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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
72/107

真朱?

 私は真朱から会いたいという旨の手紙を貰い、待ち合わせ場所であるこの森へ来ていた。必ず一人でと書かれていたため渡は連れて来ていない。

 真朱は私の到着を喜び手を振った。

 その好意的な雰囲気が逆に不安で、足を前に進めるのを躊躇してしまう。

 突然頭上でがさっと木の葉が揺れる音がする、驚き音の方を見上げるとカラスが飛び立っただけのようだ。カラスは鳴きながら空をぐるぐると回っている。

 ここまで来て帰るわけにもいかぬため、私は警戒しながら仲間の元へ一歩また一歩近づいていった。


「真朱君、今日はどうしたの?」

「柚子葉ちゃんにこの前の事で謝りたくて。ごめん、あの時は取り乱しちゃって。よく考えたら柚子葉ちゃんが犯人なわけないのに」

「そ、そんな、しょうがないよ。状況が状況だし」


 私の事を信じてくれていたのか。

 どういう経緯で心境の変化があったのだろう。そこが気になる。


「どうして、私を信じようと思ってくれたの?」

「僕はね、犯人の検討がある程度付いているんだ」

「そうだったんだ」


 真朱の腕に綺麗な桃色の飾りが見えた。気のせいだろうかそれが妖しい光を帯びているような気がする。


「柚子葉ちゃん?」

「ごめん、犯人だったよね。誰なのかな」


 腕飾りに気を取られ、ぼーっとしてしまった。

 大事な話の途中なのに申し訳ない。


「そんなの勇者しかいないでしょう」

「勇者……?」


 夕霧の事かな。一緒に冒険していたわけだから知っていても不思議じゃない。


「勇者が今どこで何をしているのかはわからない。けど瑠璃ちゃんや鴇君を殺す事ができるくらいの力を持っているのは勇者しかいない。犯人はどこかに潜む勇者だ」


 もしかして、真朱は夕霧が勇者だと気が付いていない……?

 真朱は見えない勇者という存在を犯人に仕立て上げる事にしたのだろうか。

 確かに勇者の力を持ってすれば、一人でいる鴇や瑠璃を殺害することは可能なのかもしれない。


「でも、本当に勇者だって決め付けていいのかな。だって金の魔法を極める事が出来れば二人を殺すことは可能だもの」

「金の魔法……」

「ご、ごめんなさい。真朱君がやったとかそういう話じゃなくてね」

「詳しく話してくれる?」


 私は私が知り得る金の魔法を推測も混ぜ説明した。


 その一、金の魔法で金を作る事が出来る者はごく僅かだということ

 その二、金を作り出すのにはとてつもない圧力が必要になること

 その三、術者といえ、その強力な圧力に耐えることが出来ず体は破裂してバラバラになってしまうこと

 その四、上記現象により金の生成媒体を自分でなく他人にすることにより、的確に短時間でその圧力を使った殺戮を行うことが出来ること


「推測も混じっているけどこんな感じじゃないかな、瑠璃ちゃんの遺体には小さな金の塊が混じっていた。鴇君の時はわからないけれど瑠璃ちゃんの手が金の粒を握っていた、あれがおそらく鴇君を殺害する際に生成されたものなら合点がいく」

「柚子葉ちゃんさすがだね、そこまでわかってるんだ。それ誰かに言った?」

「ううん、まだ」

「そうか……」


 真朱は品定めをするように、私を下から上へと舐めるように見る。これは本当に真朱なのだろうか。

 別れている間に人格が変わったとしか思えない。前の彼ならそんな魔法の存在を知ったら泣いて震えそうなものだが。

 それとも呪術師だから魔法に対しての恐怖がないのだろうか。


「柚子葉ちゃんは僕が犯人だと思う? 僕ならその魔法を使う事は可能だし」

「そ、そんな事ない。少ないとは言えこの魔法を使える人はいるわけだし、それだけで真朱君を疑うなんて早計だよ」

「それなら、よかった。でも彼等は部屋で一人でいる時に進入を許している。顔見知りの可能性は大いにあるよね」

「そう……だね」


 おそらく状況的には真朱か夕霧以外は犯行に及ぶのは難しいだろう。


「ただ僕は、仲間を疑いたくないんだ。だから姿の見えない勇者が犯人だと考えた。同じ異世界出身の人間が現れたら二人だって気を許すだろうしね。ねぇ、柚子葉ちゃんは勇者について何か情報を持ってないかな? 掃除婦という“特別な”職業の君なら何か知っているんじゃないかな? 」


 真朱が目を血走らせながら、私に迫ってくる。

 鬼気迫る雰囲気が何だか怖い。

 彼には夕霧の事は言ってはいけないような気がする。言ったら今にも殺しに行きそうなそんな雰囲気だ。


「ごめん、私、何も知らないの」

「本当に?」

「本当よ。私、ずっと赤竜殿で掃除婦として働いて暮らしていただけだし」

「本・当・に?」


 真朱が私の顔を下から覗き込む。

 私は驚き、全身が震えた。

 私が知っている真朱は気が弱くて、自己主張の少ない少年だった。

 いくら時が経ったとは言え変わりすぎではないだろうか……。


「本当に何も知らないの。勇者がどんな人なのかも」

「そっか……じゃあさ、背が高くてワカメみたいな髪型の男は見た事ない?」


 一瞬知り合いの顔が浮かぶが、まさか彼なワケがないだろう。似た特徴の別人かな。

 しかし、勇者の話の流れで夕霧とは関係ない特徴が出てくるとは……。


「柚子葉ちゃん誰かに心当たりあるの?」

「ごめん、ないない。ほら元の世界の学校の先輩を思い出しただけ。知らないかな? 化学部の部長で美化委員もしているヘンタイって呼ばれてる先輩。ちょっと特徴が似てたから思い出しちゃって。関係ないから気にしないで……」

「ヘン……タイ……?」


 真朱の目の色が変わった。今度は懇願するように「その男について詳しく教えてくれ」と言ってくる。

 その先輩の事なら別に話しても構わないかと、私はヘンタイ先輩について真朱に当たり障りのない情報を語った。


 無類の掃除好きで美化委員に入っていること、化学部の部長をしているのも洗剤をブレンドするのが目的だということ。

 高校でできた友人がその先輩と幼馴染で、その縁で知り合ったこと。

 そして、出会い頭に告白され、何回振ってもしつこく告白してくる迷惑な男だと言う事。


「告白……? 彼は貴方のことが好きなの?」

「違う違う。先輩は私をからかってふざけてるの。本気じゃないよ」

「そう……」


 真朱は呆然と立ち尽くし、瞬きもせず何か小さい声でぶつぶつと言っている。

 何を言っているのかと、一歩前に踏み出し、耳を傾けると小さく「殺す」と聞こえた。


 私が驚き後退すると、真朱は私へ向かい手を翳した。


「さよなら、柚子葉ちゃん」


 私の体は熱を持ち、内側から血肉が沸き立つような強い熱さを感じた。

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