表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
77/107

柚子葉の長い一日②

 紫竜殿を抜けると、真っ白に輝く建物が視界を埋め尽くした。いつ見ても白銀雪は美しい。

 だが今は、この景色を堪能している場合ではなかった。

 従業員達が忙しなく動く廊下をかき分けながら、私と金雀枝は速度を緩めることなく会場へと走り抜ける。

 この廊下はこんなにも長かっただろうか。

 いつもすぐに掃除が終わり何てことないと思っていた廊下がとても長く感じる。

 急がなければ、間に合わなければ、彼女は殺されてしまうかもしれないのだ。


 会場となってる広間の扉が見えてくる。

 金雀枝がそれを掴み、思い切り開け放った。

 扉が叩きつけられる音に皆の注目が集まった。


「金雀枝……?」


 誰かが彼の名前を小さく呼んだ。

 会場のど真ん中は道のように奥ま細い池で区切られており、その池のさらに中心の一段高いところに座す美しく着飾った主役の二人と、両脇に並ぶ鬼の貴族達とを分け隔てていた。

 そして、主役の真下には、水仙と薊がいた。

 身体が透けて見えるような薄い衣を纏い薊は水仙に身を預け座っている。二人の周囲は水に囲まれ、触れたら通り抜けてしまいそうな、儚い世界観を作り出していた。

 金雀枝は父親を強く睨み、語気を荒げながら踏みよる。


「これはどういうことですか父上。薊は僕の妻だ。返してもらおう」

「言ったらお前は必ず止めに来ると思ったよ。でも返す事は出来ない。これは輝夜との話し合いで決まった事だ。お前の権限では覆す事はできない」

「薊! お前はどうなんだ。これでいいのか」


 金雀枝が薊へ向かい叫ぶも、薊は顔を背けてしまった。

 この儀式は薊を殺すものだ。金雀枝の妨害を恐れ彼等は私を使い金雀枝を人払いしようとしたのだろうか。

 おそらく私に話を持ち掛けた薊も同じ気持ちなのだろう。彼女に逃げようとする意思は微塵もないようだった。


 金雀枝の前に牡丹が立ちはだかり、剣を抜く。


「下がれ、神聖な儀式の邪魔はお前とて許されない」

「牡丹……」


 金雀枝は振り返り、私へ命令する。


「柚子葉! 道を開けろ!!」

「かしこまりました」


 私は水を操り池の水位を上げ、モーゼの十戒さながら水の壁を作る。これで外から中へ入ることは不可能。後は牡丹の動きを止めるだけだ。私は思い切り上へ飛び、牡丹へ飛び掛かる。

 その隙をついて金雀枝は薊の元へ走った。水仙は手出しするつもりがないのか、その様子を傍観している。

 そして、金雀枝は辿り着く、四番目の妻の元へ。


「薊、行くぞ」

「ダメよ……」


 薊は金雀枝の手を引っ張り、彼と共に行くことに拒絶の意思を示す。

 金雀枝は薊を抱き寄せ、無理矢理自分の方へ顔を向けさせた。


「薊……俺にはお前が必要だ」


 薊が一瞬動揺した隙をついて、金雀枝は薊の手を引き彼女を立ち上がらせ抱き上げた。

 水仙はその様を阻害することなく、少し愉快そうに黙って見守っていた。

 私と攻防を繰り広げる牡丹へ、水仙が「もういい」と言い彼に刀を下げさせた。牡丹は不満そうしながら私を一睨みした。私はそれに申し訳なさそうに愛想笑いを返す。

 水仙はこのまま黙って息子の我儘に付き合う気なのだろうか。

 金雀枝は薊と共に出口へ向かう。私も後に続き、両手が塞がっている金雀枝の変わりに扉を開けようとしたその時――、水仙が薊を呼ぶ声がした。


「薊!」


 その声に薊は振り返り、水仙を見てしまった。

 彼女の瞳には水仙しかもう映らない。


「薊、帰っておいで。抱き締めさせてくれないか」


 彼は大きく腕を開き、その顔は愛しさに満ち溢れていた。

 薊は暴れ金雀枝の腕の中から抜け落ち、水仙の元へ走る。

 もう少しで助けられたのに、彼女は生贄の道を選んだのだった。

 金雀枝が薊の名を呼び追うが、彼女は振り返らない。

 水仙に顎で指示され、牡丹が私と金雀枝の前に再度立ち塞がった。

 薊はそのまま選んだ男の腕に飛び込み強く抱かれながら、愛しい彼に首を掻き切られ死んだ。

 水仙はそのまま薊の首を切り、料理人に急ぎそれを渡した。


「薊……どうして」


 選ばれなかった夫はその場で悲壮感に苛まれながら、膝をつき、選ばれた男は淡々と薊の血を抜き、骨と肉と内蔵に分ける作業を進めた。

 作業途中に、水仙は血の付いた顔をこちらに向け、金雀枝を見た。


「金雀枝。私はこのひと月ずっと薊といた」

「あれ、仕事していたのでは……」


 割り込むように牡丹が呟いた。

 水仙は次男から長男へ視線を滑らせた後、小さく咳払いした。


「薊の傍らで仕事もしていた」


 ここのところ父親の分まで仕事をやらされていた新婚の牡丹が、疑いの表情全開で水仙を見ている。

 水仙はそれを見て見ぬふりをしながら話を続けた。


「金雀枝、お前には助ける事がいつでも出来たのだよ。けれど、お前は今の今まで気が付かなかった。私と薊の絆を超える事が出来なかった」

「なぜ、薊なのですか……」


 追い打ちをかけられながらも、金雀枝は声を絞り出す。それは私も知りたかった。自由に食用の人間を使う事が出来る時雨氏の食材が薊でなければならない理由は何だ。


「その内わかる。今日は宴だ。詳しい話は明日にしようではないか」


 水仙の意味深な発言にその場はざわめき立つ。

 この場でこの事を知っているのは彼だけなのだろうが、見当がついている者はいるようで隣近所と答え合わせをするかのように話し合っている。


「父上、この二人はどうしますか?」


 牡丹が私と金雀枝を指し、この場で一番の権力者へ尋ねた。


「お咎めなしでいいだろう。余興としては楽しかった」


 寛大な判断にその場に拍手が巻き起こる。

 それは、今日の主役がまるで水仙かのように錯覚させた。

 鬼の間ではお飾りの王よりも、実質権力を握っている水仙の方が常に中心なのだろう。

 私は今日の主役である二人を見上げた。

 桔梗もこちらを見ていたようで目が合うも、彼は少し怒ったように頬を膨らませそっぽを向いてしまった。

 儀式を荒らし中断してしまったのだから、怒らせても仕方ないだろう。

 もし、機会があれば今日の事を謝らないといけないな。


 私は消沈する金雀枝を支え立たせようとしたところ、頭上で木材が破壊される音が鳴り響いた。

 木くずがパラパラと舞い落ちてくる中、天井を見上げると、そこには勇者がいた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