一時の日常
私は部屋で瑠璃と二人きりで、今とても気不味い思いをしている。
明らかに塞ぎ込んでいる瑠璃にどう声を掛けていいかわからないのだ。
こういう時リア充ならなんて言うんだろうか、大丈夫だよと言っても根拠がないし、元気出せと言ってもこんな状況じゃ無理だろうし。かと言って空気を和ませるようなギャグも持っていない。
これだったら、まだ男子と四人部屋に放り込まれた方がマシだった。勝手に他三人で会話してくれて、適当に相槌打ってればいいだけだしね。
私がどうしたものかと思案していたら、御簾の外に二人分の影が映った。
「ちょっと話し合いたいんだけどいいか?」
鴇と真朱だった。
グッドタイミング。私は喜んで二人を中に招き入れた。瑠璃も力のない笑みで二人を歓迎した。
「瑠璃ちゃん大丈夫?」
真朱の問い掛けに、瑠璃は苦笑いだけ浮かべた。
これは、相当精神的に追い詰められているな。
「さっきは、鬼退治に行くって返事したけどどうなんだ? 俺と蘇芳の意見変わらないけど、お前達は女子だし無理に戦いに身を投じる必要はないと思う」
「私は行くよ。みんなが行かないと行っても、私だけで行ってもいいくらい決意は固い」
私は、(暫定)勇者だ。私が行かなくて誰が行くというのか。女だからという決めつけに少し腹が立ったのもあり強く宣言する。
「そ、そうか。唐金がそこまでいうなら止めない。杜若はどうだ? もし、嫌ならお前だけ残ってもいいんだぞ、俺たちが鬼退治に行く代わりにお前の保護を頼んでやる。三人も行けば充分だろう」
鴇は瑠璃の前へしゃがみ、明るく言った。
「私も、戦うのは怖いけど行くよ」
瑠璃が、震えるような声で答えた。明らかに無理をしているのがわかる。
「無理、しなくていいんだよ」
真朱も優しい表情で瑠璃の側へ行く。
瑠璃は、二人から顔を逸らすように俯いた。
「鬼退治は怖いし、不安しかない。けど、私はみんなの怪我を治すことができるの。ここで行かずにみんなにもし何かあったら私は絶対後悔する。だからみんなと行く気持ちは変わらないよ。それに鬼退治以外に私達は生きる術がない、これが最良の選択なの。ただ、戦うことに抵抗はあるし、今はまだ気持ちに折り合いがつかないだけだから……心配しないで」
瑠璃は今、落ち込んでいるのではなく、気持ちの整理をしていたのだ。鬼退治が嫌で塞ぎ込んでいるだけだけだと思ったが、違った。二人きりのときに下手に励ましの言葉を掛けなくて本当に良かった。
「うし、杜若の気持ちはわかった。回復はお前に任せる。その代わりお前のことは俺が全力で守ってやる。お前が怪我を治してくれる分沢山戦えるからな」
「そ、そんな、やめてよ、自分から怪我するなんて言わないで」
「あー、悪い。じゃあ強くなって俺も怪我しないし杜若も危険な目に合わせない。これでいいな?」
「う、うん」
「でも、お前のことは、絶対守るからあんま怖がるなよ」
「ありがとう、鴇君」
瑠璃の笑顔に赤味が戻った。鴇の言葉で多少なりとも気が楽になったようだ。
そんな瑠璃の頭を、鴇は小さな子供にするようにポンポンと軽く叩いた。
完全に二人の世界に入ってしまっているため、身の置き所に困った私と真朱は、お互い見合わせ肩を竦め苦笑いしたのだった。
※
夜は瑠璃と二人で敷地内にある温泉へ浸かって今日の疲れを癒していた。
あの後、疲れて二人とも寝てしまったため、入るのが夜遅くになってしまった。
時間が遅いせいか温泉は私達二人の貸切状態である。
家の敷地内に温泉があって入りたい放題とか羨ましい環境だ。これでネットとオタクカルチャーがあれば完璧なんだけどな。
「ユズちゃん今日はごめんね。私、ここに来てからずっとテンション低くて」
「全然気にしないで~、私なんて始終テンション低いし暗いし」
「そんなことないよ! 落ち着いててすごいなって思うよ」
「いいよ、気を使わないで、事実だし、気にしてないから」
「うー、もしかしてユズちゃんって結構ネガティブさん? さっき鬼退治行く宣言した時はかっこ良かったのに」
「あれはなんていうか、まぁ、それしかないから仕方ないってわかっていたし」
