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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
67/107

解決

「ごめんなさいね、桔梗を連れて来たのは私なの」

「紫苑様……」

「母上」


 最初は桔梗をここへ連れて来る役目は渡に頼むつもりだったが、紫苑がこの場に来たがったため彼女に頼んだのだった。

 紫苑相手では百合も何も言えないようで、気不味そうに冷や汗をかいて黙ってしまった。


 紫苑の紫水晶のような目と桔梗の瞳の色が被る。

 二人とも綺麗な紫の瞳だ。


 鬼の目は子供の頃は皆青いが、成長するとそれぞれ持っている色へと変わる。桔梗は瞳の色が変わると共に引きこもるようになったのだ。

 それはそうだ。こんな瞳を見られたら母親を追い詰めることになるのだから……。


 水仙と百合の子であれば絶対産まれない色、桔梗には間違いなく牡丹を介して紫苑の常染色体が組み込まれているのだ。


「小三郎様は間違いなく、太師と白姫様の子です」


 牡丹も桔梗も気が付いていたのだろう、自分達が親子だということを。


「母上。お願いです、この事は父上には何卒ご内密にしていただけないでしょうか。百合がお咎めを受けてしまいます」

「ぼ、僕からもお願いします」


 牡丹と桔梗が紫苑に跪いて、懇願する。

 それではダメなのだ。それでは何も変わらない。


「牡丹。そこの箱を開けてごらんなさい。二人に贈り物よ」


 紫苑がこの小屋の隅に置いてある大きな収納箱を指差した。

 牡丹は言われるがまま、収納箱の元まで行き恐る恐る箱の蓋を開けその中身を確認し、そして、そっと蓋を閉めた。


 箱の中身が想像だにしないもので、牡丹が混乱した顔で私と紫苑の顔を見比べる。


「あの、見てはいけないものが……」

「開けなさい」


 紫苑に指示され牡丹が再度蓋を開き、その中身が箱からのっそりと出て来た。

 それは、この舞台の最後の役者である摂政・水仙だった。


「父上……」

「水仙様……」


 牡丹と百合は全てを聞かれていた事を悟り、絶望の表情で膝をついた。

 そんな二人を水仙は不思議そうな顔で見下げる。


「知らなかったよ二人がそんな関係だったなんて、早く言ってくれれば良かったのに」


 言えるわけがないだろう。

 その場の誰もが心の中でツッコミを入れたのではなかろうか。

 水仙はそのまま桔梗の元へ行き、桔梗の前で歩みを止めた。恐怖に目をぎゅっと閉じた彼の頭を水仙はわしゃわしゃと撫でた。


「桔梗は俺の子ではなく孫だったのだね」

「あの、父上……」

「これからは、おじいちゃんだよ」


 水仙は桔梗の頭をから手を離し、全体を見回した。


「で、俺はどうすればいいのかな?」


 誰からも返事が来ないため水仙は牡丹のと目を合わせた。ターゲットにされた牡丹は戸惑いながら首を傾げるだけだった。

 仕方ないので私が牡丹へ問いかける。


「太師、太師はどうしたいのですか? きっと伝わりますよ」

「お、俺は……」


 牡丹は考え込んだ後、意志を持った目で水仙を見た。


「百合を嫁に貰い、家族として暮らしたいです」


 水仙は穏やかな笑みを浮かべ、無言でゆっくりと頷いた。


「牡丹の子であれば直系だし私は問題ないよ」

「あ、ありがとうございます」


 牡丹は未だ信じられないようで、どこか夢見心地な表情で固まっていた。


「そうか、そういうことか……」


 水仙は顎に手をあて、目を丸くした。どうやら何かに気が付いたようだ。


「もしかして、牡丹が俺を暗殺しようとしていたのは百合と桔梗の事があったからなのか?」

「父上、気が付いていたのですか!?」

「ん?」

「え?」


 牡丹と水仙の間に微妙な空気が流れる。

 お互いの言っていることが上手く理解できていないようだ。

 牡丹が額に手をあて、考えを整理している。


「ちょ、ちょっと待ってください。父上は俺のその……あれに気が付いていたのですか?」

「確かに鈍い鈍いと言われているけれど、さすがの私だってあれだけわかりやすければ気が付くよ。ははっ」


 水仙は毒気の一切ない笑顔を牡丹に向けた。

 牡丹は頭を抱えて“あー”とうめき声を上げていた。どうやら牡丹は謀略には向かないタイプのようだ。

 ただ一人を除いてその場にいる皆が牡丹に哀れみの視線を向けている。

 百合だけは頬を紅潮させ牡丹の失態を「あら、まぁ」と、どこか楽し気に見ていた。

 どうやら彼女はヘタレ萌属性があるようだ。


 今度、水仙は牡丹から百合と桔梗の方へ話題を移した。


「百合。お前の実家が俺との縁談のために叔父貴に積んだ金を返そう。それならお前の家も納得するだろう」

「そんな! そこまでしていただくわけには」

「いいんだよ。全部私のせいだ。仕事場に籠り切りで家族との交流をないがしろにした私に原因があるのだから」

「水仙様……」


 水仙は皆を見渡し、最後に紫苑へと視線を向けた。紫苑は水仙と目が合うとふいっと顔を反らしてしまう。二人の間にはまだ何か溝があるのかもしれないが、それは私が関わることではない。


