顔をして顎に手を当てた。
「そうじゃな。勇者は伝説の職業じゃ。勇者の部分は物語の産物の可能性もあるが……」
「まあ、これだけ有能な職業が揃えば勇者などいなくても問題ないのではないか?」
「それもそうじゃな。とりあえずいないものを悩んでいても仕方がない、職業に適した武器と防具を渡そう。身に付けてみよ」
美しき姫達は、私の方を見ないようにしながら、無理矢理話を閉めたのだった。
※
私達は、それぞれ渡された防具に着替え、広間へまた集合した。
私だけ早く広間へ来たため、巻物の中を確認していた。
私のステータスを確認したところ結果はこんな感じだった。
職業:掃除婦 序
特技:雑巾拭き
※雑巾拭き……普通の人より雑巾がけが綺麗に仕上がる
うん、戦闘では使えないね!
私が、巻物をみて黄昏ていたら、他のみんなも到着した。
鴇は、黒と赤の道着のような服装に、胸当てと膝当てをつけて、背中に刀、手には竹でできた槍を持っている。どこか孫悟空を思わせるような雰囲気がある。
真朱は、黒ずくめ着物に茶色の帯をしている。武器は首に掛けている、大きな念珠のようなもののようだ。
瑠璃は、白い巫女服だがスカートはミニ丈でニーソのような白い靴下を履いて、まるで萌キャラが三次元に出てきたようだ。武器は、大きな鈴二つを紅白紐で括ったものを両手に持っている。
そして、私は上下青の作業服に、頭に三角巾を被っている。
おい、これ和風ファンタジーじゃないのか、なんで現代日本の清掃着と同じ形なんだ。
しかも、武器は雑巾だ。せめてとモップを所望したが、職業練度が低いから、雑巾しか装備できないと言われた。
雑巾でどうやって戦えと言うんだよ。
案の定、私の手の雑巾が注目を集めていた。
みんな、どうやって戦うのか、不思議そうな顔をしている。
装備している私ですらわからないのだから、みんなにわかるわけないだろう。
何かアドバイスを貰えないかと、夕霧を見たが視線を逸らされた。姫二人はこちらを見ようともしない。
私の存在を無視しながら話は進んでいく。
「主らは一先ず、街道を西の方向へ行き星の村を目指すが良い、街道なら大して強い妖も出ぬ。ゆっくり実力を上げながら、鬼王への道を進んで行け」
「基本、村や町を目指しながら進めば、鬼王の居城へも迷わないであろ」
「夕霧、お主が次の村までは案内してやれ、不慣れなことも多いだろうから色々説明してやるのだ」
「かしこまりました」
この世界の人が付き添ってくれるのならば、確かに心強い。
その提案はとてもありがたかった。
それから、私達は、各々準備をして、村を出発した。