自分が勇者宣言は恥ずかしいのでこの場では、口に出して言わないでおこう。
それにしても、入浴中の瑠璃は色っぽくて可愛いな。眼福眼福。鴇に自慢してやりたい。あいつ完全に瑠璃に惚れているからな。
そういえば瑠璃の方はどうなんだろうか? 俺が守る宣言は中々のイケメン発言だし惚れても不思議じゃない。ここは、話を逸らすついでに聞いてみるか。
「瑠璃は、鴇君のこと好きだったりするの? さっき俺が守るとか言っててかっこ良かったよね」
「えっ? そんなないよ。いい人だとは思うし、友達としては好きだけど」
「そっか、ごめんね、変なこと聞いて」
鴇もごめんね、間接的に君は今振られてしまった。でも、これから一緒に旅したらわからないしね。うん。頑張って。
「私ね、同じ学校に実は好きな人いるの」
「そうだったんだ。片思い?」
「うん、どうなんだろう。実は前付き合っていたけど別れちゃった人なんだ」
「瑠璃みたいな可愛い子でもそんなことあるんだね」
「そんなことないよ、ユズちゃんの方が私みたいなチビじゃないし、モデルさんみたいで綺麗だよ」
「いやいや、ないから。それに男は瑠璃みたいな小さくて可愛い子の方が好きだと思うよ」
「ユズちゃんの方が大人っぽいし、魅力的だよぉ」
そんな下らないやり取りをしていたら、瑠璃と打ち解けられてきた。
コミュ障の私でも大分瑠璃に対しての心の壁は低くなっと思う。
最初は、リア充の瑠璃がちょっと怖かったけど、見た目可愛いし、話してみたら良い子だし、戦いを怖がりながらも受け入れる強さがある。
異世界転生が瑠璃と一緒で良かったのかもしれないな。
もし、オタク同士で異世界転生だったら、お互い会話が受け身で続かなかったり、趣味が真反対で喧嘩になったり、自分のこと俺とかいう女の子とか絡み辛い子で始終混乱していたかもしれないしね。
まあ、趣味が合ったら最高なんだろうけど……
もしもこことを考えても仕方がない。とりあえず、今は、瑠璃で良かったと本心から思った。
※
お風呂から上がり、渡された着物に着替え、廊下へ出ると、同じくお風呂上がりと思われる真朱とばったり会った。
「二人もお風呂今だったんだね」
「真朱一人? 鴇君は?」
「僕がうたた寝しちゃって、先に入ったみたい」
お風呂上がりの真朱は、私達と同じく着物を着ていて、着物の隙間から覗く火照ってた肌が艶めかしさを出していた。
柔らかそうな白い肌が、彼から男の子らしさを奪っている。女の子なら美少女として持て囃されていただろうに、本当に男なのが勿体無いくらいだ。
これ、鴇と同室で大丈夫か? 理性なくして襲いかかってもおかしくないくらい、今の真朱は色っぽい。
「そっかー、真朱も寝ちゃったんだね、私達も寝ちゃって遅くなっちゃったんだ、ね、ユズちゃん」
「え……あ、うん」
いけない、真朱に見惚れて、反応が遅れてしまった。まさか、真朱がこんなにセクシーキャラだったなんて。
「やっぱり二人もなんだ。僕も今日色々あって疲れちゃって、本当濃い一日だったよね」
「本当だよー、もう、夢だと思いたいけど、現実なんだよね、これ」
「僕もそれ思った。でもさっき寝て起きてやっぱ現実なんだーって痛感した」
「同じだよー、あはは」
「瑠璃ちゃん、元気になったね、これも鴇君のお陰かな」
「うん、鴇君もだし、みんながいてくれたお陰だよ」
あれ? もしかしてこの流れ、真朱まさか……
「鴇君カッコ良かったよね、瑠璃ちゃん惚れちゃってたりして」
あぁ、やっぱりその流れか、真朱も鴇の気持ちには気が付いていたんだね。でも、この流れ今日二回目なんだよ。
「全然、恋愛とかじゃないよ、仲間として普通に信頼してる」
私は、真朱にだけ見えるように必死で首を横に振った。真朱が私の無言の訴えに気が付きすべてを察したようだった。
「あーうん、そうだよね、瑠璃ちゃん。揶揄うようなこと言ってごめん」
「いいよ、気にしないで」
鴇。なんか、今日は本当にすまん。
この会話はしばらく、瑠璃の心変わりを感じるまで封印しなければいけないな。