「百合。牡丹との婚姻は認めるが、あと一人男を産んでもらう。桔梗は予定通り雪羅へ婿にやるから、牡丹の跡取りが欲しい」

「はい。努力します」

「それが出来なければ、牡丹には第二夫人を貰ってもらうよ」

「わ……わかりました。か、必ず」


 百合は水仙の言葉を鎮痛な面持で重く受け止めたようだ。

 牡丹に側室など嫉妬深い百合がそんな事に耐えられるとは思えない。


「桔梗」

「はい。お……おじいさま」


 桔梗は水仙を爺と呼ぶのを照れくさそうにしている。

 慣れ親しんだ呼び方以外で呼ぶのは緊張するものだ。


「君と雪羅の婚姻の儀は近々盛大に挙げる予定だ。気持ちの準備をしておけ」

「は……はい」


 桔梗と雪羅は遂に結婚するのか。

 雪羅はどう思っているのか気になるな。


「でも良かったよ。これで牡丹にも妻ができるし、跡取りもいる。後は桔梗と雪羅の子と婚姻を結ぶ子供をどうするかだが……まあ、金雀枝のところに何人かいるから、大丈夫だろう」


 水仙は日頃の悩みが解消されたのか、すっきりと爽やかな面持ちでいた。

 私はこの時、水仙の事をほんの少し怖いと感じた。


「柚子葉さん……ありがとう。君のお陰で家族の事を色々と知る事ができた」

「いえいえ、私なんてここに人を集めたくらいですから」

「何かお礼をしないといけないね。何か欲しい物はあるかい?」

「では、私の事を白銀雪殿で雇ってもらえませんかね?」

「君を? 私は構わないが……」


 水仙は少し困惑した表情で牡丹に視線を向けた。

 牡丹も特に異論がないようで、肯定するように頷いた。


「よし、決まりだ。牡丹もいいと言っているし構わないよ」

「ありがとうございます」


 これで私は白銀雪殿を自由に行き来できるようになり、より多くの情報と触れ合うことができるだろう。

 雪羅とももう一度会う事が叶うかもしれない。


 そして、その場は大団円に終わり、去る者は去り、その場には私と金雀枝だけが取り残された。


「内府は帰らなくていいのですか?」

「金雀枝。敷地の外ではそう呼べ」

「あれは町中でお忍びだったからじゃ……」

「いいから」

「わかりました。金雀枝さん」


 金雀枝は嬉しそうに笑った。


「さすがに女の子一人置いては帰れないだろう」

「大丈夫ですよ。私はそこまでか弱くないですから」

「でも、さっきは百合の女官の魔法にやられていたろ。魔術の心得のある山賊や物取りに襲われたら危険だ」

「あれは……いえ、そうですね。金雀枝さん、助けてくれてありがとうございます」


 彼はあの家とは合わないのではないだろうかと少し心配になる。あの家で過ごすには金雀枝は優しすぎるのではないだろうか。


「金雀枝さんが私に声を掛けたのは、白姫様の嫉妬から私を守るためなのでしょう。そして今いる奥様方もみな牡丹の嫁候補だったのではないでしょうか」

「最初はね。でも俺はみんなを変わらず愛しているよ。黄梅は気が強くて自尊心も高くて怒られる事も多いけれど、たまに甘えて来てその差がすごく可愛くて愛しいし、甘菜は一見儚げなのだけれど芯が強くて明るい子で、いつも彼女に会うととても元気になれる。雛罌粟は何でもすぐに顔に出て俺の女関係を嫉妬して頬を膨らませるのだけれど、その素直さにとても可愛らしくて癒されるんだ。薊は奔放で俺にまったく振り向かないのだけどそこがまた魅力的でね」


 金雀枝は嫁達の話を破顔して話してくれた。

 彼は案外ハーレム向きの性格なのかもしれないな。博愛主義の平和脳は私は嫌いではない。


「金雀枝さん。そういえば私、四の姫様に頼まれごとをされていて……聞いていますか? 金雀枝さんと陶器を買いに行って欲しいと言われたのですが」

「聞いているよ。今、薊は実家に帰っていてね。自分で行きたかったが間に合わないから俺に代わりに買いに行けとさ。しかも俺だけだと趣味が悪いからお前を連れて行けだと」

「そういう事だったのですか」


 私に貴族の喜ぶ陶器を選べるのだろうか心配だけれど、金雀枝と一緒ならなんとかなるだろう。

 私達はそれから緩く雑談を続けた。金雀枝が家族の事を話し、私がそれを興味深く聞く。

 そこで私は金雀枝の母が魔法に詳しいという事を耳に挟んだ。


「黄姫様は魔法に精通なさっているのですか?」

「そうだな。俺はさっぱりだが、あの人は元々魔術師の家系だからな」


 金雀枝はその後、嗜み程度には刀も魔法も使えるが、とてもじゃないが実戦で使える程の実力はないと自嘲気味に付け加えた。

 そのせいで、脳筋の牡丹に勝てたことは一度もないらしい。


「あの、黄姫様とお話しさせて欲しいのですが」

「……まあ、いいけれど。どうかしたのか?」

「最近魔法について調べるのにハマっていまして」

「そうなのか、それならいつでも屋敷に来い。あの人は大抵暇をしているからな」

「ありがとうございます」


 私が満面の笑みでお礼を言い彼の手を握ると、金雀枝は少し照れ臭そうに鼻を掻いた。



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